つらくても苦しくても





この想いに嘘はつけない。










想い











「今日も早いじゃん。」

「三上・・・。」

「散々泣いた割には、目が腫れてるってことはないんだ?」

「余計なお世話。」





克朗と時間をずらすために、早くに学校に来た。
人気のない日曜の学校で、スポーツドリンクを作っているところに声をかけられる。
そこにはニヤニヤと笑って私を見る三上。
昨日のことを思い出すと、かなり恥ずかしい。私は三上を見ないまま会話を続けた。





「三上こそ早いじゃない。」

「まあな。渋沢と時間をずらそうと、早めに来る健気なチャンがいるかなーと思って。」

「・・・あんたムカツク。」

「ははっ。当たってるからムカツクんだろ?」





三上はいつも私の心を見透かす。
早めに来たことも、それを誤魔化す憎まれ口も、彼なりの優しさなんだろう。

私は三上がいい奴だと思ってる。
いつも余裕で何でもこなしているようで、必死で努力していることも知ってる。
私を『完璧』として見ることはないし、一緒にいて居心地がいいのも事実。





けれど。





「三上。」

「何?」

「昨日は・・・ありがと。」

「急に素直になんなよ。渋沢諦める決心でもついたか?」

「ううん。逆。」

「・・・は?」

「昨日アンタに甘えておいて勝手だとは思うけど、やっぱり三上の気持ちには応えられない。」

「・・・。」

「私、克朗を諦めるつもりはないよ。だから三上の気持ちにも応えられない。」

「諦めるつもりはないってどうすんの?略奪愛でもするつもりか?」

「・・・それも、いいかもね。」

「・・・マジかよ?!」

「冗談よ。バカ。」





奪うことができるのなら。本当に私はそんなこともしたかもしれない。
けれど、醜い感情に捕らわれて、克朗を傷つけることだけは嫌だから。





「何をするってわけじゃない。好きで、いるだけ。」

「そんなの不毛だろ?お前は幼馴染で、渋沢から離れることができないのに
その気持ちのままで、別の女と一緒にいるとこを見せられるんだぞ?」

「・・・。」

「そんなの、お前がつらいだけだろ?!」





私がつらいと言いながら、つらそうな顔をしてるのは三上だった。
彼は私の気持ちを理解しているから。優しいから。私のことを想ってくれているから。
だからこんなにも、気持ちをぶつけてきてくれる。必死になってくれる。





「不毛だと知ってても、つらいってわかってても、気持ちに嘘はつけない。」





言葉を失った三上をまっすぐに見つめる。
アンタはいい奴だから。いろんな悪い噂があっても、本当の三上は優しくて、強い人だって知ってるから。

だからこれ以上、私に縛られないで。
アンタならすぐ見つかるよ。私みたいな女を想って、苦しまなくていい。
そんなにつらそうな顔をしなくたっていい。





「・・・わかった。」





三上が私の目を見て、はっきりと言う。
その一言に胸が痛む。私は三上を、傷つけただろう。





「お前の考えでいくと、俺もお前を諦める必要がないってことだな?」

「・・・は?」




続いた言葉に、私は思わず声をあげる。
三上は今、何て言った?





「何・・・言ってんの?」

「俺は諦めねーよ。」

「・・・だから・・・私は克朗が・・・!」





「『不毛だと知ってても、つらいってわかってても、気持ちに嘘はつけない。』」





さっき私が話した言葉を、三上は笑いながら私に返す。
私は困惑したまま、三上を見上げる。





「お前が言った言葉だ。」

「っ・・・。」

「俺を言いくるめようなんて、甘すぎ。」

「別に言いくるめようなんて・・・」

「俺がお前の気持ちをわかるように、お前だって俺の気持ちはわかってるだろ?」

「・・・!」





何も言い返すことができなかった。
相手は違っても、同じ想いを持っている三上。
私の気持ちを理解してくれるように、私も三上の気持ちは痛いほどに伝わる。

だからこそ、私に縛られていてほしくなかった。
こんな想いを抱えたままでいても、三上は幸せになれない。そう思ったから。





「自分のことは自分で決める。お前が気に病む必要なんてねーんだよ。」

「・・・バカ。」

「ああ?!今俺、いい事言っただろ?何でそれがバカなんだよ!」

「バカだからバカなの!ついでに頑固者だし!」

「そのセリフ、そっくりお前に返す!」

「返さないでよ。三上にこそピッタリのセリフでしょ?」

「ああ・・・?!「あー!!三上先輩何してるんすかーーー?!」」





突然聞こえた声に、二人で後ろを振り返る。
そこには少しだけ怒った感じの藤代が立っていた。





先輩と二人で、何やってんすか三上先輩!独り占めなんて卑怯っすよ!!」

「ああ?!うるせーな藤代。俺が何しようと勝手・・・」

「丁度よかった藤代。三上がうるさくて仕事が進まなかったんだよね。連れて行ってくれる?」

「なっ・・!おいお前っ・・・!!」

「了解!直ちに連れていきます!!」

「てめー!藤代っ!!離せっての!!」





意外と力のある藤代に引っ張られて、二人が部屋から出ていく。
私はその光景を笑いながら見送る。










三上の想いの強さに困惑した。
彼の気持ちは知っていた。
けれど私は、これほどまでに強い想いをぶつけられたことはなかった。

私が克朗を想うように、三上は私を想ってくれている。
相手は違っても、その強い想いは同じなんだ。





私は、バカにされても、愚かと言われても克朗を好きでいようと思う。





それが叶わないとしても、それが私の本当の想いだから。












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