自分の想いばかりに夢中で
貴方の本音さえも、理解しようとしていなかった。
想い
「ちゃん格好よかったよー!!」
朝一番、早速入部したサッカー部の朝練後、
自分の教室へ入った第一声。
昨日のことに対する、クラスの反応だったようだ。
「やっぱりちゃんだよね。陰口とか許さないっていうか。」
「だよね。さんを連れて出てくさん、すっごい格好よかった!」
「・・・えーと・・・。」
予想していた反応とは、かなり違っていて戸惑う。
正直、クラスで怖がられたり、無視されたりでもするかと思った。
「さっすがさん。女子のドロドロしたのも一喝してくれるんだよなぁ〜v」
「素敵だったっす!!」
「ちょっと男子!どさくさにまぎれてちゃんにアピールしようったってそうはいかないわよ!」
「うるせえな!いいじゃんちょっとくらい!!」
私の席の周りにどんどん人が集まる。
ていうか、本人の関与しないところでの言い合いは止めてほしい。
けれど、私の考えに共感はしてくれたようだ。それが少し嬉しくてお礼を述べる。
「ありがとう。騒がせちゃってゴメンね。」
「いいのいいの!格好よかったから!」
格好よかったからいいと言う理由も、よくわからないが
気にしないでもらえたことは、とても有難い。
このまま、私やちゃんのことをしつこく言う人がいなくなればいいけれど。
「昨日の3人も、すごい反省してたよ。さんに謝るって言ってた。」
「そっか・・・。ちょっと悪い思いさせちゃったかな。」
「あの子たちね。渋沢くんとさんのこと、すごく羨ましいって言ってたの。
だからその気持ちがエスカレートしちゃったんだよ。昨日は本当に後悔してたみたいだから・・・。」
「うん。来たら話してみるよ。」
昨日の3人の言葉には、腹がたったけれど。
けれど、私もクラスの皆の目の前で怒鳴ってしまったのだ。
これから同じクラスになるからには、うまくやっていけるならそれに越したことはない。
彼女たちが同じことを繰り返すのなら、許す気にはなれないけど
同じクラスになったばかりだ。もう一度話してみるくらいはしてもいいのかもしれない。
そう思った矢先、その3人が登校してきた。
教室に入ると、一直線に私の席へ向かい、第一声で謝罪の言葉を述べた。
彼女たちの真剣な態度に、私も肩の力を抜き、声をかける。
彼女たちは心底安心したように笑って、自分の席へ着いた。
余談だけれど、この日は委員会決めがあった。
クラス委員は全会一致で、私が指名された。
部活が忙しくなるだろうからと、断ろうと思ったが
クラスの期待を込めた眼差しに、逆らえるはずもなかった。
「もうクラス全員シメたんだって?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。」
「すごいな。」
「・・・真顔で言わないでくれる?克朗。」
昼休みになって皆が自分のお弁当を取り出す。
けれど私は何だかクラスに居づらく、お弁当を持って教室を出た。
そこで偶然、屋上へ向かう三上と克朗に会い、今に至る。
いつ話を聞きつけたのか、三上が意地悪く笑って、私をからかう。
「B組の奴らが言ってたぜ?『さん格好いい〜』って。」
「・・・予想外だったわよ。こんなことになるなんて。」
「何でそんな話になったんだ?」
「え。えーと・・・。」
「イジメだよ。イジメ。がイジメにあってた奴を助けたんだと。」
「へえ。そうなのか。まあらしいな。」
まさか、克朗とちゃんのこととは言えず、口篭もっていると
私の様子に気づいた三上が適当に話を進める。
三上のように話せば、どうとでも誤魔化せるのに
自分が思ったより、動揺していたことに気づく。
「そっちはどう?変わりない?」
「ああー。同じクラスになった女共が超ウゼー。あとは別に。」
「暗にモテるって自慢してる?」
「しねーよ。そんな面倒くせーこと。ていうか、渋沢もだぜ?
コイツはご丁寧に笑顔で対応してるけど。」
「別に普通だろう?三上こそクラスメイトに冷たすぎるんじゃないか?」
「ああ?冷たくなんてないぜ?期待もたせる方がひでえんじゃねえの?」
三上のその言葉に、克朗が一瞬だけ戸惑う表情をする。
もちろんクラスメイトに対する、自分の対応なんかじゃない。
自惚れるつもりはないけれど、よぎったのは私なんだろう。
「克朗は普通に対応してるだけ。アンタは面倒くさいと思ってるだけでしょ。」
「はっ。まあな。」
「偉そうなこと言える立場じゃないでしょーが。」
「うるせえな。俺によってくるなら、それくらいの覚悟はしろってことだよ。」
「三上クーン。君は何様ですかぁ?」
「あ?『俺様だ』とでも言ってほしいのか?」
「つまんない。」
「ああ?!何だと?!」
「ははは。」
微妙なラインに立つ、私たち。
克朗に想いを告げて、何も変わらなかったわけじゃない。
気持ちを告げて、後悔しているわけでもない。
でも、時々思う。
克朗は本心から私と話しているだろうか。
常に私の想いが頭をよぎって、今まで本音で話していてくれたことに
ブレーキがかかってはしまっていないだろうか。
今までと全く同じようになんて、甘えた考えだとはわかっているけれど。
気持ちを告げて、克朗を混乱させた私が考えることではないのかもしれないけれど。
それでも私は、貴方の支えでありたい。
この気持ちは、ただの幼馴染であった頃から変わらない思いだ。
「ムカツク!俺はもう行くからな!」
「ふーん。じゃあねー。」
「俺も後で戻るよ。」
私を一睨みして、三上が屋上のドアへと向かう。
三上の表情を見て、彼が本当に怒っているわけではないことがわかるのは
なんだかんだで、長年付き合ってきた証拠だろう。
「・・・お前らさ。」
「?」
「誤魔化しあってたって、何も変わりはしないぜ?」
「・・・三上?」
克朗が疑問の表情を浮かべて三上の名を呼ぶ。
それと同時に、バタンとドアが閉まった。
克朗は不思議そうにしていたけれど、私にはその意味がわかった。
三上の言葉は、私たちの関係をはっきりさせるようにとも聞こえる。
勿論、その意味も込められているのだろう。けれど。
「何なんだ一体・・・。」
時々思う。
克朗は本心から私と話しているだろうか。
常に私の想いが頭をよぎって、今まで本音で話していてくれたことに
ブレーキがかかってはしまっていないだろうか。
じゃあ、私は?
私は克朗に、本音をぶつけていただろうか。
ちゃんの話題を避ける克朗に甘えて、私もその話題に触れなかった。
けれどそれは、逃げていただけだ。
克朗自身に告げられていた、ちゃんへのその想い。
それを知っていた私が、その想いを無視して
克朗と一緒にいることなんて、そんなことできるはずもない。
叶ったとしてもそれは、本当の付き合いじゃない。
本音をぶつけずに、逃げていた私に
克朗が本音で話すことができなくても当然だ。
「ごめん。・・・ありがとう三上。」
気づかせてくれたことに。
今でも寄せてくれる想いに応えられないことに。
あんなに切なそうな表情で、それでも私の背中を押してくれることに。
それは、隣にいる克朗にすら聞こえない小さな声。
不器用で素直じゃないけれど、それでも優しくて強い彼へ向けて呟いた。
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