想いが交差する。
ただ、好きなだけ。
想いが、通じてほしいだけ。
想い
「あっちー!!タオルよこせ!!」
「疲れてても偉そうよね。アンタ。ていうかタオルはあっち。先輩たちが配ってくれてるでしょ。」
サッカー部の部活が終わって。
疲れきった部員たちが次々に部室へと戻っていく。
先輩マネージャーたちは部員にドリンクやらタオルを配り、
私はその辺に散らばったタオルやらビブスやらを拾い上げていった。
「あっち行くの嫌なんだよ。どうして女ってのはいつでも色目使ってくんだかな。」
「アンタがエロいオーラでも出してんじゃないの?」
「あ?誰がだよ!」
「はいはい。もういいから、私は忙しいんです。ホラ。タオル。」
「・・・たくっ。相変わらず生意気な女。」
私は近くに置いてあったカゴの中から新しいタオルを取り出し、三上に渡す。
納得のいかなそうな顔でそれを受け取り、三上も部室へと戻っていく。
そのまま仕事を続け、カゴ一杯になった洗濯物や洗い物の山を
洗濯機の前まで運ぶ。先輩たちが運んでくれた分もあわせると
さすがに名門武蔵野森高校。洗い物の数も半端ではない。
「ちゃん?まだ運んでたんだ?」
「あ、先輩。もう終わりましたよ。」
既に制服に着替えていた一人の先輩マネージャーが驚いたように声をあげる。
今日は少し洗濯物が多かったらしい。既に運び終えたと思っていたようだ。
「先に着替えちゃってゴメンね。洗濯物は明日すればいいから。」
「はい。大丈夫です。私もこれから着替えますし、気にせず先に帰ってください。」
用事があると言っていた先輩に、笑って返事を返す。
先輩は一言謝ってから、その場を立ち去った。
仕事を終え、自分も制服に着替えて外に出ると、そこには克朗と三上がいた。
私を見て手を振る克朗を見て、二人が自分を待っていてくれたのだとわかった。
「先に帰ってくれててもよかったのに。」
「素直じゃねえな。本当は嬉しいくせに。」
「嬉しいよ?誰かさんが悪態なんてつかなかったら。」
「てめえ・・・。マジで襲うぞ?」
「キャー!本当やめて!セクハラ罪で訴えるわよ!」
もう恒例のような三上との言い合いを克朗が無言で眺めていた。
そして不思議そうな顔で呟く。
「お前ら・・・なんか最近違わないか?」
「「は?」」
克朗の突然の質問に、思わず声を揃えて疑問の言葉を返す。
そう言った克朗自身も、自分の言葉の意味をイマイチ理解していない表情をしている。
「いや・・・俺もよくはわからないんだが・・・。前の二人と違う感じがしてだな・・・。」
「「・・・。」」
今度は三上と二人で沈黙する。
克朗は自分の恋愛にはとことん鈍いくせに、どうしてこういうとこだけ鋭くなってるの・・・。
三上の気持ちを聞いたけれど、私は極力今までどおりでいようと思っていた。
三上は今までよりも私をからかったり、構ったりするようにはなったけれど。それだけだ。
「まあ俺ら、キスした仲だし?」
「!?」
「み、三上ー!!何誤解されるような言い方してんのよ!!」
「だって本当だろ?」
「違う!違うからね克朗!!本当っ誤解しないで!!」
意地悪く笑う三上、必死で誤解を解こうとする私。そして絶句したまま固まった克朗。
私は三上の背中を叩きながら、克朗に必死で弁明する。
「コイツが私をからかうために、ほっぺにしただけ!それだけ!」
「は。それだけーとか言って、顔を真っ赤にしてたの誰だよ。」
「うるさい!マジでうるさい!!だから克朗、誤解しないでよ?!」
「あ、ああ。わかったよ。」
三上め・・・!わざわざ克朗の前で言うことないのに・・・!
これが三上の言う、克朗との仲を邪魔する第一歩なのか。
やっぱりあのとき、お礼なんていうべきじゃなかった・・・!!
そんなことを思いながらグラウンドを出ようとすると
暗くなったグラウンドの隅に、サッカーボールが一つ落ちているのが目についた。
グラウンドの隅っこに隠れ、拾い忘れてしまったのだろう。
「ちょっと待って。そこにボールが転がってる。私、片してくるよ。」
「ああ。なら俺が・・・。」
「いいのいいの!すぐ片してきちゃうから、先帰っててもいいよ。後から追いつくし。」
「いや、待ってるよ。」
「そう?じゃあちょっと行ってくるよ。」
やれやれ、と呆れた顔をした三上と笑顔で私を待つと言った克朗を残し、
私は用具入れへと走った。この間に、二人の間でどんな会話がされていたかも知らずに。
「三上。何でその・・・キスなんかしたんだ?からかうためと言っても、やりすぎだろう。」
「は。まさかお前からそんな言葉が出てくるとはな。を女とも見てないくせに。」
「・・・それとこれとは話が別だろう。」
「俺が本当に、アイツをからかうためだけにそんなことしたと思ってんのか?」
「・・・?」
「俺はが好きなんだよ。」
「・・・!!」
「お前、本当に気づいてなかったんだな。俺がに構うようになったことは気づいたくせに。」
「ど、どういうことだ・・・?一体いつから・・・。は・・・。」
「は知ってる。ま、お前も知ってのとおり相手にはされてねえけど。
本っ当生意気だぜ。いつまで経っても落ちやしねえ。」
「三上・・・。お前・・・。」
「あー。なんか待ってんの面倒くせえな。どうせ途中から方向違うし、俺は帰るわ。」
「お、おい!・・・三上・・・!」
用具入れにボールを片し、走って戻ってくると
二人いたはずのその場所には一人の影しか見えなかった。
そこへ残っている一人に声をかける。
「克朗。お待たせ!」
「・・・あ、ああ。
「三上は?帰った?」
「ああ。先に帰ると。」
「やっぱり三上だなあ。まあいいんだけど。」
「・・・。お前は・・・。」
「何?」
「・・・いや、何でもない。帰ろうか。」
そう言うと、克朗はグラウンドの外へ向かって歩き出した。
どう見てもいつもと違う克朗の態度に疑問を覚えつつ、彼について一緒に歩いた。
三上と何かあったのだろうか?変なこと言ってないよね。三上は。
そんな不安に駆られつつ、克朗を見上げる。
彼は何か考え込んでいるように、前を見据えたままだ。
どうしたのか、と声をかけようとして止める。
何かあったなら克朗から話してくれるだろう。そう思って。
私は考え込む克朗に、いつものように他愛のない話を始めた。
克朗もぎこちない笑みを浮かべて、それに応える。私がそれに気づいていることも、克朗はわかっているだろう。
そして克朗の表情が変わる。
私は自分の言葉を止めて、克朗がその言葉を発するのを待っていた。
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