私は貴方になりたかった。





優しくて強くて、皆に認められる





貴方のように、なりたかった。
















想い



















渋沢くんと私は付き合いだした。
それが知れた日、学校中が騒いだんじゃないのかってくらい、皆は衝撃を受けたようだ。
それはそうだよね。私だってまだ信じられないくらいなんだから。





「ちょっとさん!嘘だよね?」

「・・・え・・・あの・・・」

「はっきりしなよ!ていうか、こんな子を渋沢くんが選ぶわけないし!」





クラスの中でも地味で目立たなかったのに、私は連日質問攻めにあっていた。
渋沢くんも同じことになっているようだ。この様子だとさんもそうなのだろう。
けれど、そういったことに慣れている様子の渋沢くんは笑って周りをかわしてした。

私はと言えば、あまり人と話すことが得意ではないために
中途半端な返事しか出来ずにいた。けれどそれは逆に、質問する側を苛立たせていた。





「何これみよがしに渋沢くんを見てるわけ?」

「え・・・ちがっ・・・。」

「付き合ってなんかないんでしょ?だって渋沢くんにはさんがいるし。」





まるで確信しているかのように、クラスメイトが私を睨みながら言う。
私もそう思っていた。だけど渋沢くんははっきりと違うと、そう言ってくれたんだ。





「つき・・・合ってます。」

「・・・はぁ?!嘘つかないでよ!」

「嘘じゃないよ。本当なの。」





オドオドとしていた私が、はっきりと言葉を告げたことに驚いたようだ。
そう。自分でさえ信じられなかったんだから、しっかりと言わなくちゃ。
全員に認めてもらうなんて無理だ。だけど、逃げてばかりじゃ認められるどころか反感を買うだけ。

渋沢くんと付き合いたいと思う子はたくさんいた。
けれどさんという存在が歯止めになっていたことも確かだ。
皆が理想視して、皆が認めている二人。
その二人ではなく、私みたいな子が突然渋沢くんの隣にいるなんて、混乱して当然。
私も少しは強くならなくちゃ。渋沢くんのように。さんのように。
叶わないと思っていた想いが叶ったのだから。きっと私にだって・・・。





















「名前で・・・呼んでも構わないか?」

「・・・え・・・。」

「いや、嫌ならいいんだ!すまない!」

「ううん!嬉しい・・・!そう呼んでほしいよ!」





渋沢くんとの時間は思っていたとおりに、ううん。思っていた以上に幸せな時間だった。
時には嫌味のようなことを言われることもあったけれど、それでも私は幸せで。
いつまでもこのままでいたいと思った。この夢のような時間が続けばいいと。





そしてしばらくは、その夢のような時間が続いた。
私は他人とそんなに笑いあうことが少ない人間だったけれど
渋沢くんの前でなら自然でいられた。自然と笑顔になれたんだ。

さんとも知り合って、それまで話したことはなかったけれど本当に素敵な人だった。
綺麗で優しくて強くて・・・さんは私を応援してくれた。持った感情は憧れと羨望。
周りに言われる言葉はつらいものが多かったけれど、こんな人が応援してくれると思うと心強かった。
渋沢くんが大切な人だと言った意味もわかった気がした。





けれど、私への不満は日々増大していたようだ。
私はある日、同じクラスの女の子たちに裏庭に連れていかれた。
人数は3人ほど。囲まれて手を引かれて、逃げ場はなかった。





「ねえ?何調子に乗ってんの?」





服をつかまれて、壁に叩きつけられる。
硬い壁に当たった肩がズキズキと痛む。





さんと渋沢くんの邪魔になってるって何でわからないかなぁ?!」





次には足をひっかけられ、その場へと倒れこむ。
地面に手をついて、擦り傷ができる。





「とっとと別れろよ!」

「でも・・・私は渋沢くんと・・・!」





パンッ





頬が熱くなる。
それを皮切りに、お腹や背中を蹴られる。
痛い。痛い。どうして私が・・・?
あまりに釣り合わない彼と付き合ったことが、そんなにいけないことなの?





「別れるっていいなよ。渋沢くんだって迷惑してるんだから。」

「・・・いや・・・。」

「はぁ?!」

「私は渋沢くんが好き!どうして嘘をつかなくちゃいけないの?!」





殴られながら、それでも力いっぱい叫ぶ。
私の声に驚いた彼女たちは一瞬動きを止めるが、嘲笑を浮かべてまた私を殴った。














それから何度、彼女たちに呼び出されただろう。
行きたくなくても、彼女たちは仲の良い友達のフリをしては私を連れ出す。

見えない場所につけられる、たくさんの痣や擦り傷。
いつまでもたっても消えることのない、嘲笑や嘲りの言葉。
私はもう、限界を感じていた。










?最近元気がないな。」

「・・・そんなことないよ?」

「そうか。ならいいが・・・。何かあったら俺に言ってくれ。
力になれるかわからないが、話を聞くくらいはできるからな。」





そうやって穏やかに笑う彼が愛しい。・・・離れたくない。

私が今まで受けてきたことは、ほとんどが彼が部活へ行った後に起こる。
だから渋沢くんが知る由もないこと。
渋沢くんにこのことを言ったら彼はどんな思いをするだろう。
優しい彼は自分のせいだと嘆くだろう。悩むだろう。悲しむだろう。

だから私が強くなればいいとそう思っていた。
そうすれば渋沢くんに余計な心配をさせることもない。余計な気苦労を与えてしまうこともない。

そう・・・思っていたのに。
弱い私はもう限界で。もう頼る人は彼しかいなかった。





「あの・・・渋沢く「克朗!」」





私の小さな声に、綺麗ではっきりとした声が重なった。
誰かなんて、顔をあげなくたってわかる。





。」

「邪魔してごめんね。今、監督から連絡があって。
放課後は監督もコーチもいなくなるんだって。だから練習メニューについて打ち合わせしたいって話があって。」





絵になる二人。
二人が並んだ姿は、とても綺麗。





「本当か。でも昼休みはあと少しになってしまったな・・・。」

「そうそう。今日は中庭にいなかったんだね。探しちゃった。」

「いや・・・先に座ってる子たちがいたからな。すまない。」

「謝らなくていいよ。だって昼休みだもん。・・・ってことを監督たちに伝えておきました。
私が聞いといたから、部活までに練習メニューまとめておくよ。」

「さすがだな。」

「部活のときに直接言ってもよかったんだけど、一応先に言っておいた方がいいかと思って。」

「ああ。ありがとう。」





何度、見ただろう。こんな二人を。
お互いがお互いを信じて。お互いの力が同じだからこそ、頼りあえる。
私は渋沢くんに甘えることしかできない。ちゃんのようには・・・なれない。

こんな人が側にいて、私はどうしたらいい?
どうしたら皆は私を認めてくれるの?どこまで頑張ればいい?





私はただ、渋沢くんの側にいたかっただけなのに。






























まっすぐに見つめる綺麗な瞳。
私がずっと憧れた人。





「私・・・。」





私が答えるのを待ってくれている、優しい人。





「私っ・・・。」





乾きかけた涙が、再度溢れ出す。
目の前が霞んで、ちゃんの顔が見えない。











ちゃんのように・・・なりたかった・・・。」












ようやく出た言葉。望んだ思い。
霞んだ視界は、ちゃんがどんな表情をしているのかもわからない。

それでも彼女が握ってくれているその手がとても温かくて。
私は周りも気にせずに、声をあげてただ泣き続けた。










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