今更、後悔しても遅いのに
それでも後悔っていう感情は、後から後から押し寄せる。
想い
「先輩ー!」
「藤代。どうしたの?」
「本っ当に、本当だったんですね?!」
「はあ?」
土曜日のサッカー部。
私は少し早く来て、昨日分の洗濯物を干していた。
すると藤代が興奮した様子で駆け寄ってきた。
「先輩と渋沢キャプテン!本当に付き合ってなかったんすね!!」
「・・・はあー。だから最初っからそうだって言ってたでしょ?」
「だってだって!二人はどう見たって付き合ってる風にしか見えなかったっすよ〜!!
二人して皆をからかってるだけかと・・・。実は秘密で付き合ってるとか!!」
「ないない。何でわざわざ隠す必要があるのよ。」
サッカー部で毎日話す、身近な人間でさえこうだ。
端から見たら、私たちはどれだけお似合いのカップルだったんだろう。
・・・バカみたいだ。克朗は私を『女』としてさえ見ていないというのに。
「何だ〜!!じゃあ俺も先輩にアタックしていいっすか?!」
「いいけど・・・振るよ?即効で。」
「そんなー!!もうちょっと考えてくださいよっ!!」
「お前には10年早ぇーよ。」
藤代がギャーギャー喚いてるところに、三上がやってきた。
いつもしているデビスマを浮かべて。
「何すか三上先輩っ!先輩なら丁度いいとでも言うんですか?!」
「まーな。少なくともお前よりは。」
「そんなことないっすよ!俺だって、やるときはやる男ですよ!!」
「・・・ていうかさ、何でこんな話になってんの?」
「え、だって先輩がキャプテンと付き合ってないってわかりましたから・・・だから俺もって・・・」
ふとした疑問が浮かんだ。
どうして今まで何度言っても信じてもらえなかった事実を、急に受け入れられてるの?
「あれ?もしかして、先輩知らないんすか?」
「何を・・・?」
嫌な、予感がした。
「渋沢先輩、昨日同じクラスのさんって人に告って、付き合うことになったって。」
− ドクン −
「俺、そのときの告白現場見ちゃって!キャプテン超顔真っ赤なんすよ!
キャプテンも可愛いとこあるっすよね〜!!」
楽しそうに話す藤代を、ずっと見ていることしかできなかった。
心臓の鼓動は早鐘を打っていた。驚きや、不安や、悲しさが押し寄せる。
昨日・・・?
私は委員会の仕事で遅くなって・・・サッカー部に出れなかった。
そのときにはもう、克朗は告白していたんだ。そして、その想いは・・・−
「・・・ふーん。まあ、よかったんじゃない?」
「わー。先輩興味なさげ〜!やっぱり二人は何でもなかったんすね!」
「最初から言ってるでしょ。」
「すいません!これからは俺、信じますからねっ!!」
「つーか、ホラ!時間。練習行きなさいよ。」
「わっ!監督に怒られる!!三上先輩行きましょう!!」
「おわっ!バカ代!!引っ張るなっての!!」
何でもないフリをして、藤代と三上を見送る。
ずっと隠してきた気持ちを、今更誰に知られることなんてあるだろうか。
私の気持ちは誰も知らない。たった、一人を除いては。
「行くぞ!!皆上がれっ!!」
飲み物を運びながら、克朗をぼんやりと見ていた。
克朗はいつもと変わらない。いつもと変わらず、いつものその強さで、サッカーをしていた。
藤代の言ったことは本当なんだろうか?
もしかして、それは私をからかうための嘘だったんじゃないだろうか?
「俺、そのときの告白現場見ちゃって!キャプテン超顔真っ赤なんすよ!
キャプテンも可愛いとこあるっすよね〜!!」
私も、そんな克朗を見た。
自分の好きになった人の話をするとき、告白しようか悩んでいたとき。
好きな人を想って、照れたように笑う克朗の顔。
想いがかなったそのときは、どんなに幸せな顔で笑っていただろう。
きっとそれは、私も見たことのない顔だったのかもしれない。
「。」
練習が終わって、皆が帰り支度を始める。
ぼんやりと仕事を続ける私に、克朗が声をかける。
「・・・克朗。お疲れっ。」
「あの、な。話が・・・あるんだが。」
ああ。もう聞きたくない。
克朗の口からなんて聞きたくもないのに。
「・・・付き合うことに、なったんだって?」
「あ、ああ。何だ、誰かに聞いたのか?」
「藤代から。バッチリ聞きましたよー?」
「・・・ったく藤代は・・・。昨日もサッカー部の皆に言ったようだし・・・参るな・・・。」
照れくさそうに顔を背けながら、赤くなった克朗を見た。
困ったように笑いながら、それでも克朗は幸せそうだ。
「・・・よかったじゃん!OK、もらえたんでしょ?」
「・・・ああ。のおかげだよ。」
やめて。そんなこと言わないで。
私は何もしてない。克朗の想いが叶わなければいいと、そう思ってたのに。
「克朗が、頑張ったからでしょ?」
「・・・ありがとう。」
嘘で固めた笑顔を克朗に向ける。
笑える。笑って祝福する幼馴染を、必死で演じ続けた。
「もう帰れるか。一緒に帰ろう。」
「・・・あー。ごめん。私、親戚のおばさんの家に届け物があるんだ。
今日はこのままそっち行くから、先に帰って。」
「そうか。じゃあ、また明日。明日の朝は一緒に行けるか?」
「ううん。先に行くよ。やりたい仕事があるから。合わせて一緒の時間に行くとか言わないでよ?」
「ははは。わかったよ。じゃあ明日部活で。」
克朗の側に、ずっといれるのだと思ってた。
一番近くにいるのは、私だと、そう思ってた。
けど、わかってた。
いつまでも一緒にいれるわけなんてないって。
例えそれが幼馴染であっても、いつかは別れるときがくるんだから。
私たちが幼馴染である限り、ずっと一緒にいられるなんて甘い考えだってこともわかってたのに。
何もしなかったのは、私だ。
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