強くなんてなれてない。





私はこんなにも弱くて臆病で。





自分を守るために、貴方を傷つけていた。















想い
















「お前ら最近どうしたんだ?」

「・・・何が。」





三上の質問の意味がわからなかったわけじゃない。
どうしてこう・・・私は一度思いこんでしまうと、そこから逃れられないのか。
私は克朗を避ける形になったままに、数日が過ぎていた。
おそらく克朗も、気づいてしまっているだろう。

いつも通りでいると、何度も思ったのに。
やっぱりなかなかうまくいかなくて。
私は自己嫌悪に陥って、ぐったりとうなだれていた。





「ま、俺にとっては順調ってやつだな。」

「・・・本当、根性悪いよねアンタ。」

「で?渋沢に何言われてそこまでになっちゃったのカナ?チャン。」

「・・・。」





本当に楽しそうに笑っている三上を、じっとりした目で睨む。
三上はそうやって睨む私の行動さえも面白いようだ。声を出さず、ニヤリとした笑いだけを浮かべる。





「言いたくない。」

「うわ。ナッマイキ。」

「・・・うるさいな。」





だってこんな話。三上には絶対にできない。
私も三上の想いに応えられずに、きっと同じ想いをさせていた。
こんな、苦しい想いを。





「・・・たく。そのまま諦めちまえばいいのに。」

「・・・うるさい。」

「お前、最近本当生意気じゃねえ?それはあれか?俺に襲ってほしいってことか?」

「・・・なっ・・・?!何でそうなるのよ!!」

「あ?だって生意気な女には調教が必要って言うだろ。」

「いっ・・・言わないつーの!!ていうか、アンタが言うと冗談で言ってても本気でエロいから勘弁してください!!」

「冗談じゃねえ「じゃあ私行くから!アンタと二人にはならないって言ってたしね!!」」





慌てる私の姿を見て、三上がまた笑う。
私はそんな三上を無視して、休み時間中でざわめきの止まない自分のクラスへと戻っていった。






















。」

「・・・克朗。お疲れ。」





部活を終えた克朗に、いつもと同じように言葉をかける。
けれど、何だかうまく話せない。
たかが数日まともに話していないだけだというのに、やたら緊張する。





「ああ。ありがとう。」

「うん。それと・・・今日も親戚の叔母さんの家によるから。
もー叔母さんってば寂しがっちゃって仕方ないっていうかさー。」

「そうか。」

「だから克朗。先に帰ってていいよ。」





克朗との二人の時間。幸せな時間。
けれど、気まずくなったときどうしていいのかわからなくなる。
こんな下手な理由、いつまでも続くとは思っていない。





。」

「・・・え?」





マネージャー室へ戻ろうと歩き始めたその瞬間、不意に名前を呼ばれる。
腕をつかまれ、そのままの勢いで克朗の方へと振り向く。





。俺はお前に何かしたのか?」

「・・・か、克朗・・・。」





ああ。やっぱり。
気づかれていないわけがない。
私のこの態度に、克朗が気づかないはずがない。





「何かって・・・何もないよ。あはは。克朗、どうしたの?」

「俺はお前にも三上にだって鈍いと言われているが、お前のことはわかる。
お前のことは誰より理解しているつもりだ。」





そう。私の性格を理解している克朗。
きっと克朗が私を『女』として見ていたのなら、私の克朗への気持ちに気づくのも誰より早かっただろう。
克朗への態度が変わったことくらい、克朗ならすぐにわかってしまうことだ。





「何かしたのなら、はっきりと言ってくれ。
いつものならはっきりと言ってくれるだろう?それなのに、それを言えないほどのことを俺はしたのか?」

「ち・・・違うよっ・・・。別に克朗は悪くなんてなくて・・・。」

「じゃあ何故、俺を避けるんだ・・・?」





克朗が悲しそうに私を見る。
当たり前だ。訳もわからず、今まで側にいた幼馴染に避けられて。
不安にならないはずがない。

克朗にこんな表情をさせているのは私。
私、一体何をしているんだろう。
自分が傷つきたくないからって、逃げ出して。克朗を避けて。
克朗にこんな表情をさせてしまった。

こんな悲しい表情をさせたくないと、誰より思っていたはずなのに。





「・・・ご・・・ごめっ・・・。違くて・・・克朗は何も・・・」





なんて言えばいいのかわからずに、咄嗟に浮かんだ言葉さえも紡げない。

嫌だ。
克朗にこんな顔をさせているのが私だなんて、そんなの嫌だ。

だから克朗が安心するように、私たちはいつも通りだよって、
笑ってその言葉を伝えればいい。それなのに。
そんな単純な言葉でさえ、うまく伝えることができない。





「おーい!お前ら早く着替えないと、部室閉めちまうぞー??」





もう誰もいなくなっていたグラウンドに、先輩の声が響く。
克朗が先輩に聞こえるように、大きな声で返事を返す。
行こう、とそう言って、部室の方へと歩き出した。
















涙ぐんだ自分の顔が見えないように、少しだけ俯いて
私もマネージャー室へと戻る。
既に着替えていた先輩たちに、先に帰ってもらうようお願いして
自分もすぐに着替えを済ませた。
鍵を閉めて部屋を出ると、数日前の朝と同じように誰かが立っていた。

けれどそれはそのときと同じ人物ではなく。





「一緒に、帰らないか?」





私を迎える克朗の笑顔が、あまりに優しくて。
胸に何かがこみ上げてくるのを感じながら、私は無言のまま頷いた。












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