そんなに幸せそうに笑わないで。





私以外の誰かを想って、愛しそうに微笑まないで。











想い












「すまない。!」

「・・・。」





私を待たせる形になったため、克朗が走って私の元へ戻ってきた。
その表情は心なしか嬉しそうに見えた。





?どうした?」

「・・・バレバレ。」





一瞬、疑問の表情を浮かべた後に、克朗が顔を真っ赤にした。
私の言葉の意味を理解したようだ。
真っ赤になった克朗なんて、なかなか見れるものじゃない。
こんな形で克朗の珍しい表情を見たって、嬉しくなんかないのに。





「・・・やっぱり、お前には隠せないな。」

「当たり前。どれだけ一緒だったと思ってるの?」





自分で言ってて悲しくなる。
どれだけ一緒にいても、私はアンタの目に映ることはなくて。
どれだけ理解してても、アンタが望むのは私じゃないんだ。





「同じ、クラスの子なんだ。」





克朗は顔を赤らめたまま、自分の想いを少しずつ話しだした。





「今まで話したことも、ほとんどなかった。本当に、ただのクラスメイトってだけで。」





過去を思い出すように、淡々と話す。





「けど、掃除の班が一緒になって。
初めは、全然話さなかったんだ。彼女もあまり人と話すことが得意な方ではなかったみたいで。」





幸せそうに





「掃除の時間で、ふざける奴らが多い中、彼女は黙々と掃除を続けていて。」





いつもの微笑みを浮かべたままに。





「あるとき、自分の担当が早く終わって彼女を手伝ったんだ。そしたら。」





でも、一つだけ違うのは





「普段あまり笑わない彼女が、笑った。笑って、ありがとうと、そう言ってくれた。」





その微笑の中に、『愛しさ』があったこと。





「気づいたときには、彼女に目を奪われていたんだ。
これが、人を好きになるということなのかと、そう思った。」





知ってるよ。そんな気持ちはずっと知ってる。
たとえば今まで何とも思ってなくったって、ふとした瞬間に好きになる。
きっかけなんて、どこにでもあるんだ。私がアンタを好きになったように。





「・・・それで?克朗くんはどうするのかな?その子に告白するの?」

「どうしたら、いいのか。いきなり言われても迷惑・・・だろうか?」





私にそれを聞くなんて、酷いよね克朗は。
私がアンタを好きだなんて、これっぽっちも思ってない。

でも、克朗がそんなことを話してくれるのは限られた人間だけだから。
『大切な幼馴染』だから、信頼してるから、ありのままの気持ちを話してくれる。

そんな克朗が憎らしくて、けれど愛おしい。





「私に聞かれてもなぁ。その女の子のこと知らないし。」

「ああ・・・そうだよな・・・。でも、確かにそんなに知らない奴から、好かれても迷惑・・・だろうな。」





克朗が切なそうな顔で呟く。
そんな顔しないでよ克朗。こっちまで悲しくなってくる。
アンタに協力なんかしたくないのに、手を貸したくなる。





「大丈夫だよ。克朗なら。」

?」

「まずは気持ちを伝えたっていいと思う。伝わらなきゃ始まらない。意識してもらえない。」





私は、何を言っているのだろう。
誰に言ってる?克朗に?それとも、それが出来なかった自分に?





「最初はうまく行かないかもしれない。それで諦められればそれでいいし、
諦められないなら、また挑戦すればいい。」

「・・・そう、か・・・。」

「武蔵野森の守護神ともあろう者が、情けないぞ!当たって砕けろ!!」

「ははは。砕けたくはないけどな。けど・・・ありがとう。」





克朗が嬉しそうに笑うから、私も笑った。
私はうまく、笑えてただろうか?





好きな人が嬉しそうにしててくれるのなら、自分も嬉しい。
好きな人が笑っていてくれるのなら、自分も笑える。
好きな人が幸せでいてくれるのなら、自分も幸せ。
そんな風に思えるほど、私は大人じゃない。





でも、それでも
アンタの悲しそうな顔は見たくなかった。
だから、話を聞くくらいはしてあげる。『大切な幼馴染』として。





克朗の想いが届かないことを祈りながら





そんな醜い想いを抱えたままに





それでも私は、克朗の側にいるから。





『大切な幼馴染』





それでもいいから、側にいさせて。















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