「言い伝えの鈴が祀られている場所があるの。」





そういうとちゃんは、周りに誰もいないかと確認し、俺たちのいる部屋に入る。





「誰も教えてあげないなんてひどいよ。結人くんたち、こんなに必死に探してるのに。」

ちゃん、その場所って・・・?!」

「・・・それは、私も知らなくて。お兄ちゃんやちゃんは知ってると思うけど・・・。」

「・・・そっか・・・。」

「でも、その場所があるのは嘘じゃないんだよ!大人の人たちが話してるの、聞いたことあるもん!」





俺たちには時間がない。そして親父だって、今どんな状態なのかわからない。
その場所に親父がいるのかさえわからないけれど・・・俺たちは顔を見合わせて頷いた。












鈴の音に夢を見る














「お帰り。将、。」

「うん、ただいま。」

「遅くなってごめんね。ご飯、もう食べた?」

ちゃん、その前にお話があるの。」





何か用事があると言って、家から出ていた将と
ちゃんの言葉に二人は首をかしげつつ、俺たちの前に座った。





「かしこまってどうしたの?おじいちゃんは・・・っと、会合があるんだっけ。」

「お兄ちゃん、ちゃん。結人くんたちに、鈴のある場所を教えてあげて!」

「・・・え?」

「知ってるんでしょう?結人くんのお父さんが鈴の音を聞いたっていうんなら、
そこに連れていかれちゃったのかもしれない!はやく助けてあげなきゃ・・・!」

「・・・。それはただの言い伝え。そんなものどこにも・・・」

「嘘だよ!私、おじいちゃんたちが話してるの聞いたことあるもん。どこかに祀られてる場所があるんでしょう?」

・・・」

「お父さんやお母さんがいなくなるって、とても寂しいことなんだよ?
お兄ちゃんもちゃんも、それを知ってるはずなのに・・・!」





正直、この村の言い伝えどおりに親父が連れていかれたとは思っていない。
けれど、俺たちは強力な味方を見つけたようだ。問い詰める妹の姿に、二人とも戸惑っている。
それと同時に、ちゃんの言葉の意味にも気づく。の両親は亡くなり、ここに引き取られたと聞いた。
そして、保護者と呼べる人がおじいさんしかいないこの家。将とちゃんも・・・同じなのだろう。





「・・・、部屋に戻るんだ。」

「お兄ちゃん!」

「戻って。」

「だってわたし・・・」

「戻れって言ってるだろ!」

「!」

「鈴なんてない。言い伝えだって所詮は迷信に過ぎない。
信じるのは勝手だけど、それで周りを振り回すな。」

「・・・うっ・・・う・・・うわあああん!!」





ちゃんは涙を浮かべ、部屋から飛び出していった。
今まで穏やかだった将に、こんなにすごまれたら俺だって逃げたくなりそうだ。
けれど、それは逆に、ちゃんの言っていたことが本当だと、何かあるのだと現しているとも言える。





「・・・将。」

を・・・頼んでいい?」

「・・・う、うん・・・。」

「ごめんね。」





はこの場に居たそうだったけれど、将の笑顔がそう言わせなかった。
ゆっくりと立ち上がると、ちゃんの後を追うように部屋を出て行く。

を見送って、将は俺たちに向き直る。





「・・・ずっと、言うかどうか迷ってた。」

ちゃんの言ってた話?鈴は本当にあるんだね?」

「うん、村人しか知らない場所に。」

「頼む!教えてくれよ将!そこに親父がいるかもしれないだろ?!それとももうそこは調べたのか?!」

「・・・村人は近づかないから、まだだろうね。」





なぜ、と疑問が頭を過ぎった。村人たちは心当たりはすべて探していると、そう言っていた。
その場所がどれほど遠いのかは知らないけれど、何かを祀るような場所ならば、
森で迷った親父が、雨風をしのぐために使っているかもしれないじゃないか。





