告げられたその想い
ねえ、私も想っていたよ。
同じ想いを願っていたよ。
想い
「・・・じゃあ私は先に帰ってるよ。」
ちゃんの言葉を聞いて、様々な想いが私の中を巡る。
それでも冷静に、二人に言葉を告げた。振り返りその場を去ろうとすると、ちゃんの声が響いた。
「待ってちゃん・・・!ちゃんにも・・・聞いてほしいの・・・!」
「・・・?!」
何を・・・言ってるんだこの子は。
自分がこれから克朗に何を言うのかわかってて・・・そんなことを言っているの?
私の気持ちをわかっていて・・・
「私の背中を押してくれたちゃんに・・・聞いていてほしいの。」
「!」
克朗が驚いたように私を見た。
そうか。私の気持ちを知るはずがない。
知られないように、私がしていたんだから。
何度も問われる克朗との関係を、ずっと否定し続けてきたんだから。
ちゃんにとって私は、克朗の幼馴染。
克朗も、私自身もずっと彼女にそう言ってきた。
だから彼女もそれを信じている。
どんなにお互いを大切にしていても、そこに恋愛感情があるだなんて思っていない。
「背中を押してなんて、ないよ・・・?」
「それでも・・・私にとっては・・・たくさんの勇気をもらえたの。だから・・・!」
応援していたわけなんかじゃなかった。
それはちゃんの姿に重ねた、自分への言葉。
それどころか、克朗がちゃんへの気持ちを忘れていればと、そう思っていた。
傷ついたちゃんのことよりも、自分の想いが叶えばいいと願っていたのに。
「・・・わかった。」
「ありがとうちゃん。」
私とちゃんの会話を眺めて。
克朗は疑問と困惑が入り混じった、複雑な表情で私を見ていた。
私は克朗に視線をあわせず、少しだけ俯いてちゃんの次の言葉を待った。
「・・・渋沢くん。」
「あ、ああ。何だ?」
「私・・・。」
「貴方のことが、好きです。」
克朗が目を見開く。
全く予想もしていなかった言葉だとでも言うように。
いくらちゃんに呼び止められたとはいえ、こんな言葉が聞けるとは思ってもみなかったんだろう。
私は無言のまま、ただ二人を眺めていた。
まるで現実ではないかのような、ぼんやりとした頭の中で。
けれど、しめつけられたかのような胸の痛みは、それが現実であることを物語っていた。
「・・・な、何を・・・言って・・・?」
「ずっと、ずっと・・・渋沢くんが好きでした。諦めようと何度も思ったけれど・・・できなかった。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・!お前は俺が好きではなくなったと・・・。」
克朗が混乱した様子で、ちゃんに問う。
当然だ。彼女の気持ちが離れたからわかれたというのに。
その彼女が克朗を「ずっと」好きだったと言っている。
あんなに想っていた彼女が、今も自分を好きだと言っている。
「いっぱい傷つけて・・・本当にごめんなさい。全部、私の弱さが原因だったの。」
「・・・弱さ?一体何が・・・。」
「・・・それは・・・今は言えない。」
ちゃんの言葉を聞いて、克朗はそれ以上彼女を問い詰めなかった。
彼女の表情があまりにも切なそうだったから。
私にはそれを告げられないちゃんの気持ちはわかっていた。
私たちのせいでいじめられていたのならば、それを本人になど言いたくはない。
克朗は間違いなく、そのことを気にするだろう。責任を感じるだろう。
それを知った克朗なら、同情で付き合うこともあるのかもしれない。
けれどそれでは意味がない。欲しいのは克朗の本当の気持ちなのだから。
「でも、これからは何でも話すから。」
「・・・。」
「楽しいことは一緒に楽しみたい。」
ねえ私も
「苦しいことは、一緒に悩みたい。」
私も、そう思ってた。
「たくさんのこと・・・一緒に考えていきたい。」
ずっと、ずっと。
「どんなことがあっても、渋沢くんとずっと一緒にいたいの。」
誰よりも強く。そう、願っていたよ。
ちゃんの言葉を聞いて、克朗は言葉を失ってその場に立ち尽くしていた。
その言葉が現実であることが信じられないように、驚いた表情で。
それでも彼女の言葉は本当で。
克朗が望んでいたものは、望んでいた想いは目の前にある。
「お・・・俺は・・・」
迷うように、克朗が言葉を紡ぐ。
・・・ようやく出た言葉の続きは少しの時間を置いても聞こえてこなかった。
「・・・いいよ渋沢くん。答えはいつでもいいから。
私は・・・気持ちを伝えられればそれでいいから・・・。」
「・・・っ・・・。」
「私、今まで逃げてばかりいた。だから、もう逃げたくなかったの。」
「・・・・・・」
「どんな答えでもいいよ。覚悟は出来てるから・・・。
ありがとう。話を聞いてくれて。」
そう言って笑う彼女の笑顔。
いつも俯きがちな彼女の笑顔は、とても清々しかった。
あんなに弱かった彼女が、臆病だった彼女が
たくさん泣いて、傷ついて、迷って。
ようやくここへ辿りつくことができたんだろう。
克朗の側にいたいと思う、克朗へ気持ちを告げたいと願う
その言葉を克朗へ告げる覚悟を、ようやく持つことができたのだろう。
最後に笑顔を残して。
ちゃんはその場を去っていく。
克朗は声をかけようと手を伸ばすが、その手は空を切って。
その手で拳を作り、ぎゅっと握った。
バカだよね克朗は。
アンタの考えなんて、私はわかってるのに。
克朗がちゃんに伝えたい気持ちも、わかってる。
それを告げられなかった理由も、わかってるよ?
ねえ克朗。
克朗の一番近くにいたのは私。
そして
私の一番近くにいたのも貴方だから。
私の性格も、想いも、願うことも。
克朗なら、わかるでしょう?
どうか私の想いを重荷にしないで。
どうか自分に、私に、嘘をつかないで。
TOP NEXT
|