叶わないと諦めていた想い。





それでも諦めきれずに、心の奥底で願っていた。





夢かと思った。





でもそれは幸せな現実。





幸せだった、現実。
















想い




















「克朗のこと・・・好きなんでしょう?」





ちゃんがまっすぐ私を見つめる。
彼女は真実を知りたがっている。それは間違いなく、渋沢くんの為。
あまりに綺麗なその眼差しに、自分の汚さが、弱さが浮き出てくるようで。
私は思わず目をそらしてしまった。

けれど、これ以上逃げていちゃダメなんだと自分に言い聞かせる。
例えば私がどんなに憎まれても、軽蔑されても。
それでもこんな私にまっすぐぶつかってきてくれる彼女に、嘘をつくことはもう止めよう。





いつからだっただろう。
渋沢くんに目を惹かれるようになっていたのは。
いつからだっただろう。
誰にも気づかれないように、それでも彼を想っていようと思ったのは。

私は渋沢くんが好きだった。
落ち着いていて優しくて、穏やかに笑うその仕草に愛しさを感じて。

それでも彼にはちゃんがいた。
いつも隣にいて、いつも一緒に笑っている女の子。
綺麗で、何でも出来て、渋沢くんと共に皆の憧れの存在で。

私も・・・憧れていた。
彼女のようになりたいと、そう願った。それは叶うはずもないのだけれど。
誰もが認める公認の仲。誰が見てもお似合いの二人だった。
自分の恋が叶うなんて思っていなかった。想っているだけで・・・よかった。

心の奥底ではこの想いが通じればと、叶わない願いを思い描いていたことに気づかないフリをして。


























「・・・じゃ、じゃあね渋沢くん・・・!」

・・・!・・・ちょ・・・ちょっと待ってくれないか・・・?!」





それは本当に偶然。
渋沢くんと二人きりで教室に残ることがあった。
緊張した私はそんな空間に絶えられなくて。
軽く挨拶をして、教室を後にしようとした。

けれどそこで渋沢くんに呼び止められた。
ただ呼ばれただけなのに、心臓が高鳴る。





「あの・・・落ち着いて聞いてほしいんだが・・・って落ち着くのは俺か・・・。」

「・・・?」





渋沢くんが呟くように、言葉を発する。
彼にしては珍しい。いつもはっきりとした言葉で、優しさの中にも威厳のようなものがあるのに・・・。





「・・・よければ・・・俺と、付き合ってくれないか?」

「・・・!!」





あまりにも予想外のその言葉。
夢を見ているのかと思った。あまりにも都合の良すぎる夢。
だけど、これは・・・現実。
そうわかっても、言葉が紡げない。あまりのことに私の思考回路は停止していた。

混乱したような私に、渋沢くんが苦笑する。





「やはり・・・突然すぎだよな。すまない。でももし考えてくれるのなら・・・」

「・・・あ・・・ちっ・・・」





言葉にすらならない声。
違う。違う。考えることなんてない。
私は貴方が好きだった。ずっとずっと、好きだった。
叶わないと隠してきた想い。まるで夢のようで。

私は人としゃべることが苦手だった。誰かと話してもうまく会話を続けられなくて。
だけど今は。今はちゃんと伝えなくちゃ。
夢でもいい。この想いを・・・伝えたい。





「・・・わ、わた、私も・・・好き、です・・・。」

「・・・え・・・?」





何度も言葉につまって。なんて格好悪い。
でも伝えられた。この気持ちを。





「本当か・・・?」

「・・・う・・・うんっ・・・。」





次に見たのは渋沢くんの嬉しそうな顔。
顔を俯けていたために見えていなかったが、渋沢くんの顔は真っ赤だった。
嬉しい。こんなに素敵な人が私を見てくれていたなんて。側に、いられるだなんて。





「じゃあ・・・これから、よろしく。」

「・・・は、はいっ・・・。」





お互い顔が真っ赤で。それでも二人、笑っていた。
胸はいつまでも高鳴っていたけれど、少しだけ落ち着いたとき一つの疑問が浮かんだ。





「あ・・・あの・・・。」

「何だ?」

「渋沢くんは・・・さんと付き合ってるんじゃ・・・?」





渋沢くんの驚いたような顔。しまった、と思った。
好きな人と付き合えることになった直後にそんなことを聞くなんて。
確かにさんの存在は気になったけれど、何も今聞くことなんてなかったはずなのに。

渋沢くんは呆れただろうか。
細かいことを気にする、面倒な女だと思っただろうか。
けれど一度聞いてしまっては、もう彼の返事を待つしかなかった。





「ははは。まで勘違いしていたのか?」

「・・・え・・・?」

はただの幼馴染だ。確かに大切な存在ではあるが・・・。
を想う気持ちとは違う。」





ドキドキとしながら待った返事は、あっけらかんとしたものだった。
渋沢くんは慌てるでもなく、怒るでもなく。
そう聞かれるのがなれているかのように、答えた。

私はほっと胸を撫で下ろす。
それと同時に、あんな綺麗な人が側にいて何の想いも持たなかったのかと更なる疑問を浮かべた。
さらに言うならば、そんな人がいて、何故私なんかを選んでくれたのだろう。
・・・さすがにそれを言葉にする勇気はなかったけれど。





「俺はに気持ちを伝える勇気が持てなかったんだが・・・。背中を押してくれたのがだ。」





優しい笑顔でそう話す渋沢くんを見て、やっぱり噂どおりにさんは素敵な人なのだと思った。
それと同時に、一抹の不安。

渋沢くんを応援したということは、さんも渋沢くんのことを想っていないということだ。
そして渋沢くん自身もさんはただの幼馴染だと言っている。
大切な人だけれど、それとは違う気持ちを私に持っていると言ってくれた。



それでも。



それでも不安に感じてしまう自分は、欲張りなんだろうか。
誰が見たってお似合いな渋沢くんとさん。
誰が見たって不釣合いな私。

渋沢くんが側にいてくれて、本当に幸せだけれど。





このとき感じたわずかな不安は、後に私をどんどん追いつめていくことになる。








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