その優しい笑顔が。





その温かな空間が。





羨ましくて、仕方がなかった。












想い











 です。趣味は・・・スポーツ観戦かな?
自分でするのも結構好きです。よろしくお願いします。」





新学期の恒例というか、なんというのか。
新クラスで順番に自己紹介が始まる。
自分の番がまわってきて、簡単に自己紹介を終える。





さんと同じクラスじゃん!超ラッキーじゃね?」

「だよなっ。是非ともお近づきになりてー!」

「ちょっと男子!聞こえてるし!!
ちゃんには、ちゃんとした相手がいるんだから!手出さないでよ?!」





私よりも盛り上がっている周りを見て、苦笑する。
ここにも私と克朗を理想視する子がいたか・・・。またうるさくなりそう。
それに・・・。





「・・・ です。趣味は、読書です。
よ、よろしくお願いします。」





視線の先には緊張気味に自己紹介を終えたちゃん。
私たちを理想視していたのなら、当然ちゃんの存在も知っているはずだ。
いくら二人の関係が終わっていても、この場でするべき話じゃない。





「あ、さんもいるじゃん。」

「ああ。渋沢くんの気まぐれの子?」

「暗そ〜。すぐ別れてくれて本当よかったねー。」





今度は私の近くの女子。離れた席に座るちゃんには聞こえてはいないだろう。
けれど、陰でコソコソとするやり方は大嫌いだ。

そんな彼女たちを一瞥して、小さくため息をつく。
いっそ別の高校だったら、私たちを知る人が少なかったのに。
ちゃんのことを気にすることだってなかったのに。
なんて、無理な話だけど。

まあ、そのうちこの話題も飽きてくるだろう。こんなの最初だけ。
克朗とちゃんが付き合いだしたときも、別れたときも騒がれたのは一時で
いつの間にかいろんな噂も消えていた。

大丈夫。
そうしたら、またいつも通りになって。
私はちゃんに極力関わらなければいい。
そうすれば余計な気苦労もない。

きっと、大丈夫。

















「・・・。」

「・・・。」





ちゃんには極力関わりたくなかったのにな・・・。
なんて素敵な偶然なんだろうか・・・。





「よし。じゃあ任せたぞ?」

「わかりました。」

「はい。」





新クラスの担任となる先生が、1枚の白い紙を私に渡す。
それはクラスメイトの名簿。
授業が始まる明日の前に、生徒の席の配置が書かれた別紙に名前を書き込む作業を頼まれた。

頼まれた生徒は二人。
先生が小さなペンを転がして、ペンの両端が指した二人。
くだらない・・・。くだらないと思ったその選択方法に、選ばれた二人。
一人は私、そしてもう一人は。





「・・・よし!とっとと終わらせようかちゃん!」

「う・・・うん。」





関わりたくなかったちゃんだった。
あんなくだらない方法で、なんて恐ろしい偶然を起こしてくれたものだ。

半ばヤケになった気持ちで、精一杯笑顔をつくる。
だってもう、彼女は関係ない。克朗とは別れてるんだから。
例え、最後にあんな気まずい会話で終わってても、もう関係ない。





「ここの席は?誰になるの?」

「えっと・・・田中 竹広くん。」

「うん。・・・よしっと。じゃあ、次は?」





お互い、こういう作業は向いているようで
白紙だった席順表がどんどんと埋まっていく。





「結構楽勝かもね。意外と早く終わりそう。」

「うん。そうだね。ちゃんが効率のいい方法考えてくれたから。」

「いや、そんな褒めなくていいから。」

「でも、本当にそう思ってるよ?」

「改めて言われても照れるだけだから。あんまり褒めないで。」





ちゃんが穏やかに笑みを浮かべる。
なんて、優しい笑顔。
見てるこっちが安心するような、温かな笑顔。
克朗が惹かれたのは、この笑顔だったのだろうか。

一瞬、そんなことを考えて我に返る。
関係ないって思ったばかりなのに、すぐに克朗と結びつけてしまう。

それと同時に思っていたよりも普通に、ちゃんと話せることに驚いた。
別にちゃんとそれほど大きな何があったわけでもないけれど、
ちゃんと話すときには自分は絶対構えてしまうのだろうと思っていた。

ちゃんに感じる、複雑な感情が消えたわけじゃない。
けれど穏やかに笑うちゃんといると、その感情を忘れたように自然に言葉が出てくる。



・・・ああ。この子はそういう子なんだ。
側にいるだけで、安心できる。言葉は少なくとも、穏やかな気持ちになれる。
きっと克朗は、無意識のうちにそれを求めた。だから・・・。





ちゃん?どうかした?」

「・・・あ、ううん。何でもない。」





ちゃんを見ていると、克朗を思い出す。
私といるときの克朗じゃない。
ちゃんといるときの克朗を。
愛しそうに、ちゃんを見つめる克朗の顔を。

やっぱりダメだ。
普通に話せても、心の中はグチャグチャで。
ちゃんと話せば話す度に、醜い感情が押し寄せる。
自分勝手だって言われても、私はそんな自分になりたくない。





「よし。じゃあラスト一人だね。」

「うん。」

『おい。ドアの前に突っ立って、何してんだ?』





最後の一人の名前を書き終えたとき、教室のドアの外から声が聞こえた。
聞き覚えのある声に、ドアの方へ目を向ける。それと同時に、教室のドアが開けられる。





「オラ。いるじゃねーか。お前は何で突っ立って・・・」

「・・・三上・・・。」

「・・・あー。」





勢いよくドアを開けたのは三上。
そして、その後ろにいたのは。





「克朗・・・。」





こっちを見つめたまま、動こうとしない克朗だった。
そして。





「・・・。」





私の目の前にいた女の子も、克朗を見つめて
ただただ、茫然としていた。












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