信じたい。





信じていたい。





願うことしかできないけれど。














想い














「・・・本音って何?私が克朗を好きだってことは、三上だって知ってることでしょ?」

「本当にずっと待ってる気なのかよ。本当に、いつかは渋沢が自分を選ぶなんて思ってるわけ?」





電気のついていない、薄暗い教室。
それでも三上の表情ははっきり見ることができた。
真剣な表情で私を見つめる三上。彼の言葉に私は一瞬怯み、言葉を失う。





「・・・悪い?今はそんな気持ちなくったって、未来はわからないじゃない。
そういう風に思って、何が悪いの?」

「ずっと一緒にいて、お前を女としても見ていなかったのに?」

「・・・同じことよ。先のことはわからないでしょ?」

「お前は自分の気持ちを伝えて。半年以上経つっていうのに?
それでもアイツはお前のことを見ない。それどころか自分勝手な理由で振られたあの女のことばっかりだ。」

「・・・っ・・・。」





三上の言葉が、胸に突き刺さる。
気づかないフリをして押し込めていた自分の心が、溢れ出すように自分の中を巡った。





「・・・俺は周りの奴らみたいに、お前の表面だけを見て満足したりしない。だから遠慮なんかしねえからな。」

「・・・。」

「渋沢がお前を信頼していることも、大事にしていることだって見りゃわかる。
だけど、女としてみることはない。お前も、そう思ってるんじゃねえのか?」

「・・・そんなことないよ。今がそうでもいつか、女として見てくれるかもしれない。」

「いつまで強がってんだよ。渋沢の気持ちなんて・・・お前が一番理解してるはずだろ?」

「・・・だとしたら、何なのよ!」

「それがわかってても、お前はいつまでもアイツを見続けるつもりかよ。」

「そう、言ったでしょ?自分の気持ちに嘘なんてつけない。」

「・・・やめろよ・・・。」

「・・・え・・・?」

「もう、やめろよ・・・!渋沢はお前のことを見ることなんてねえよ!
アイツを見りゃわかるだろ?!渋沢にとってお前は大切だけど、『幼馴染』でしかねえんだよ!!」





これまで冷静に話を続けていた三上が、声をあげて言葉をぶつける。
三上の言葉が頭に、心に響いて。
私の肩を掴んで叫ぶ三上をただ茫然と見上げていた。

克朗の気持ちが変わるまで、待つとそう言った。
けれど克朗はずっと、気持ちを伝えてからもずっと、私を見たことはなかった。
克朗の心の中にいるのはちゃんで、私なんて入る隙間さえ見つけられなくて。

どれだけ側にいても、あまりにも遠い。
幼馴染としてならば、誰よりも側にいるのに。
女としては、誰よりも遠いなんて。

そんなこと、わかってた。
わかっていたけれど、認めたくなかった。
認めるわけには、いかなかった。





「・・・何だか、三上の方が痛そう。」

「うるせえよ!大体お前は何でそんなに・・・」





水の雫が頬を流れて、床へと落ちる。

どれだけ待っても、私は幼馴染のままで。
どれだけ待っても、克朗の目に私が映ることはない。

克朗が私を幼馴染としか見ていなかったとしても。
想いを告げてからも、その気持ちが変わることがなかったとしても。
未来はわからないはずで。そんな不安、持っていたくなかった。

だから気づかないフリをしていたのに。
心の奥底に押し隠して、何もなかったかのように。
そうでもしないと、気持ちがくじけてしまいそうで。

克朗のことがこんなにも好きなのに、諦めることなんてできるはずがないのに。
貴方への想いをマイナスの感情なんかにしちゃいけない。
前向きに、ただひたすらに貴方を想っていたいのに。





「嘘でもいい。」





温かい腕が私を包む。
私は動くことも、抵抗することさえも忘れて、彼の腕の中に収まった。





「嘘でもいいから、もう渋沢を見るな。嫌なんだよ。お前が何回も傷つくところを見るのは。」

「・・・そんなの三上の我侭じゃない。」

「ああ。だから何だよ。」

「・・・嘘でもいいから、克朗を諦めろってこと?」

「ああ。」

「私が素直に頷くと思ってる?」

「思ってねえよ。だからこれから何度だって言ってやる。」





同じ想いを三上も持っているのに。
そして私が克朗に気持ちを伝えるより早くから、私は三上に気持ちを告げられていたのに。
彼の言葉は矛盾してる。私に克朗を諦めろと言うくせに、三上は私を諦めようとはしないんだ。





「俺が今までお前に何もしてこなかった理由、わかるか?」

「?」

「渋沢がお前を見ないって、そう思ってたからだ。
それでお前もいつかは諦めるだろうって、高をくくってた。
まあ、お前のバカ正直な気持ちを立ててやったってのもあるけどな。」

「何それ。本当俺様な考え方だよね。」

「だけど、もう待たない。」










「お前が好きだ。。」










三上が抱きしめていた腕をゆるめて、そのまままっすぐに私を見つめた。
その真剣な瞳を私もまたまっすぐに見つめ返した。
真剣な想い。まっすぐな気持ち。目をそらすわけにはいかない。










「・・・ありがとう。」

「礼を言われる筋合いはねえな。
これから渋沢とのことを邪魔されて、困るのはお前だぜ?」





素直に伝えた感謝の気持ち。
三上はいつもの調子に戻って、意地悪く笑った。





「じゃあそろそろ出ようよ。三上ってばいきなりこんな所に引き込むなんてさ。
何されるのかと思ったよ。」





意地悪く笑う三上に応えるように、私もいつも通りに意地悪く言葉を返した。
ドアに手をかけて、それでも三上の返事がないことに疑問を感じ、後ろを振り向く。

その瞬間腕を引っ張られ、三上の方へと引き寄せられた。
気づいたときには、彼の唇が自分の頬に触れていた。





「・・・っ!!」

「何間抜けな面してんだよ。」

「なっ・・三上っ・・・!!」

「いや、何かしてほしかったのかと思って。」





飄々としながら、何事もなかったかのようにドアに手をかける。
薄暗い教室から、光の当たる廊下へと出る。





「バカ三上!エロ三上!!」

「ああ?どこがだよ?
ていうか、これくらいでうろたえんなよ。俺たちもう高校生だぜ?チャン。」

「関係なーい!!本当気をつけよ!もう三上と二人には絶対ならないからね!!」

「いつまでそう言っていられるのかねえ。」

「何その自信満々の顔!どこからその自信が来るわけ?」





三上の行動に怒りつつ、それでも自分の中で押しつぶされていた思いが
少し軽くなっていたのがわかった。
言い合いをしながらも、いつも通りの三上でいてくれたことが嬉しかった。













克朗を知りすぎて、側にいすぎて



だからこそわかってしまう想いの先。



それでも、気持ちが消えることはないから。





わかってしまう。
わかってしまうけれど。





それでも、願うことは。
信じることは、していたっていいでしょう?



いつか、貴方が私を見てくれること。



いつか、この想いが通じることを。












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