ずっと秘めてきた気持ちを。









ずっと、伝えたかった想いを。













想い















「・・・お疲れ。」

「・・・ああ。ありがとう。」





3年にとって、最後の大会。
武蔵野森は地区予選を勝ち抜き、全国大会に進出した。
皆の調子は絶好調で、このまま全国優勝をしてしまうのではないかと思えるほどだった。

けれど、それはエースのケガによる途中退場から、流れが変わった。
武蔵野森のエースである藤代が、対戦相手との接触で足にケガを負った。

もちろん藤代の性格からして、大人しく引き下がるなんてしなかった。
止めたのは、桐原監督と、克朗だった。





「キャ・・・キャプテン・・・。」

「藤代。そんなに情けない顔をするな。俺たちは精一杯やったんだ。胸を張っていい。」

「けど、けど!俺が、俺がケガなんてしなかったら・・・!」

「スポーツに『もしも』はない。これが結果だ。俺たちは・・・藤代だって精一杯戦っただろう?」

「・・・っ・・・。」

「俺たちはこれで最後だが、お前らには来年がある。来年こそは全国制覇を期待してるからな。」

「う・・・くっ・・・」





悔しそうに涙を流す藤代の肩を、克朗が叩きながら励ます。
藤代につられて、他の部員も泣き出す。つらくて。悔しくて。

3年間、ずっと側で見てきたサッカー部。
試合に負けて引退する先輩たちも見てきた。
けれど、今年が一番悲しくて、悔しくて。
このメンバーでするサッカーの試合は、きっとこれが最後。
皆が泣いているその後ろで、私も静かに涙を流していた。





「藤代。」

「・・・三上先輩・・・。」

「お前がケガしたから負けたなんて、自惚れてんじゃねーぞ。
お前がいたって変わらない結果だったかもしれねえ。結果は結果なんだからな。」

「・・・。」

「お前はとっととケガ治して、とっとと練習始めろ。
強い学校はどんどん上に来てる。油断して、負けたりしたら承知しねえぞ。」

「・・・三上先輩。慰めてくれてんすか?」

「慰めてねーよ!こっち来んな!てめーは安静にしてろっての!!」

「全く素直じゃないっすね!三上先輩!!」





二人のやり取りに、さっきまでのしんみりした雰囲気が吹き飛ばされ、笑い声がこぼれる。
藤代の言うとおり、本当、素直じゃないよね。三上って。
さっきの言葉も、三上なりの後輩への激励の言葉なんだろう。
格好つけて悪ぶったって、サッカー部の皆にはバレバレだっていうのにね。





「あっ!先輩!」

「・・・え?」

先輩が泣いてる!俺、初めて見た!!」

「・・・え?ええ?!う、うるさいな!泣いてないし!!」

「とかなんとか言って、目が赤いし!大丈夫!可愛いっすよ先輩!」

「うるさい!もう、ふざけてないでとっとと荷物を片付けなさい!」

「はーいっ!」





三上のこと、笑えないし。
素直じゃないのは、私も一緒だった・・・。























「お疲れさまでしたっ・・・!キャプテン、また練習来てくださいね!?」

「ああ。参加させてもらうよ。」

先輩もですからね!俺ら、待ってますから!」

「わかったよ。じゃあ私もお邪魔させてもらうから。」

「約束ですよ?じゃあまた、お疲れさまっした!!」





大会会場から電車に乗り、駅からの帰り道、方向が同じだった部員と別れる。
学校ではまだ普通に会うけれど、部活としてはもう引退だ。
なんだか胸にポッカリと穴が開いたような気持ち。
今までそこにあったものが、無くなってしまうような、そんな気持ち。





「終わったな・・・。」

「そうだね。なんかこう・・・感慨深いものがあるよ。」

「あいつらだったら、来年、もっと強くなれる。」

「うん。なれるよ。」

「俺も負けていられないな。高等部に行くまでに、もっとうまくなっていたい。」

「そうだね。高等部1年でだって、レギュラー取っちゃえ!」

「ああ。そのつもりだ。」





克朗が、力強く頷く。
克朗は周りとの協調性に優れていて、争いを好まなそうだけど
実はかなりの負けず嫌い。まあ、負けたくないから練習して、練習して、練習して。
『武蔵野森の守護神』なんて呼び方をされるようになったんだけど。





「この後は受験・・・って、まあ克朗なら余裕か。」

「今の成績を落とさなければ大丈夫だな。」

「ていうか、うちって大学の付属なのに、進学試験が厳しすぎなんだよね。
一応文武両道って言われてるから仕方ないけど。」

「ははは。厳しすぎって言ったって、は常に上位の成績を取ってるじゃないか。
そんなに不満を言う立場には見えないぞ。」

「それは私が努力して努力しまくっていたからです。
・・・目的が、あったからね。」

「目的?なんだ?なりたいものでもあるのか?」





克朗が興味津々の顔で私を見る。
私は克朗の顔を見つめ返して、静かに深呼吸をする。





今なら言える。
もう後悔なんてしたくないから。
私が『優秀』でありたかったのは。努力を積み重ねていたその理由は。










「克朗に、追いつきたかったから。」










貴方の側に、いたかったから。
克朗の隣にいて、克朗と一緒に、並んで歩いていきたかったから。











「俺に・・・?」

「そう。克朗に。」










克朗が不思議そうな顔で私を見る。
まあ、幼馴染と思っている相手に、いきなりこんなこと言われてもわからないだろうね。










「俺に追いつくって、何に追いつくんだ?
とは成績だって、何だって、ずっと一緒だったじゃないか。」

「それっていつからだったか覚えてる?」

「いつからって・・・。」

「小学校5年から。それまでは私、克朗に何一つ叶わなかった。
ううん。克朗だけじゃない。たくさんの子に負けてた。勉強も、運動も。」

「・・・。」

「これ以上ないって位、努力したから。克朗に、追いつきたくて。隣に並びたくて。」

「何で・・・。」

「ずっと、いたかったから。」










「克朗の、側に。」











克朗が混乱した顔のまま、私を見つめている。
この状況に頭がついていけてないって顔をしてる。
ここまで言っても理解できない克朗にとって、私は間違いなく『ただの幼馴染』だったんだろう。
とても大事に思ってくれていても、私を女として見ることなど、なかったのだろう。










「え?あの、?意味がよく・・・。」

「克朗が好き。」










混乱した克朗の言葉を遮って、この想いを告げる。
克朗は驚いた表情を見せたまま、固まっている。
そんな克朗を見て、再度口を開く。

ゆっくりと、その言葉を、想いを、噛みしめるように。











「ずっと、ずっと克朗のこと、好きだったよ。」


















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