叶わない想い。







それでも、願う。








例えばそれが、どんなに先のことであっても。















想い

















「ずっと、ずっと克朗のこと、好きだったよ。」





ずっと秘めてきたその想いを、克朗に告げる。
克朗は私を見つめた状態のまま、動かない。

少しの沈黙が続いて、ようやく克朗が言葉を発する。





「・・・好き・・・?が、俺を?」

「うん。ずっと好き。」





確信が持てないような口調で問う克朗に、はっきりと答える。
迷いはない。私は気持ちを伝える。あんな後悔をもう、したくはない。





「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、頭が追いついていなくて。混乱している。」

「大丈夫。待ってるから。」





こうなるだろうことは予想してた。
克朗が私を女として見ていないことなんて、痛いくらいにわかってたから。
ただの『幼馴染』でしかなかった私が、克朗を好きだったなんて思ってもみなかっただろうから。





「・・・。」

「何?」

「お前の・・・その言葉は、恋愛感情として・・・ってことなんだよな。」

「・・・そうだよ。」

「・・・何故、俺を?確かに俺にとっても、は大切な存在だ。
けれど、俺たちはずっと、ただの幼馴染だったじゃないか。
のことだって・・・一番話していたのはお前だぞ?!」

「『ただの幼馴染』って思ってたのは克朗だけ。私はとっくに克朗が好きだったよ。
ちゃんのことも・・・何でもないってフリをしてただけ。
気持ちを気づかれるのが怖くて、演じてただけ。」

・・・。」

「確かに私たちは幼馴染で。いつも一緒にいて。まるで家族みたいで。
克朗にとっては近すぎる存在で、恋愛感情が起こることなんて全然考えてなかったと思う。」

「・・・。」

「でも、私は好きになった。克朗を、好きになってしまったから。
克朗が何とも思っていなくても、気持ちは止められなかった。」

。俺は・・・。」





少しだけ俯いて、困ったような表情を見せる。
わかってた。克朗は私と、今の距離でいることを望んでいた。
男でも女でもなく、自分が信頼の出来る幼馴染。気兼ねなく話せる相手。

きっと私も克朗と同じ思いだろうと、そう思っていたはずだ。
けれど私は克朗を好きになった。
『女』として見てもらいたいと、願ってしまった。





「・・・すまない。俺はお前をそういう感情で、見ることはできない。」

「知ってるよ。」

「・・・え?」

「どれだけ一緒にいたと思ってるの?
私を恋愛対象でみてなかったことなんて、とっくに知ってるよ。」

・・・。」

「でもさ。」





申し訳なさそうな表情をする克朗を見上げて、笑う。
そして素早く克朗の腕に、自分の腕を絡ませる。





「なっ・・・!?!」

「まずはここからでいいよ。」

「・・・え?何を・・・。」

「克朗。今、初めて私を意識してるでしょ?」





赤くなった克朗は、未だ言葉の意味を理解できないでいる。
私は克朗に腕を絡ませたまま、言葉を続ける。





「克朗が私に対して、赤くなったり、慌てたりしたことってある?」

「いや、だってお前は・・・。」

「・・・なかったでしょ?『ただの幼馴染』だったから。」

「・・・。」

「けど、今は赤くなってる。
それって私が『女』だって、自分を好きでいる相手だって思ったからじゃないの?」

「!」

「今は、それでいいよ。」





私は克朗の腕に絡めた、自分の腕を解く。
赤くなって、それでも複雑そうな表情を見せる克朗に笑顔を見せる。





「今まで通りに幼馴染で、今まで通りに一緒にいて。
今まで通りに話してくれていい。」

・・・。」

「でも、どんなに先でもいいから。」













「私を、好きになってほしい。」














二人の間をひとすじの風が駆け抜けて。
赤い顔をして困惑していた克朗が、私をまっすぐに見つめる。





「・・・俺は、を恋愛対象として見ていなかった。
これから・・・恋愛対象として見たとしても、好きになる相手はお前じゃないかもしれない。」

「そのときは言って。
同情なんかで付き合われるのなんて嫌。克朗なら私のそういう性格、わかってるでしょう?」

「お前は、それでいいのか?」

「うん。それでいい。」





日も暮れだして、夕日が私たちを照らす中
しばらく無言のまま向かいあう。

克朗は私をどう思っただろう。
いくら今のままでいいと言っても、きっと今のままではいられない。
その関係を壊した私を、どう思っただろう。





「帰ろうか。」

「・・・うん。」





克朗がいつもの通りに微笑んで歩き出す。
私の言葉の通りに、いつも通りの幼馴染として接してくれる。

いいんだ。私はもう、克朗に気持ちを伝えた。
気持ちを伝えず後悔していたときよりも、気持ちはスッキリとしている。
後悔したまま克朗といるよりも、自分の想いを伝えて、正直な自分で克朗の側にいたい。

私も今のままでいればいい。
克朗に気持ちは伝わった。今は、それだけで。











今はまだ叶わなくても。





いつか、いつか叶うといい。





私と同じ想いを、貴方が持ってくれるといい。





それだけで私はきっと





誰よりも幸せになれるんだ。











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