私は、強くあるはずで。





こんなことくらいで、ぐらつくはずなんてなかったのに。














想い















「・・・。」

「ん?」





克朗は表情を変え、静かに私の名前を呼ぶ。
さっきまでとは違い、明らかに様子が違った克朗を見ながら
いつも通りに返事を返した。





「・・・その、三上に聞いたよ。」

「・・・え?何を?」





やはり三上が何か言ったのかと、思わず驚いた声を返す。
それなりに一緒にいるけれど、未だに三上のすることは予想がつかないんだよね。





「三上は・・・お前のことが好きだったんだな。」

「!!」





まさか三上が克朗にそれを言うとは思っておらず、目を見開く。
それで克朗との関係が変わってしまうとは思わなかったのだろうか。
・・・ううん。三上ならわかってたはずだ。わかっていて、それでも本当のことを話した。
三上は私みたいに臆病なんかじゃない。
傷つくことも、関係が変わってしまうことも、避けることなく突き進んでいく人。





「あー・・・うん。そう、みたいだね。」

「俺は知らなかったぞ?いつから三上は・・・。
それにお前ら、今まで一言だってそんなこと・・・。」





克朗が少しだけ混乱したように、私に問う。
『幼馴染』の頃に、克朗は何でも話してくれていた。
けれど私は、三上に気持ちを告白されたときに克朗に話すことはなかった。





「あーもう。三上がいきなり言うから。
克朗も混乱してるよね。ごめん。今まで黙ってて。」

「いや・・・謝ることはないが・・・。」





話さなかったのにも理由がある。
そのことで三人の関係が変わってしまうことは嫌だったし。
それに、そのことを克朗に伝えたくなかったからだ。
それを聞いた克朗の言葉は、予想できていたから。





「なんていうかホラ、気恥ずかしいっていうかさ。
いつも私をけなしてばっかりいる三上の言葉に実感がなかったっていうか・・・。」





三上の気持ちを理解していなかったわけじゃないけれど、
克朗への気持ちから言いたくなかったとは言いづらくて。
軽く笑いながら、とっさに浮かんだ言葉を理由にした。





「・・・そんなこと、ないと思うぞ。」

「・・・え?」

「三上はふざけているようだが、いつでもまっすぐな男だ。
お前への気持ちだって、嘘なんかじゃないよ。」

「・・・。」





克朗に伝えたくなかった一番の理由。
それを克朗に伝えたら、その後の貴方の言葉は予想できたから。




「俺は・・・お前の気持ちには応えられない。
変わるかわからない気持ちで、お前を縛りたくない。」

「・・・。」

「三上が俺に言った気持ちは本当だと思う。
のことを本当に大切に思っているよ。」





言わないで。
それ以上・・・言わないで。
克朗からは、克朗からだけは、その言葉の先を聞きたくない。










「俺ではなく・・・三上を選ぶことだってできるんだぞ?」










わかっていた。
克朗に三上の気持ちを言われたら、言われる言葉は予想できた。

幼馴染だった頃にはきっと、間違いなく三上を勧められただろう。
私の気持ちを知った今でも、克朗は私と三上が一緒にいることを望むだろう。

だから、言いたくなかったの。
だから、知ってほしくなかった。

だって、同じだもの。
私も三上には、私に縛られていてほしくないと思った。
大切な友達だから、気持ちに応えることのできない私に縛られていてほしくなかった。



だけど、それでも。
克朗じゃない誰かを好きになれなんて言葉を
克朗からは、克朗の口からは・・・決して聞きたくなかった。



こみ上げてくる感情を必死で抑えて。
私は精一杯の笑顔を作る。
克朗の本音を望んだのは私で、克朗の思いだってわかってる。





「・・・もー。わかってないな克朗は。私は克朗が好きだって言ってるじゃん!」

・・・。だが・・・俺は・・・。」

「私・・・苦しくないから。克朗は気にしなくていいよ。
気持ちが簡単には変えられないこと、わかってるでしょ?」





克朗がそんな言葉を向けるほうがよっぽど苦しい。
だから、それ以上は。それ以上は何も言わないで。





「今まで黙っててごめん。でも、この話は終わりっ。
私にも三上にも、今までどおりでよろしくね!」

・・・。」

「という感じで、そろそろ家にも着いたことだし、また明日ね。」





私の出来る精一杯で笑う。
自分でもうまく笑えていたのかはわからない。

笑顔で手を振って。私はいつも通りだと、そう見せかける。
この想いが貴方の重荷になることだけは嫌だから。
けど克朗にとっては・・・既に重荷なのかもしれないね。





まだ親の戻っていない家に入って、階段を上り自分の部屋のドアを開けた。
目の前にベッドに寝転がって、枕に顔を押し付けた。



私は、大丈夫。
克朗に追いつくために、並んで歩くためにしてきた努力は
私を強くもしたはずだから。

私は、強いはずだから。
大丈夫なんだから。

明日はきっと、笑える。
笑って、普通に話して。
何事もなかったかのように、出来るから。



それはまるで、自分に言い聞かせているかのように。
根拠のないその言葉を心の中で何度も、何度も繰り返した。









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