あんなにも愛されて。







あんなにも幸せそうで。








それ以外に欲しいものなんて、なかったのに。













想い












ちゃーん!先生が呼んでたよ?」

「え?何だろう?」

「また褒められるんじゃないの?ちゃんこの前のテストも1番だったから。」

「あんなのたまたまでしょ?その前のテストは克朗が1番だったんだし。」

「渋沢くんかぁ。二人ともすごいよね。やっぱりお似合いだよv」

「・・・だから違うって言ってるでしょ?大体克朗には・・・彼女がいるし。」

「・・・まあ、そうだけど・・・。けどさー・・・。」

「さて、くだらない話は置いといて、じゃあちょっと行って来るね。」





少し不満そうなクラスメイトを残して、私は教室を出る。
克朗に彼女が出来ても、未だにそれを認めない人はいる。
特に私のクラスでは、それが多かった。
そんなに『理想』って大事なのだろうか。本人たちの意志も無視するほどに。





職員室に着き、担任の元へ向かう。
呼び出された理由はやはりたいした理由ではなく、資料整理の仕事を任されただけだった。
こういうとき、頼まれやすい『優等生』は面倒だなって思う。
まあ雑用って嫌いではないし、一人ならゆっくり考え事もできるからいいんだけど。

放課後は部活があるから、丁度昼休みの今やってしまおうと資料室へ向かう。
するとその途中、今、最も見たくない女の子を見かける。





「・・・ちゃん・・・。」





彼女を初めて見たときのように、重たそうな資料を抱えてフラフラと歩いている。
目の前にいる私の存在にも気づかずに、必死でその資料を抱えている。そして。





「きゃあっ」





彼女の小さな悲鳴とともに、その資料が床に散らばる。
ちゃんは慌ててその資料を拾い出す。





「・・・大丈夫?」

「すみませんっ。ありがとうございます。・・・あ・・・!」





私の足元にまで広がった資料を拾い、ちゃんに渡す。
やっと私の存在に気づいたちゃんが、声をあげる。





「どうしたの?こんな大量の荷物。誰かに手伝ってもらったらよかったじゃない。」

「あ・・・う、うん。こんなに大量だとは思わなくて。」

「・・・ふーん。」





そのまま無言で、資料拾いを手伝う。
きまずい沈黙が流れたまま、全ての資料を拾い終える。





「・・・ありがと。ちゃん。」





お礼を言う彼女の重たそうな資料を半分持つ。
ちゃんは驚いた顔をして、私を見た。





ちゃん?!」

「半分持つよ。ちゃん一人じゃつらいでしょ?」

「え・・・ううん!大丈夫だよ!悪いから・・・。」

「人の好意には素直に甘える!私がいいって言ってるんだからいいじゃん?」

「あ・・・うん。ありがとう・・・。」





少し顔を赤くして、はにかんだ笑顔でちゃんがお礼を言う。
やっぱりこの子はいい子だと思う。自分よりも他人を優先する。・・・克朗と少し似ている。

こんな子が、克朗の言うような別れ方をするだろうか。
自分勝手な理由で、理不尽に相手を傷つけたりするのだろうか。
私でさえも騙せるような、嘘の笑顔が作れるだろうか。

しばらく無言で廊下を歩き、私は意を決してちゃんに話を切り出す。





ちゃん。」

「・・・はい?」

「克朗と・・・話した?」

「・・・うん。」

「克朗と、別れるの?」

「・・・。」

「何で?克朗のこと、好きだったんだよね?」

「・・・うん。でも、今は・・・。」

「『他に好きな人が出来た?』」

「・・・!そう・・・です。」





私の問いに、オドオドとしながらちゃんが答える。
彼女の態度に、言葉に、私は怒りが湧き上がってくる。





「じゃあ何?克朗は遊びだったわけ?」

「ち・・・違うよっ・・・。」

「たった数ヶ月で変わるものなの?あんなに笑ってたのに。あんなに・・・」





幸せそうだったのに。





「もう、どうしようもないんだよ・・・!」

「・・・。」

「自分勝手だってわかってるけど・・・ごめんなさい・・・!!」





どうしようもない・・・?克朗を想う気持ちがもうないから?
あんなにも愛されて、あんなにも幸せそうで、なら一体何がいけなかったの?
どうしてアンタは、私の望むものを手に入れて、簡単に捨てるの?





「私・・・言ったよね?克朗を、よろしくって・・・。」

「・・・。」

「私を真っ直ぐに見て、頷いてくれたよね・・・?」

「・・・。」

「私、それが本当だと思った。ちゃんの本心だって思ってた。
けど、違ったんだね。」

「・・・私・・・。」

「もう、いいよ。」





何か言いたそうなちゃんを見ず、話を終わらせる。
そして無言のままに、ちゃんのクラスへ資料を運び、その場から去る。
資料を置くときに少しだけ教室を見渡したけれど、克朗の姿はなかった。










克朗。



アンタは今、どんな気持ちでいる?



あんなに大好きだった人に、別れを告げられて。



あんなに幸せそうだった時間の、終わりを告げられて。

















私はいるから。





アンタの側にいるから。





だから苦しまないで。一人で苦しまないで。





私はずっと、克朗の側にいるから。











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