急いでいるわけじゃない。
けれど、少しだけ。
ほんの、少しだけ寂しい。
想い
「ちゃんちゃん!何組だった?!」
「ん?B組だったよ。」
「ええー。私D組なんだけど!ちゃんと同じクラスがよかったぁ〜!」
「ありがと!まあ仕方ないよ。こればっかりはね・・・。」
時は流れて。
高校生となった私は、昇降口に貼り出された、クラス分けの紙を眺めていた。
そこで、B組の紙に自分の名前があるのを見つける。
自分の名前を見つけ、今度はもう一人の名を探す。
彼は、どのクラスになるのだろうか。
「。」
「わっ。克朗。」
名前を探していた本人に、声をかけられ驚く。
私の肩に手をかけた克朗が、苦笑している。
「何驚いてるんだ。はどこのクラスだった?」
「克朗が急に声かけるからでしょ?私はB組。克朗は?」
「俺はC組だ。隣のクラスだな。」
隣のクラス・・・。
まあ、そんなに都合よく同じクラスになれるわけでもない。
こればっかりは仕方ない。ってさっき、友達にも言ったセリフだし。
そもそも武蔵野森の生徒数は、かなりの人数。
確率的にも特定の人と同じクラスになれる可能性は低い。
隣のクラスだっただけでもよしとしよう。
「さんと渋沢くんだー。やっぱりお似合いだよねー。」
「付き合ってないとか、絶対嘘だよね。
あんなに仲よさそうでさー。」
「いいなー。私もあんな二人みたいになりたいっ!」
ざわめいた昇降口の中で、何人かの視線を感じる。
またか・・・。そう思って周りを見渡す。
私と克朗を見て、ニコニコしながら話す女子の集団がいた。
武蔵野森高校は、大学の付属なので中学からの持ち上がりがほとんど。
私と克朗を理想視していた子たちも、当然同じ学校だ。
隣にいた友達も、いつの間にかいなくなってるし・・・。
「高校でも、周りがうるさそうだね。」
「そうだな。まあ、中学からの持ち上がりのようなものだし。」
「ま、今までと変わらずに、私たちが気にしなければいい話か。」
「ああ。こういうことは俺たちの問題だ。」
克朗に想いを告げて。
私たちの関係は変わっていない。
未だ変わらず、幼馴染のまま。
けれど、克朗の意識は少しだけ変わって。
私の前で、私のことを、『ただの幼馴染』と言わなくなった。
今まで通りでいいと言ったけれど、克朗は私への気遣いを忘れない。
私が傷つくだろうことは言わない。ちゃんの話題も出なくなった。
私を思って、そうしてくれることがとても嬉しい。
けれど、今まで何でも話してくれていた克朗が
こんな形で私に気遣うことが少し寂しくもあった。
ちゃんの話なんて聞きたくないと思っていたくせに、こんな矛盾した考えを持つ自分に呆れてる。
「そういえば、三上も俺と同じクラスだったぞ。」
「え。そうなの?克朗また三上の世話係になっちゃうじゃん。」
「おいおい。世話係って・・・。」
「だーれが世話かけてんだよ。人を問題児みたく言うんじゃねーよ!」
困ったように笑う克朗の後ろに、
引きつった笑いを浮かべた三上が腕組みをしたまま、立っていた。
「急に出てこないでよ三上。
だってどうみたって、問題児なんだから仕方ないじゃない。」
「ああ?!どこがだよ!」
「クラスでもめたり?サッカー部でもめたり?他校ともめたり?
問題児じゃないと言う要素がどこにあるのかしら?」
「くっ・・・!この女っ・・・。」
「。それくらいにしといてやれ。三上だっていいところはたくさんあるぞ。」
「・・・どの辺りが?」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、ホラ!三上は口がうまいぞ!」
「それはいいところとは言わねえ!!」
「よーく考えて、出てくる答えはそれしかなかった、と。」
「嫌な締め方してんじゃねーよ!!」
三上とくだらない言い合いを続けていると、
克朗が新しいクラスメイトに呼び出され、この場を離れる。
克朗の姿が見えなくなると、三上が言葉を止め、
私の肩に腕をかける。
「ちょっと!何してんの三上。離してよっ。」
「何?赤くなってるわけ?チャンも可愛いとこあるじゃねーか。」
「うるさいっ!いいから離せっ!」
肩にかかっている腕を叩き、無理矢理はがす。
三上はしぶしぶと私から離れ、代わりに耳元で小声で囁く。
「よかったなー?隣のクラスなんて近くになれて。」
「何が?」
「とぼけんなよ。俺にだって、もう本人にだってバレてることだろ?」
「・・・うるさいな。変に意識したくないのよ。別に結果を急いでるわけでもない。」
「ふーん。・・・ま、せいぜい無駄な足掻き、頑張れよ。」
「アンタって本当ムカツクわね。」
「お褒めの言葉、アリガトウ。」
私の心を見透かしたかのように笑う三上を睨みつける。
三上は気にした風もなく、意地悪く笑っていた。
「そういや浮かれてんのもいーけど、別のクラスの前に自分のクラス、よーく見といた方がいいぜ?」
「え?」
意味深なセリフを残して、三上がその場を去っていく。
疑問に思いながらも、自分のクラスメイトとなる名前の一覧を目で追っていく。
「・・・え・・・?」
思わず小さな声をあげる。
私の目が止まったその先には
『 』
克朗が敢えて話題を避けていた、
私が無意識に考えないようにしていた、
その人物の名前が書かれていた。
武蔵野森の生徒はかなりの数がいて。
確率的にも特定の人と同じクラスになる可能性は低いのに
なんて、偶然なんだろうか。
正直、同じクラスにはなりたくなかった。
克朗とちゃんはもう別れてる。
もう関係ないし、私自身関わりたくないなら、ちゃんに近づかなければいいんだから。
「・・・もう関係ない。」
ざわつきの残るその場所で、小さく呟く。
ぐるぐるといろんな考えが巡る頭の中で、出せてもいない答えを出せたかのように。
まるで自分に言い聞かせるかのように呟いたその言葉は、ざわめきの中に埋もれて消えた。
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