貴方の『大切』はもう、私じゃない。
私以上に大切な人が、出来たから。
想い
「あれ?先輩は??」
「え?渋沢先輩と帰ったんだろ?」
「マジでー?一緒に帰ろうと思ってたのにー!!」
「だよなー。渋沢先輩も彼女出来たんなら、先輩と一緒に帰らなくてもいいのになー!」
「まあ、家の方向一緒だし、幼馴染だから、それが当たり前なんじゃないの?」
「ふーん。幼馴染ってそういうもんなのかなー?」
帰ろうとしてる部員の声が聞こえる。
私は部室の裏で、ぼんやりと空を眺めていた。
克朗と帰らないって知ったら、藤代あたりがうるさいだろうし。
何でか異様に懐かれてるんだもんなぁ。
ここで少し休んで帰ろう。今日はいろんなことがありすぎた。
「こんなところで何してんだ?傷心のチャン?」
「・・・三上。」
「泣きたいなら、胸くらい貸してやるぜ?」
「・・・バーカ。いらないわよ。そんなもん。」
「そんなもんって何だお前!!金払ってでも俺の胸借りてー奴なんて山ほどいんだぞ!?」
「アンタこそ、何してんのよ?こんなところで。」
「別に。何も。」
「・・・いいわよもう。私が別のところに・・・」
「今出て行ったら、藤代たちに捕まるぜ?」
「・・・あーもうっ!」
仕方なく、元いた場所に戻り、その場に座る。
すると、三上も私の隣に腰をおろした。
「渋沢も無害そうな顔して、よくやるぜ。」
「アンタは有害そうな顔で、顔の通りよね。」
「・・・はったおすぞ?」
わかってるけどね。ただの八つ当たり。
三上は私の気持ちを知る、たった一人。
ずっと隠してきて、誰も気づいていない気持ちを、三上は言い当てた。
動揺して隠し切れなかった私もバカだけど、三上は秘密を引き出す術に長けているんじゃないだろうか。
「で?どうすんの?」
「何が?」
「渋沢。諦めんの?」
「・・・さあ。」
「諦めれば?」
「・・・。」
「そんで、俺にすれば?」
「またその話。好きな人がいるってわかってるのに、今それを言う?」
「今だから言ってんだろーが。お前が渋沢を諦めて俺と付き合えば、それで丸く収まるってもんだ。」
三上には、前からずっと気持ちを告げられている。
私の気持ちに気づいたのも、それだけ私を見てくれていたから。
けれど、私の心の中にはいつも克朗がいて、受け入れることができなかった。
「三上はさ。私なんかのどこがいいの?」
「お前、それ言ったら、周りの奴らに殴られんぞ?」
「は?」
「『頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗、学校の人気者』の サマが
自分を『なんか』なんて言ってちゃ怒られるってこと。」
「・・・皆、買いかぶりすぎなんだよ。」
「かもな。少なくとも俺が好きになったのは、そんなとこじゃねーし。」
「・・・じゃあ、何がよかったの?」
「・・・教えてやらねー。調子に乗るから。」
「なっ・・・!乗るわけないでしょ?!」
三上が笑いながら私をからかう。
正直、三上と話しているのは居心地がよかった。
三上は私を『完璧』として見ないから。普通に友達として接してくれるから。
「お前が皆の憧れる『完璧』な女じゃなくても、俺はお前が好きだぜ?」
三上のまっすぐな言葉が、胸を締め付ける。
三上は何度も、何度も私にぶつかってきてくれた。
そのときまであった『友達関係』が崩れるかもしれなくても。
気まずくなって、話せなくなるかもしれなくても。
私は、何をした?
何も、しなかった。
克朗の隣にいられるようにって、努力ばかりして、克朗とお似合いって言われることが嬉しくて。
一番大切な気持ちを、想いを、克朗に伝えていなかった。
「・・・伝えれば・・・よかったっ・・・」
心の中で、何度も何度も後悔した想いを、初めて言葉に出した。
「克朗に、言えばよかった・・・」
例えそれで気まずくなっても、今の関係が崩れたとしても
「何で、どうして、私、何も伝えなかったんだろうっ・・・。」
『女』として見てもらえなかったのなら、意識させてやればよかった。
『幼馴染』としか見てもらえないのだったら、それ以上の感情もあると教えてやればよかった。
不安でも、怖くても、ずっと一緒にいたかったのなら。
私の目からは、いつの間にか涙があふれていた。
その涙は、止まることなく頬を流れていく。
「・・・ったく・・・。お前、今告白した男の前で言うセリフじゃねーだろ?」
憎まれ口を叩きながら、三上が私の肩を抱き寄せる。
「まあいいや。お前の気持ちは充分過ぎるくらいわかるしな。
一人で悩むくらいなら、グチくらい聞いてやるよ。それが、渋沢のことでも、お前自身のことでもな。」
私が克朗に向ける想いと、同じ想いを向けてくれる三上。
だからこそ、気持ちがわかる。私は、三上を傷つけてる。
私は三上の気持ちに応えられない。
それでも三上は、私の話を静かに聞いていてくれた。強い、人だと思った。
克朗に好きな人が出来てから、初めて泣いた。
その日は日が暮れて、夜になるまで、ずっと泣きつづけていた。
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