「やっぱりここにいた。」 「どうしたの?こんな時間に。」 「それはこっちの台詞。いくら村の人しかいないからって、こんな夜中に一人で出かけたら危ないよ。」 「心配性。」 「普通だよ。」 家の明かりはすっかり消え、そこにある光は月明かりしかない。 暗闇の中でたくさんの木々がざわめき、同時にそこにいる二人の髪を揺らす。 少年の言葉を耳にしつつ、そこから動く様子のない少女の隣に、彼は慣れたように座った。 「眠れない?」 「別に・・・少し夜風にあたりたくなっただけ。」 「・・・そう。」 「だから心配しないで先に戻っていいよ。」 「ううん、僕ももう少しここにいたいから。」 少女は少年を一瞥し、何も言わずに視線を元に戻した。 月明かりの下、少女が見ていたものは目の前に広がる森林か、それとも別のものだったのか。 「もうすぐ、1年だね。」 「ん?」 「がここに来てから。」 「・・・そうだね。」 「ここでの生活も慣れた?」 「ええ?何を今更。」 「ずっと思ってたんだ。僕はここ以外の世界を知らないから・・・ 君に悲しい思いやつらい思いをさせていても、気づかないのかもしれないって。」 「・・・。」 「この村に来たこと、後悔してない?」 目をそらすことなく、正直な言葉を投げかける少年に応えるように、 少女もまっすぐに彼を見つめた。 「してないよ。」 「・・・本当に・・・?」 不安げな表情を浮かべる少年にむけて、小さく、優しく笑う。 「後悔なんてしない。今までも、これからも。」 迷うことなく告げられた言葉に、少年もまた笑顔を浮かべた。 「私の心配より自分の心配が先じゃない?」 「え?何で?」 「夜中に出歩いて、草に足をとられて転んだりしないように、とか。」 「え?ええ?見てたの?!」 「私よりも将の方が危なっかしいよね。」 「そ、そんなことは・・・」 「あははっ、冗談。頼りにしてるよ。」 立ち上がった少女は少年の手を引き、二人は小さな明かりの中を並んで歩く。 つながれた手は離れることも、それ以上に近づくこともなかった。 穏やかな時間は止まっているようにゆっくりと、けれど確実に流れていく。 TOP NEXT |