この愚かさで、お前を傷つけて。





それでもお前は、俺を守ろうと必死だった。



















想い




















「しっぶさわクン。」

「・・・何だ三上。」

「なんだよ。くっらい顔してるから、せっかく俺様がテンションあげて声かけてやったってのによ。」

「べ、別に・・・暗い顔なんてしてないぞ。」

「はっ。そうかよ。」





1年用の部室(とは言っても全ての部員が入れる部屋ではないが)では
既に着替えを終え帰り支度をしながら、周りの友達とじゃれあっている奴らばかりだった。

鍵を閉めるのは上級生の先輩だ。待たせるわけにはいかない。
俺はすぐに着替え、部室を出る準備を始めた。





「おーい1年。終わったかー?」





鍵の管理をする先輩の声。
ちょうど帰り支度まで終わった俺は、隣で俺をからかっていた三上とともに部室を出る。

横で三上が俺をからかう声はまだ続いていた。
けれど三上の言葉は右から左へと流れて、このとき俺の頭を支配していたのは、
悲しそうな顔をした幼馴染の顔だった。

どうしては俺を避けていた?
今までが俺を避けていたことなんて、1度だってなかったはずだ。
小さな喧嘩はしても、すぐに元通りになれるのが俺たちだったはずだ。





「・・・さわ。おい!渋沢。」

「あ、ああ。何だ三上。」

「お前、そんなにが気になんのか?」

「!」





三上のその言葉に、俺はひどく動揺したのがわかった。
気になる。気になっている。
勿論だ。だっては大切な幼馴染で、かけがえのない人。
例え俺の気持ちが『恋愛』にならなかったとしても、
いつまでだって、お互いを理解できる存在だと思ってる。





「つーか、あれって完璧、お前のせいだろ?何今更お前が悩んでるわけ?」

「!三上は理由を知っているのか?」

「・・・は?知らねえよ。けどアイツがおかしくなったのって、俺がのこと好きだって言った次の日からじゃねえか。」





そう。前日のは普通だった・・・はずだ。
だから次の日は様子がおかしいと思うよりは、が人と話したくない気分だったのだろうかと、そう思っただけだった。
お互い、今までにそういったことがなかったわけじゃない。けれどそれが数日続くとなると、話は別になる。
三上とは普段どおりでいるが、俺が現れるとその場を去っていく。
何かがつかえているかのような、そんな感覚。
ずっと一緒にいたのに、初めてだった。こんなことは。





「何言ったんだよ。アイツに。」

「・・・。」

「とっとと言え。めんどくせーな。」





一瞬口ごもり、視線を下へ向ける。
これは俺たちの問題で、三上に言うべきことじゃないのかもしれない。
のことを一番理解しているのは俺だと思っていたが。
三上も充分にのことを理解している。
少し悔しいがおそらく、『恋愛』に関しては俺以上にを知っているだろう。

理由はに直接聞きたかった。
けれど、それを聞いたとき、はひどく悲しい顔をしていた。
もう一度聞くのは酷だろう。ならば俺が気づいてやればいいのだが。

自分の鈍さにため息が出る。
の気持ちも知らず、の想いにも応えられず、俺はにばかり支えられて。





「学校のことや、部活のこと・・・それと、お前との話をしたよ。」

「まあ、話題的にそうなるだろうな。」

「どうして言ってくれなかったのかと、少し問い詰めるような感じになった。」





寂しかったんだ。
俺は好きな人が出来たとき、先にに見破られてしまったが
にはすぐに話そうと思っていた。
俺に言えなかった理由はわかっている。だけど、ただ寂しくて。





「その後、に言った。」

「何を?」

「・・・俺は、の気持ちに応えられない、と。」

「・・・それで?」

「でも、お前は、三上はが好きなんだろう?」

「ああ。」

には、いつまでも俺に縛られていてほしくなかった。」

「・・・。」

「だから俺ではなく、三上を選ぶこともできる、とそう言った。」





横に並んで話を聞いていた三上が、呆れたようにため息をついた。





「俺が、そんなことを言ったからか?いや、でも俺は・・・。」

「でも、じゃねえよ。わかってんじゃねえか。理由。」

「俺はに幸せになってほしくて・・・。だから・・・!!」

「アイツの幸せを、お前が決めるな。」





三上が真剣な表情で、俺の言葉を遮る。
俺は思わず息を飲んで、言葉を止めた。





「・・・ひとつ、教えてやろうか。」

「・・・?」

「俺はに何回も告白してる。その度に振られてるし。諦めろとも言われる。
まあ、お前と同じ感情なんだろうな。」

「・・・三上。」

「応えられないなら、期待させたくない。縛っていたくない。
誰か、別の奴と幸せになってくれた方がいい・・・ってところか?」

「・・・。」





三上の言ったその言葉は、俺の思ったことをそのまま表していた。
だっては大切な人だ。だから、幸せになってほしい。そう、願ったんだ。





「だけどは・・・自分以外の誰かを好きになれ、なんて言ったことはない。」

「!!」

「心の中じゃ知らねえけどな。」





三上が苦笑して俺を見る。
俺はそんな三上を呆然と眺めていた。

ようやく、わかった。
自分のあまりにも考えなしな言葉。

を思って言ったつもりでいた。
が幸せになることを望んでいた。
けれど。

自分の想う相手から、違う誰かを薦められて。
それは相手の気持ちを否定していることと同じ。
誰かを好きになっていなかったら、理解できない感情だったかもしれないけれど
同じ想いをした今ならわかる。痛いほどに。

こんなに簡単なことに気づかなかったなんて。

は一体、どれほど傷ついた?
傷ついて、それでも笑って、一生懸命に俺に心配をかけまいとして。





「・・・三上・・・。」

「あーあ。教えてやんなきゃよかったかもな。
もうちっとギクシャクしたままのお前らも見てたかったぜ。」

「・・・三上。ありがとう。」

「礼とか言うな。むかつくから。じゃあ俺は帰るし。」





俺の話を聞いてくれるために、残っていてくれたのだろうか。
相変わらず、口は悪いがかなりのお人よしだ。





に、謝ろう。
お前の想いを、その綺麗でまっすぐな想いを
受け止めることはできないけれど。





否定することだって、できないから。












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