私たちのこの想いは
誰かを傷つける為なんかじゃなかったのに。
想い
「ちゃん・・・。」
目の前には体を起こそうとする、ボロボロになったちゃんの姿。
私は茫然としながらも、彼女へと手を伸ばす。
「ちゃん・・・。」
私の姿を見たちゃんも、地面に倒れ泥のついたその顔で目を見開く。
そして悲しげな表情で、顔を俯けた。
どうしてちゃんが?
どうして彼女がこんな目にあっているの?
私はもう一度、ちゃんを痛めつけていた女の子たちを見上げる。
私の表情が怖かったのか、自分のしたことに恐怖を持ったのか。
彼女たちは私を見て、すぐに踵を返すようにその場から逃げ出した。
「おっと。」
「・・・っ・・・!!」
「何も言わずに逃げるのもどうかと思うけど?」
彼女たちの進行方向に立っていた三上にぶつかる。
いや、三上が彼女たちの進行方向を遮ったと言ったほうが正しいだろう。
そして彼女たちが怯えながらもう一度、私の方へと振り向く。
しっかりと見た彼女たちの顔に、私は見覚えがある。
ちゃんのところへ遊びに来ていた、他のクラスの女子グループだ。
ちゃんはクラスで特定の仲の良い友達はいなかった。
だからといって気を遣って話しかけるほどに、私は人間が出来ていたわけでもない。
それに特定の友達がいなかったのは私も同じ。だから特に気にもしていなかった。
そんなちゃんのもとに何度か遊びに来ている子たち。
中学のときの友達なんだろうと、思っていた。
けれど、目の前の彼女たちは。
「何してたの?どうしてちゃんがこんなボロボロなの?!」
「・・・・・・さん・・・。」
「怯えてたって何も始まらない。ちゃんと話して。
こんなところに遭遇したからには、関係ないとか言わせないわよ。」
「あ・・・だって・・・コイツ・・・。」
彼女たちは私を知っているようだ。
・・・怯えながら顔を見合わせて、グループのリーダーらしい女の子が口を開いた。
「し・・・渋沢くんをまだ困らせようとしてたからっ・・・!!」
「・・・克朗?」
「さんだって知ってるでしょ?渋沢くんを騙して、利用して、付き合えたからって優越感に浸っちゃってさ!!
最低な子なんだよ?この子!!」
「・・・。」
「さ、さっきだって、渋沢くんに声をかけられたのに、無視してたんだから!
自分が何様だと思ってんの?!」
言い訳らしい言い訳も考えつかなかったらしい。
彼女は開き直って、自分の本音をぶちまけた。
「だから・・・?」
「だって渋沢くんはさんと・・・!こんな子と似合うわけないじゃん!
こんな子を渋沢くんが好きになるわけないじゃん!!」
同じだ。以前私がクラスで怒ったときもそうだった。
私たちはただ、相手を想っていただけなのに。
どうしてその想いが、誰かを傷つけてしまうのだろう。
「そんな勝手な思い込みで、ちゃんを・・・?」
「思い込みじゃないよ!誰が見たって渋沢くんとさんの方が・・・!」
「そんなの本人たちの問題でしょう?!アンタたちに関係ないわよ!!」
私の怒鳴り声に、女の子たちが肩を震わせる。
どうして?どうして?
確かに私は努力してきた。克朗の隣にいるために。
克朗といても、周りに認められるような存在になるために。
だけどそれが、私と克朗を理想の二人とさせて。
その事実が、ちゃんを追い詰めた。
私がいたことで、ちゃんを傷つけることになっていた。
それは私のせいなんかじゃない。わかっている。わかってるけど・・・。
こんなこと、あまりにつらすぎる。
「・・・ちゃん、保健室行こう。」
「・・・ちゃん・・・。あの・・・。」
「話は保健室に行ってからにしよう?三上、その子たち連れてきてもらえる?」
「・・・了解。」
泥に汚れてボロボロになったちゃんに肩を貸して、一緒に校舎へと戻っていく。
何も言えなくなっていた女の子たちも、三上に見張られる形になって無言で後についてきた。
「。」
「何?」
「こいつらはどうするわけ?」
「職員室に。こんなことをしてたんだから、覚悟は出来てるでしょ?」
彼女たちは泣きそうな顔をして、私を見た。
そんな彼女たちを表情を変えず一瞥して、前を向く。
私に支えられているちゃんは、戸惑い、どうしたらいいのかわからないという顔をしていた。
「・・・お前はソイツと話すことがあんだろ?」
「・・・。」
「こいつらは俺が連れていく。お前はと保健室に行けよ。」
「三上・・・。」
「こいつらだって自分のしたことくらい話せんだろ。
これ以上『憧れのサン』に嫌われるようなことはしねえだろ。」
三上の言葉に少しの不満を覚えたが、その言葉は間違ってはいないのだろう。
さっきの彼女たちの言葉からは私と克朗を理想視しすぎて、ちゃんを逆恨みしていたということが窺えた。
私の言葉に反抗もせず、私の怒鳴り声に言葉を発せなくなったことからもそれがわかる。
確かに私は、克朗と一緒にいるために周りから認められることを望んでいた。
だけど、それで誰かが傷つくなんて・・・そんなことは決して望んでいなかった。
「じゃあ・・・お願い。」
「ああ。」
私の気持ちを察してくれただろう三上に感謝する。
これ以上余計なことを考える必要がなくなったことで、少し心が軽くなる。
けれど。
「ちゃん・・・。大丈夫?」
「・・・うん。」
先ほどから俯いたまま言葉を発しないちゃん。
それは傷の痛みもあるのだろう。あんな目にあわされたら当然なのだろう。
けれどそれとは別に、ちゃんはきっと恐れている。私と二人で話すことを。
考えればわかることだ。
ちゃんがいじめられていた理由が、私と克朗にあったのならば・・・。
ちゃんの体は震えていた。
けれど、私の体も少しだけ震えていたことをちゃんは気づいただろうか。
怖いのは私も同じ。
それでも私は、真実を知るべきだ。
あのとき、確かめることのできなかった
彼女の本当の想いを。
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