想いの先は違っていても







それでも側にいたいから。














想い

















「つまんねえ。」

「・・・は?」

「なんでこう・・・ドロドロしたこともなしに、うまくいってんだよ!」

「・・・三上さん?意味不明なこと言ってるなら、他をあたってくれますかしら?」

「意味不明じゃねーよ!渋沢と!別れたんだろ?」





克朗とちゃんが別れたことは、瞬く間に学校中に広がった。
全くどうしてこんなに早く噂が広まるんだか。
クラスでは朝から質問がひっきりなしだ。私でこうなんだから、
克朗とちゃんはもっと大変なことになっているのだろう。
相変わらず克朗は、あまりにも普通に見えるのだけど。





「だから何?言ってる意味がわからないんだけど。」

「俺はもっとドロドロした女の戦いを期待してたんだけどな。
結局何もなしに、あいつら別れちまったじゃねーか。」

「・・・そーだね。」

「で?お前は渋沢に告ったわけ?」

「・・・何でいちいち三上に報告するのよ。」

「・・・ふーん。まだ言ってないわけか。」





三上が私の態度から私の行動を勝手に推測する。まあ・・・当たってるけどさ。
腕組みをしたまま不満そうに、私を見る。





「今が落としどころじゃねえの?弱ってるアイツに優しくしてやったら?」

「うるさいな。私がどうしようと勝手でしょ?」

「格好つけてたってどうしようもねえだろ?渋沢がどうとか、がどうとか
そんなこと考えて、またタイミング逃してもしらねーぞ。」

「・・・。」

「たまには、思ってるまま突っ走ってみれば?」

「・・・三上。」





ドリンクを作っていた手を止め、三上を見る。
三上は真剣な表情で、私を見つめていた。





「ま、安心しろよ。突っ走って玉砕しても、俺が慰めてやるし。」

「・・・は?」

「しっかり振られれば、しつこいお前でも諦めがつくだろ?」

「・・・三上くーん?」

「おっと。そろそろ行くか。」





デビスマを浮かべながら、三上が部屋から出ていく。
・・・せっかくお礼を言ってやろうと思ったのにな。
最後の最後であんな風に言うところが三上らしい。

自分を想っていない相手の応援をすることが、どんなにつらいか私は知ってる。
三上があまりに優しすぎて、胸が痛んだ。























「克朗。今日は一段と気合入ってたね。」

「ああ。最後の大会ももうすぐだからな。」





部活が終わり、日も暮れて暗い道を二人で歩く。
ちゃんのことがあって、学校では未だに騒がれているというのに
サッカーに関して、その影響はやはり見えなかった。
いつも通りのキャプテン。いつも通りに皆の中心だった。





「そうだよね。もう中学じゃ最後の大会なんだよね。・・・なんか、実感ないかも。」

「武蔵野森のサッカー部に入って、必死で練習して。あっという間だったな。」

「だね。今となっては桐原監督の怒鳴り声もいい思い出でしょ?」





3年にとっては最後の夏の大会。
その日はもうすぐそこまできていた。
武蔵野森中で練習してきた3年間を、皆を見てきた3年間を思い返す。





「ははは。そうだな。特に1年の頃は何度も怒鳴られていたからな。」

「あれは本当ーに怖かった・・・。端から見てるこっちがハラハラしたよ。」

「けど、そのおかげで俺も大分成長できた。」

「・・・確かにね。やっぱり桐原監督ってすごいんだよねー。」

「やっぱり?何か含めた言い方だな?」

「・・・うーん。実は最初、桐原監督は苦手だったので・・・。」

「え?そうだったのか?」

「だって・・・克朗にばっかり強く言うし。うまくなっても褒める言葉もなかったしさ。
こう、怒りが沸々と・・・。」

「・・・。」

「どこ見てんだ監督!ふざけてんの監督!・・・みたいな気持ちになってたりね。」

「はははっ!」





そのときの怒りを思い出しながら、
ジェスチャーをまじえて話す私を見て、克朗が笑いだす。





「ははっ。そんなこと思ってたのか・・・?」

「だってあの時の監督、ひどくなかった?!厳しいにもほどがあったよ?」

「確かに監督は厳しいが、言ってることは間違ってないよ。」

「わかってる・・・っていうか、後からわかったけどさ。克朗を期待してるから、人一倍厳しかったんだよね。」
それに気づいてからは、苦手じゃなくなったし。」

「そうだな。苦手じゃなくなってくれて、よかったよ。」

「笑うなっ!そもそも克朗が大人すぎなんだよ。
うちらの年だったら、そんなこと気づかないで、反抗心でも芽生えるものだったんじゃないの?」

「そうか?俺が大人なんじゃなくて、が子供だったんじゃないか?」

「むかつくー!絶対っ克朗が大人びすぎてたんだからねー!」





他愛のない言い合いをしながら帰路につく。
二人の時間はやっぱり幸せで。
いつまでも一緒にいたいと、やっぱり何度だって思う。



言い合いが終わって、暗い道に静寂が戻る。
私は、今一番聞きたかったことを口に出す。





「・・・克朗。」

「ん?何だ?」

「・・・大丈夫?」





克朗が私を見つめる。
私の言葉の意味を理解したように、まっすぐ見つめて、そして、微笑む。

大丈夫じゃないことはわかってる。
でも、克朗が苦しみを一人で抱えてるのだけは嫌だから。
私が側にいることで、少しは苦しみを忘れられている?
少しは支えになれている?





「ああ。大丈夫。」

「本当に?」

「ああ。俺にはサッカーがある。友達もいる。それに・・・。」











も、側にいてくれるんだろう?」











克朗のさりげない一言に、胸が熱くなる。
わかっている。この言葉は幼馴染に向けられた言葉。
だけど嬉しくて。本当に嬉しくて。





「だから、大丈夫。」

「・・・よし。じゃあ心置きなく、大会に臨めばいいさっ。」

「ああ。悔いの残らないよう全力を尽くすよ。」





私は克朗の顔を見ず、明るく言葉を返す。
克朗もいつもの穏やかな声で、前向きに言葉を返す。

顔は上げられなかった。
浮かんだ涙が見られてしまいそうで。
貴方への想いが溢れ出してしまいそうで。












たとえ、望んでいる形とは違っていても、克朗の力になれていたことが嬉しい。
これからも、支えになりたい。力になりたい。





『好き』の種類が違っていても、想いの方向が違っていても





側に、いたい。












この気持ちを伝えたい。





こんなにも、貴方を想っていること。





こんなにも、誰かを愛しく思える気持ち。





今度こそ、後悔なんてしたくない。





だから。













伝えよう。





溢れ出しそうなこの想いを、貴方に。











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