好きだよ。
ずっと、ずっと。
誰よりも、想ってた。
想い
いつもの帰り道の中、私たちに言葉はなかった。
何かを考えるかのように、ずっと無言でいた克朗の言葉を私は待っていた。
「・・・。」
「ん?」
帰り道を半分ほど歩いたところで、初めて克朗の声が聞こえた。
私を呼ぶその声に、いつものように返事を返す。
「と・・・話したのか?」
「・・・ああ。うん。ちょっとね。
何だかちゃん、いいように解釈してたね。私は特に何もしてないよ?」
ちゃんの告白など、何とも思っていないかのように。いつも通りに。
そんな私を見て、克朗は少し戸惑いながら、それでも言葉を続けた。
「・・・・・・俺は・・・。」
「・・・うん。」
その先の言葉は、もうわかっていた。
それを言うのはつらいよね克朗。私を傷つけるとわかっているその言葉。
優しい貴方だから、自分も傷つくのだろう。
だけどね克朗。
言ってほしい。本当の気持ちを。
本当の気持ちを誤魔化すのは、私も克朗もつらいだけだから。
「俺は・・・のことが、今でも好きだ。」
それは痛いほどに、わかっていた想い。
「忘れようとしても・・・ずっと忘れることができなかった。」
貴方の心を捕らえて離さないのは、ちゃんだけだった。
「お前は俺を想ってくれていたのに・・・それでも俺は・・・」
私はいつまで経っても幼馴染のままで。
「俺が好きなのは・・・なんだ。」
私に対する貴方の些細な変化が、本当に嬉しかった。
少しでも前に進めたなら、可能性は0なんかじゃないって。そう思っていた。
いつか、いつか貴方が私の想いに応えてくれるんじゃないかって。
そんな願いを思い描いて。
「克朗。」
ずっと想ってきた、ずっと望んでいた貴方の名前を
誰よりも愛しい、貴方の名前を呼んで。
その大きな体に触れる。
その胸に飛び込んで、力いっぱい抱きしめる。
貴方の温もりを感じる。
「・・・好きだよ。」
貴方の胸に顔を埋めて。
克朗の表情は見えない。
それでも私は言葉を続けた。
それは貴方へ伝える、最後の想い。
「サッカーをしてるところも、意外と負けず嫌いなところも。
妙に落ち着いてて高校生らしくないところも、努力家なところも。完璧に見えて不器用なところも。」
「ずっと、ずっと・・・大好きだった。」
ずっと一緒にいたかった。
貴方の隣で笑っていたかった。
それだけで私は、幸せだった。
欲しかったのは、貴方だけだった。
「ねえ克朗。」
でも、それでも思うんだ。
「最後に・・・抱きしめてくれないかな。」
貴方の隣にいる自分の幸せを願うのと同時に
「・・・・・・。」
貴方の幸せも、願わずにはいられない。
「最後くらいは幼馴染じゃなくて・・・女の子として見てくれると嬉しい。」
貴方の笑った顔を、望まずにはいられない。
私の体を温かい腕が包む。克朗のしっかりとした腕が私の背中にまわされて。
ずっと求めた温もり。求め続けた想い。
貴方が好きだよ。
行かないで。
離れないで。
側に、いて。
そのとき心を巡っていた言葉を、声にすることはなかった。
貴方を苦しめることになるのは、わかっていたから。
だから、代わりに。
「ありがとう。克朗。」
私を傷つけることで、自分が苦しむことがわかっていて。
それでも本当の想いを話してくれて。
私の想いを聞いて、それでも側にいることを許してくれて。
大切に、思ってくれて。
「俺の方こそ・・・ありがとう・・・・・・」
耳元で聞こえる克朗の低くて、優しい声。
謝る言葉ではなく、感謝の言葉を告げてくれる彼をまた愛しく思う。
もう一度彼の体を抱きしめて。その温もりを噛み締めて。
そして私は、彼の体から自分の体を離した。
「ひとつ、約束。」
私を心配そうに見る克朗に精一杯の笑顔を向けて。
「絶対、幸せになってよね。」
克朗が目を見開いて、私を見る。
そして、しっかりと頷いた。
「ああ。も・・・もきっと・・・」
克朗が言葉につまって。
私に告げていい言葉なのか、迷ったようだ。
優しい克朗らしい。
「私も絶対幸せになるよ。」
言葉につまった克朗の言葉を補うように。
私は笑って答えた。そしてようやく克朗も小さな笑みを浮かべた。
「克朗も祈ってて。大切な『幼馴染』の幸せなんだから。」
好きだった。
大好きだった。
ずっと側にいた、誰よりも愛しい人。
貴方を幸せにするのは、私でありたかった。
たとえ、この想いが叶わなくても。
私じゃない誰かが
貴方の愛するその人が
貴方を幸せにしてくれることを願うから。
誰よりも愛しい貴方。
けれど。
これからは『大切な幼馴染』として願っていくから。
ずっと、ずっと。
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