答えなんて見つからないのかもしれない。





けれど、今はただ。















想い

















保健の先生とちゃんが乗った車を見送りながら、私も自分の帰路につく。
未だまとまらない頭の中で、様々な葛藤を繰り返しながら。





「よぉ。」

「・・・三上。まだいたんだ。」

「まだって何だよ。あの女どもは引き渡してきたぜ?感謝しろよ。」

「そう・・・。ありがと。」





私の様子を見て三上がため息をつく。
そのまま私の横に並び、一緒に歩き出した。





「お前・・・どうすんの?」

「・・・何が。」

「このこと、渋沢に言うのか?」

「・・・ちゃんがいじめられてたってこと?・・・言わない。私から言うべきことじゃないもの。」

「・・・じゃあ、の本心は?」

「!」





驚いて三上を見上げる。
彼はそのまま言葉を続けた。





「はっきり言って俺は腹立つぜ。ああいう甘えた考えの女。」

「何で・・・!」

「あの女たちを引き渡してすぐ戻った。悪いけどお前らの会話も聞かせてもらった。」

「・・・っ・・・。」

「お前は腹立たないのかよ。お前だって・・・元から何でも出来たわけじゃない。
元から強かったわけじゃねえだろ。いや・・・今だって強くなりきれてるわけじゃねえ。」





三上の言葉が胸に響く。
私も少なかれ、三上と同じ考えを持っていたからだ。
私だって努力したから、ここまで来れたんだ。
克朗と理想の二人と言われるまでに。私はそれだけの努力をしたつもり。

それに私は・・・どんな状況だって克朗に別れを告げたりしない自信がある。
ちゃんは周りの醜い感情に負けて、それを捨てたんだ。
怒りの感情がなかったわけじゃない。





「腹は立ったよ。だけど・・・困ったことにちゃんの気持ちもわかっちゃうんだ。」

「・・・。」

「克朗の側にいる為には、克朗に追いつかなくちゃって・・・私もそう思ってた。」





小さな頃、『幼馴染』という理由で側にいられた。
けれど、それが『恋人』となれば話は別のように思えた。
克朗と同じくらいに何でもできなければ、克朗の目にはうつらない。周りだって私を認めてなんてくれない。
克朗の側にいるために、恥ずかしくないようにしなければ。

だから貴方に追いつきたかった。
そして、ようやく追いついた。肩を並べるまでになった。
貴方の気持ちを置き去りにしたままに。

克朗の隣に誰もいなかったその頃。私は自然と克朗の隣に並ぶことができた。
けれど今はちゃんにとっては、私という存在がいた。
周りにすり込まれている、固定観念。それを崩すのは私以上に大変だっただろう。

けれど、大切なのはそんなことじゃなかった。
私でさえ、そんな簡単なことに気づかなかったのに
周りに振り回されてきたちゃんが、そのことに気づくはずもない。





「バカだよね。一番大切な気持ちを置き去りにして・・・。」

「ああ。バカだな。も・・・お前もな。」

「はっきり言うなぁ。まあその方がいいけどね。」

「・・・相変わらず素直じゃねえな。気張ってないで、泣きたいなら泣けば?」

「泣かないわよ。泣きたくも、ない。」





克朗を好きになって、私は何度涙を流しただろう。
自分は強いと、そう思い込んでいたのに。
その涙に、強くなんかなれていない自分を何度も思い知らされた。

だけど今は、泣かない。
泣く必要がないでしょう?私の想いはまだここにある。





「・・・あっそ。ま、泣きたいなら胸は貸してやるぜ?」

「アンタに胸なんか借りたら、後が怖いわ。」

「ったく。可愛くねえな。」





三上には言わないけれど、この帰り道が一人じゃなくてよかった。
彼の憎まれ口を私も同じように返して。いつも通りの自分でいられる。





「・・・三上は・・・言うの?克朗に。」

「・・・それもアリだな。それでアイツとがくっつく方が俺にとっては都合がいいし。」





相変わらず隠さずにはっきりと言う。
そんな三上の性格が少しだけ羨ましく感じた。





「けどそれじゃ・・・あいつらまたすぐに別れるだろ。それじゃ意味ねえし。」

「・・・どうして・・・?」

があの、甘ったれた考えを直さねえとどうにもならない。
それほど渋沢を想ってるのかは知らないけどな。」





三上の言っていることはつまり、ちゃんが自分で克朗に気持ちを伝えるべき・・・ということだ。
ちゃんがまた克朗と付き合いたいと思うならば、それはかなりの覚悟が必要だ。
そして、一人で戦わない決意も。全てを打ち明ける勇気も。

ちゃんは克朗の気持ちを知らない。
克朗はちゃんの気持ちを知らない。

私たちがそれを告げるのは簡単だ。
けれど、覚悟も決意もなしに彼らが付き合いだしたとしても、それはすぐに壊れてしまうだろう。





「だからお前も・・・何もしなくていいんだよ。」

「!」

「おせっかいなお前のことだから、いらねえことまで考えてるんだろうけど。
何も・・・する必要なんかない。自分のことだけを考えてればそれでいい。」

「・・・三上。」

「少しは俺を見習え。」





三上がからかうように笑って、私を見る。
そう言っている三上こそ、自分のことばかりじゃないくせに。
私のことも、克朗のことも理解して、背中を押してくれる。
彼だって苦しい想いをしていないはずがないのに。





「じゃあちょっとは見習って・・・たまには流れに身を任せてみようかな。」

「そうしろそうしろ・・・って大体お前は動きすぎなんだよ。だからおせっかいだって言われんだよ。」

「そんなこと言うの、三上しかいないし。」

「じゃあ俺だけがお前の本性をわかってるってことだ。」

「本性って何よ。腹立つなぁ!」





そんな言い合いを続けながら、やがて私の家の前に到着する。
ていうか三上は途中から別方向のはず・・・。話しているうちに気づかずここまで来てしまったのか。
というよりも・・・三上が気遣って送ってきてくれたんだ。





「じゃあな。」

「あ・・・三上・・・。」

「あ?」

「ありがと!」





その感謝の言葉は、様々な意味を含ませていた。
こんな一言で済むようなものではないけれど。それでも私と三上の間ではそれで充分だと思った。
私を一瞥して、不敵な笑みを残して。三上は来た道をまた引き返していった。

隣に見えるのは克朗の家。
克朗の部屋の窓から明かりが見える。
きっと明日のテストに備えて、勉強でもしているのだろう。

どうしたらいいのかなんてわからない。
答えが出せたわけじゃないけれど。
この先がどうなるかなんて、わからないけれど。



今はただ、変わらずに貴方を想っていよう。
隠されていたちゃんの想い。
消えることのないこの想いを、未だ収まらない葛藤を胸に秘めたままに。













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