が・・・、がいなくなった・・・!!」

「おじいちゃん、何言ってるの?遊びに行っただけじゃ・・・」





ちゃんがいなくなったと言って慌てるおじいさん。
確かにの言うとおり、ちゃんは昨日の夜まではいたんだ。
朝に姿を見せなくなっただけで、なぜこんなに慌てるのか。理由がわからない。





「今朝、が出かけるのを見た。いつもどおり、外へ遊びに行ったのかと・・・
だが、そのすぐ後部屋に戻ると私の部屋が散らかっていて・・・あの場所への地図が・・・無くなっているんだ!」





"あの場所"というのが、何処を指しているのか。それは俺たちにだってわかる。
場の空気が凍りつき、将もも青ざめた表情で言葉を失った。











鈴の音に夢を見る












「なんで地図なんて部屋に置いてたの?!」

「・・・昔から伝えられているものだ。おいそれと捨てるわけにもいかないだろう。」

「でも・・・」

「しかしどうして急に・・・こんな・・・」

「・・・ごめん、俺たちのせいだ。俺たちがちゃんに話を聞いたりしたから・・・!」

「違う、僕が理由も言わずに追い出したからだよ・・・。たぶん意地になって、自分で確かめに行ったんだ。」

「怖がりのくせに・・・バカ・・・」

「僕が迎えに行って来る。皆はここで待ってて。」

「俺らも一緒に行くよ!今日行くつもりだったんだから、一緒に追ってちゃん連れ戻そう。」

「・・・うん!」

「・・・・・・将!!」





事態は急転し、俺たちはちゃんの後を追って洞窟に向かうことになる。
結果、将を巻き込まないわけにはいかなくなってしまったけれど。





「ごめん。言い伝えの洞窟と・・・のこと、彼らに話したんだ。」

「知ってる。」

「そっか・・・。今、聞いただろ?皆一緒に来てくれるっていうから・・・はおじいちゃんと家で待ってて?」

「・・・。」

「わざわざ自分から怖い思いをすることなんてない。」

「・・・私も、行く。」

?」

「私だってが心配だから。」

「でも・・・」

「行く。」

「・・・わかった。絶対に僕の傍から離れないで。」





が小さく笑みを返す。
将もそれを頷きととり、同じように穏やかに笑う。

そして俺たちはすぐに準備を整え、将との案内で、洞窟のある森の中へ向かった。





「こんなところに・・・」





距離としてはそれほど遠いわけではない。俺たちも親父を探すために、この付近は周っていた。
けれど、木々に隠されたように存在するその洞窟は一見するだけではわからない。





ちゃん、本当に中にいるのか?」

「親父も、こんなところに迷い込むなんて、ちょっと考えづらいかも・・・。」





入り口近くならば雨風を防ぐには丁度良さそうだけれど、奥は真っ暗でここからでは何も見えない。
洞窟なんてあまり見ることもないからか、寒気というか不気味な感じがする。
親父が道に迷ったとして、普通ならばわざわざ奥へと進んではいかないだろう。





「僕も、来たのは初めてなんだ。のことがあって・・・場所は知ってたけど、来ることを禁止されてたから・・・。」

「そうなんだ・・・。」

「どんな怖いところかと思ってたけど、なんだか落ち着く場所だね。」





思わず将を凝視してしまった。俺とまったくの正反対の意見。
英士も一馬もそう思ったようだ。育った環境が違えば、感覚も違うのだろうか。












シャラン・・・





「え・・・?」





シャラン・・・シャラン・・・





「嘘だろ・・・?何これっ・・・」





聞こえてきたのは、鈴の音だった。
こんな誰もいないような洞窟から、頭に直接響くように聞こえる、美しい音色。





「岩がこすれてるとか、風が通ってる音じゃ・・・」

「俺は詳しくないけど、こんなにはっきりとした音が鳴るものなの?」

「じゃあどこから鳴ってるんだよ?!」





言い伝えを思い出して、体が強張る。
だってただの言い伝えだろ?
村の人は信じているんだろうけど・・・そんな現実味のないこと滅多に起こるものじゃないはずで。

けれど、今、俺たちの耳には確実に鈴の音が届いてる。





「・・・それなら中に人がいるんじゃない?」

「でも、誰も近寄らない場所に人なんて・・・」

「あ、ちゃんかもしれないよな!」

「わざわざ鈴を持って?」

「大丈夫なのかよ?中に誰かがいるかなんてわからないだろ?
ちゃんでも、おじさんでもないかもしれない。」

「行きましょう。」





混乱して意見のまとまらない俺たちを横目に、が率先して洞窟に向かって歩き出した。
すぐに将が彼女を追いかけ、俺たちもその後に続く。





は外で待ってなよ。僕らが確かめてくるから・・・!」

「私は大丈夫。それよりもはやく行きましょう?」

「大丈夫じゃないだろ?そんな顔して・・・!」

「・・・そんな顔?」

「そんなつらそうな顔してまで無理しなくていいんだ。」

「・・・。」

「この先、何もないかもしれない。でも、何かあるかもしれない。
危険な目にあわせたくないんだ。わかって、。」

「だめ。」

「・・・?」

「だめだよ、将。私も行かなくちゃ。」





はこの洞窟が怖かったはずだ。
だから、その話題に触れないよう、俺たちにここを知られないよう振舞っていたのは彼女自身。
なのに、ここまで無理についてくる理由は何だ?
将がここまで言っているのに、の意志はかたい。





「・・・外で一人で待ってるのなんて、性にあわないもの。」

〜・・・」

「守られるタイプじゃないんだな、。せっかく将がかっこいいこと言ったのに。」

「私がそんなタイプに見える?」

「ううん、いろんな意味で強そう。」

「どういう意味よ。」





真っ暗な洞窟は不気味ではあったけれど、持ってきていた明かりでそれほどの恐怖心は感じなくなった。
割と広く迷うことのなさそうな単純な道、人数が大勢いたということもあったのだろう。





シャラン・・・





けれど、少しずつ大きくなっていく鈴の音だけは、緊張感を無くさずにはいられない。
中に人がいて、いたずらで鈴を鳴らしている。そんな想像を持ちつつ前に進む。





「・・・か・・・」





そして、聞こえた声。





「・・・か・・・けて・・・」





俺たちは喋るを止めて、耳を澄ます。





「だれ、か、たすけてええっ・・・」





泣きじゃくっているような、かすれた声。
裏返ったその声は、まるで絞り出したかのように叫ばれたものだった。

俺たちはそれを聞くとすぐに、声の元を目指し、目の前の道を一気に駆け抜けた。



そして、たどり着いた先には、





「・・・う・・・ふえっ・・・うわああんっ・・・!」

!!」





泣きじゃくるちゃん。





「親父!!」





気を失ったまま、今にも何かに取り込まれそうになっている親父の姿。



何だあれは?血のような赤い液体が親父の体を包み込もうとしている。



そして、その液体の元は、土色に染まった大きな鈴。



現実離れしたその光景に、目を背けまいと、震えを止めようと必死だった。









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