誰よりも一番側にいた。
誰よりも貴方を、想っていた。
だから、わかる。
誰よりも、貴方の想いを。
想い
「こんにちは。」
「あらちゃん。どうぞあがって?克朗なら自分の部屋にいるから。」
「はい。お邪魔します。」
昔から付き合いのある克朗の母親は、突然やってきた私に用件を聞くでもなく、
当然というように克朗の居場所を告げた。
私は軽く会釈をして、2階にある克朗の部屋へと向かう。
あれから数日。
私たちの関係に変わりはない。
ちゃんが動くことはなく、克朗がちゃんの想いを知ることはない。
もちろん私も・・・あの日のことを告げることはなかった。
コンコン
克朗の部屋の前まで来て、軽く扉をノックする。
・・・が、返事が返ってこない。もう一度叩くがやはり何も反応はない。
「・・・克朗?」
静かに扉を開け、見慣れた克朗の部屋を眺める。
そして自分の机に突っ伏して眠る克朗の姿を見つけた。
「何だ。寝てたんだ。」
克朗が扉のノックの音に気づかないなんてめずらしい。
よっぽど疲れているのか。けれど、眠っている彼を起こしてしまうことにならなくてよかった。
克朗に会いに来た表向きの理由である、借りていた小説を目のつきやすい場所へ置く。
こんなものを返すのはいつだってよかった。わざわざ休みの日を選ばなくても。
けれど私は不安で。
ちゃんと話したあの日から、ずっとずっと言いようの無い不安が消えなくて。
部活もなく、何の予定も決めていなかった日曜日。
一人で家にいると、いろいろなことを考える。考えなくてもいいことまで頭の中を巡る。
たくさんの考えが、想いが私の中を巡って。苦しくて。
ただ、貴方に会いたくなった。
「・・・。」
私は無言のまま、机に突っ伏して眠る克朗の横に立つ。
静かな寝息をたてて、机に広げられていたのは大学ノート。
サッカーのフォーメーションや、自分への課題、対策が書き綴られていた。
克朗が中学のときから続けている習慣だ。
休みの日までサッカーのことを考えて。本当にサッカーバカだよね。
そんなことを思って小さく微笑んだ。
顔にかかっていた克朗の髪に触れる。
久しぶりに見た克朗の寝顔。
いつもは大人びてるくせに、寝ている顔は何だか可愛い。
・・・ねえ克朗。
克朗はまだ、ちゃんが好き?
私のこと、少しは意識してくれるようになった?
もし今もう一度私が想いを告げたら・・・迷ってくれる?
貴方に伝えたい言葉がある。
聞きたい答えがある。
ちゃんの想いを知った今でも思う。
克朗がちゃんへの想いを忘れてくれていたらと。
そして私への想いに変化があってくれたらと。
私はいつだって側にいる。
どんなことがあっても、離れたりしない。
貴方に幸せを与えられるのならば、どんなことでもするから。
だからどうか。
どうか私を・・・
「・・・ん・・・。」
克朗が体を動かし、何かを呟く。
目が覚めたのかと思ったがそうでもないようだ。
何だ、ただの寝言・・・
「・・・・・・・」
思考が、停止する。
伝えたいと思っていた言葉。
聞きたいと思っていた答え。
伝えなくても、聞かなくても。
しめつけられるような胸の痛み。
その、答えは。
次の日の放課後。
部活が終わった私たちを待っていたのは、覚悟を決めたように。
それでも緊張した顔で私たちの前に立つ、ちゃんの姿。
「し・・・渋沢くん・・・!」
その声はかすれていた。
その姿は震えていた。
それでも、克朗を見る瞳だけはまっすぐで。
「話が・・・あるの・・・。時間、もらえないかな・・・?」
驚いたようにちゃんを見た克朗は、一瞬戸惑って。
わかった、と一言だけ返した。
ねえ克朗。
ちゃんのことが好き?
答えは
わかっている。
わかって、いた。
誰よりも一番、克朗の側にいたんだから。
誰よりも一番、克朗の側にいたいと願っていたのだから。
誰よりも一番、痛いほどに。
貴方の気持ちを知っているのは、私だから。
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