「言い伝えを信じて、喰われるって思ってるから?それなら俺が行く!」

「違うんだ。」

「何が?他に理由があるのかよ!」

「迷信じゃないんだ。」

「・・・え?」

「言い伝えの鈴は、本当に人を喰う。」

「・・・な、何言ってんだよ・・・。そんなことある訳ねえだろ?」





あまりにも現実離れした言葉。そんな迷信よりも、早く場所を教えろって、そう言おうと思ったのに。
将があまりにも真剣で、あまりにもつらそうな表情だったから、それ以上何も言えなかった。





「・・・あの場所に向かった人は、皆消えてる。」

「・・・何、それ・・・」

「僕らの会っていない、外部の人は知らない。だけど、あの場所で人は消えていることは本当なんだ。」

「それって、言い伝えに関係してるの?たまたま事故や偶然が重なっただけじゃ・・・」

もなんだ。」

「え?」

がここに来た理由は、あの場所で親を亡くしたからだよ。」

「!」

にはその時の記憶がないけど・・・ボロボロの姿で、両親が突然いなくなったって村にやってきたんだ。
後で場所を聞いて、それが鈴の在る場所だってわかった。他に家族もいなくて、頼る人もいなかった
おじいちゃんが引き取った。鈴のことを外部に漏らされたくないっていう考えもあって、村でもそれを受け入れた。」





信じられなかった。だって、いきなりそんな話をされたって、信じられるわけないだろう?
英士が言ったように、偶然が重なっただけで、村の人皆が言い伝えに踊らされているんじゃないかって。





「僕だって半信半疑だった。でも、昔からずっと聞かされてた。そしてもそれに巻き込まれた。
そんな場所に君らを連れていくわけにはいかない。」

「・・・せめて、確かめるくらいさせてくれよ!
そこに親父がいないのなら、俺らだってそれ以上無理言ったりしないから・・・!」

「・・・どうしてもって言うのなら、僕が行く。僕の方が村のことも、森のこともわかってる。」

「将一人で行かせられるかよ!俺も一緒に行く!」

「もちろん、俺も。」

「俺も行く!」

「・・・本当に、脅しでも冗談でもないんだ。それでも?」

「正直、俺だけだったらびびってたかもしれないけど、一人じゃないもんな!」





実際に自分に起こったことじゃない。真実味なんて感じられない。
けれど、なぜか寒気が襲う。将が気迫に感化されてしまったのだろうか。





「・・・それから、には内緒にしてね。僕がのことと、鈴のことを話したこと。」

「わかってる、けど・・・内緒にしたらまた怒られるんじゃねえの?」

、言い伝えの話をするの嫌がるんだ。記憶にはないんだろうけど、怖い思いをしたんだと思う。
その話が出るたび、絶対に行くなって。悲しそうに言うんだ。」

「・・・。」

にはいつも笑っていてほしいからさ。余計な心配かけたくない。」

「・・・そっか。」





優しく少し顔を赤らめて笑う将の表情を見ていると、同時に将を心配しているの姿も浮かぶ。
ここに来てほんの少しの時間しか経っていないというのに、そんな俺でもわかるほど、お互いを大切にしているのが伝わってくる。





「いいな、将は。」

「え?」

「可愛い彼女が大切にしてくれて!」

「か、彼女って訳じゃ・・・」

「でも、好きなんだろ?」

「・・・うん。」





照れながら、顔を赤くしながらも、迷うことなくはっきりと。
はじめは姉弟かと思ったのに、結構似合ってるよななんて考える。





そして将は次の日の朝に鈴のある場所、森の中の洞窟へ案内すると約束してくれた。
向かえば消えると、迷信ではないとはっきりと告げられた場所。
そこに親父はいるだろうか。無事でいてくれるだろうか。

言い伝えを信じているわけじゃない。今でもただの迷信だと思っている。
けれど、一度感じた寒気と恐怖感は消えることがなく、俺は今日もなかなか眠ることが出来なかった。









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