何度思い知らされても。





想いは変わることなく、私の側にあった。











想い










克朗とちゃんが付き合いだして、数ヶ月がたった。
二人が付き合いだして、学校は大騒ぎだった。

何度も、何度も聞かれた。
克朗と付き合ってたのは、貴方じゃなかったのかと。
二人は別れてしまったのかと。

的はずれなその質問に、笑って答えた。
初めからそんなことなかったと。

そんなことがあったのなら、どんなによかっただろう。
そしたらずっと、克朗の側にいられたのに。



そう。初めからなかった。克朗の目に、私が映ることはなかった。



そんな質問攻めも、1週間ほどすると大分無くなり、
それでも『理想の恋人』だった私たちを惜しむ声だけは残っていた。
最近では、やっとその話題が出ることもなくなったけれど。














昼休みに庭のベンチでお弁当を広げる二人を見かけた。

二人とも相変わらず照れ屋で、数ヶ月経った今でも、初めて付き合ったばかりの二人のように初々しかった。
穏やかな二人は、それでも幸せそうに笑っている。



胸は、まだ痛んでいた。



数ヶ月経っても、幸せそうな二人を見ても、この胸の痛みは消えない。
心から笑って祝福することなんて、まだできそうになかった。
私は克朗が好きだし、ちゃんも嫌いじゃない。優しい・・・いい子だと思ってる。

それでも二人を認めることができなかった。
ちゃんのいる場所が、私は欲しかった。
もう叶わない願いだとしても、願わずにはいられなかった。





















。もう帰れるか?」

「うん。大丈夫。行こっか。」





克朗がちゃんと付き合いだしてからも、私たちは一緒に帰っていた。
ちゃんは習い事をしていたため、平日に克朗の練習を見に来ることはあまりなかった。
だから私たちは今まで通りに、二人で帰っていた。

克朗と帰る道のりで話すことは、部活のこと、学校のこと、家のこと。
それがいつも通り。今まで通りの私たちの会話。けれど、数ヶ月前から、もう一つ話題が増える。





「もうすぐの誕生日なんだ。」

「ふーん。」

「俺・・・今まで女の子にプレゼントなんかしたことがないからな。一体何をあげたらいいものか・・・。」

「昔私にくれたじゃん。なんだっけ。そうそう。スポーツタオル。」

「あはは。そんなこともあったな。その時くらい、簡単に決まればいいんだが。」





克朗のさりげない一言が、胸に突き刺さる。
簡単に決まった私へのプレゼント。それは私がただの幼馴染だから。

マネージャーでも、ずっと動き回って大変だろうと。さりげなくくれたもの。
思い出したように話したけれど、忘れたことはないよ。克朗がくれた初めてのプレゼントだったから。
だから今だって、大切に使ってる。克朗は気づいていないのかもしれないけれど。





「・・・今度の日曜。部活休みだよね。買い物、付き合ってあげよっか?」

「本当か?は用事とか・・・。」

「ないない。私は寂しい人間なのでー。」

「ははは。じゃあお願いするよ。」





数ヶ月前から増えた、ちゃんの話題。
何度も、何度も胸が締め付けられた。
私以外の誰かのことを、あんなにも愛しそうに話す克朗は見たくなかった。

けれど、それでも。
克朗と二人で帰れるこの時間は間違いなく、幸せだった。





。」

「ん?」

「お前には・・・好きな奴とか、できないのか?」





克朗の思いがけない言葉に、克朗を見つめたまま固まる。
ねえ克朗。好きな人はずっといる。ずっとずっと、見つめてきた人がいる。





それは、貴方だよ。
私は、克朗が好きなんだよ。





「・・・できないよ。」

「そうか。それでもお前ならいつか、いい奴が見つかるんだろうな。」

「あはは。」





頭をよぎった貴方への想いを、その言葉を飲み込んで、必死で言葉を探す。
どうしてそんなことを言うの?どうして克朗が、そんなことを言うの?
その『いい奴』に、克朗がなってくれればよかった。それだけで私は幸せだったのに。





「克朗。・・・ちゃんが・・・好き?」

「な・・・何をいきなり・・・。」

「好き?」

「・・・当たり前だろ?」

「・・・うん。そっか!」

「いきなりどうしたんだ。」

「別に?克朗の照れたところ見たかっただけー。」

「・・・?」

「まあいいじゃん!日曜付き合うんだから、許してよっ!」

「全く・・・。」





うん。わかっているんだ。
克朗はちゃんが本当に大好きで。ちゃんも克朗が大好きで。
私の入る隙間なんてないことくらい。わかってる。

でも、それでも、何度聞いたって。何度思い知らされたって。
私のこの想いが薄れることはなかった。消えることなんかなかった。
頭ではわかっているのに。それでも心が克朗を諦めようとしない。
想いは消えない。二人を見るときの苦しさが残るばかりで。

こんなに苦しくても、変わることのないこの想い。
いつか、変わることがあるのだろうか。



















「あれ?克朗?」



昼休みにジュースを買いに来た私は、いつも居るベンチに座る克朗を見つける。
その隣に、ちゃんの姿はない。



「何やってんの?ちゃんは?」

「・・・・・・。」

「そうだ!今日はちゃんの誕生日なんでしょ?どうだった?渡した??」

「・・・渡せ、なかったよ。」

「・・・え?」

「別れたんだ。俺たち。」









克朗が何を言っているのか、理解できなかった。
私は驚いた表情のまま、その場に立ち尽くす。










二人を認めることができなかった。
ちゃんのいる場所が、私は欲しかった。
もう叶わない願いだとしても、願わずにはいられなかった。





けれど、私の想いがどうであっても。





克朗は、克朗だけは幸せであるように。そうも願っていた。





それなのに、どうして?





どうして克朗が、こんなにも悲しそうな顔で笑っているの?












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