さんはどのような女性なんですか?」

「・・・どうって・・・何がですか?」

「興味があるんです。魔の者に入り込まれ、仲間も失い、信頼していた人々に追われ・・・
泣き出して逃げ出したっておかしくない状況なのに、貴方が話す中では一番強い人に聞こえる。」

「・・・そうですね、強いです。俺なんかより、ずっと、ずっと・・・。」

「そうですか。それは、ますます楽しみです。」

「・・・?」





少し前の須釜さんとの何気ない会話。
その頃はこの会話に意味などないと思っていた。

けれど、今になって思い知る。





彼の本当の目的。











哀しみの華












逃げ込むように須釜さんの元へ行き、なんとかこの町から離れようと説得する。
俺の目的が知られてはならないから慎重に。けれど出来るだけ早く。
そう思っていたのに、なかなか思い通りにはならない。その理由は須釜さんが何かを悟っていたことと、もうひとつ。
俺の体の問題。体は痛み、動こうとしても鉛のように重く感じて、思う通りに動けない。

はやく、はやく、ここから離れなければ。
彼の目的はわからない。けれど、や真田を巻き込むわけにはいかない。
俺の体も意識も、もう長くないのだとしたら、一刻もはやく行動に移さなければ。



けれど、いつも俺よりも一歩先を行っていたのは、須釜さんだった。





「そうですね、それは僕にもできません。」

「それなら私たちを助けられるとは言えないわ。」





俺の知らないところで、彼は既に動き始めていたのだ。





「・・・それなら今すぐに、竹巳の力を制御してみせて。」

「返事はOKということでいいんですね?」





!・・・なんでっ・・・ここに・・・!」





須釜さんとの会話。彼女を目の前にした、須釜さんの表情。
俺はようやく、彼の目的が何だったのかに気づく。





お互い他人だと距離をとり、けれどいつしか大切な存在になった。
強がって涙すら流さず、いつだってまっすぐで正直で。

俺はそんな彼女を尊敬し、憧れ、守りたいとそう思った。





それなのに俺の勝手な行動が。浅はかな考えが。望んでしまった願いが。





また、彼女を傷つける。




















なんとかをホテルから逃がし、俺はまた意識を失う。
もう何度目になるだろう。限界はきっと、もうすぐやってくる。俺自身の思考もいつ無くなってしまうのか。
次に目覚めたときは、見境無く人間を襲っているのかもしれない。
自分で命を絶つことも考えた。けれど行動に移すことはできないまま、自分だけの力では手に負えないところまで来てしまった。





「・・・竹巳・・・竹巳っ・・・!」





俺の傍で泣きじゃくるの声。
本当はもう、突き放すべきだったのに。
今はもう、その小さくて暖かな手が俺を唯一繋ぎ止めるもののように思えて。

もう力を制御することはできなくなっていた。
じきに近くにいるだけのすら、この力で傷つけてしまうようになるだろう。



意識が保てているうちに、はやく離れなければ。



はやく、一人に。



誰もいないところへ。





はやく、はやく。














ああ、声が聞こえる。





「竹巳!」





暖かく強く凛とした、優しい声。





「・・・っおい・・・笠井!目、覚めたかよこのバカ!!」





少し幼くて控えめで、芯のあるまっすぐな声。





とても、とても聞き覚えがあるのに。こんなにも心が締め付けられ、けれど暖かくなる。
俺は目を開けることができない。俺を呼ぶ声に応えることができない。





彼らの姿が見たい。





でも、見たくない。





こんな自分を見せたくない。





けれど、彼らならきっと・・・













シゲがいなくなって、一度壊れてしまいそうになった心を、必死で立て直した。
俺とは違い、目の前でシゲを失った。どんな理由であれ、自分自身のその手で。
苦しんで、苦しんで、けれど俺たちには心配をかけまいと必死で。

だから、今度は俺が守りたかった。こんな俺でも支えになれればいいと。
も、真田も、もうこれ以上、苦しませたくなかった。






「もう一度聞きます。」

「・・・!」

「僕の元へ、来ますか?」





そう思っていたのに、そう誓ったのに、これがその結果。
結局一番迷惑をかけたのは俺で、これからの幸せを望んでしまったのも自分。
なのに、こんな俺でもここまで追ってきてくれる。必死になって、取り戻そうとしてくれる。





「笠井・・・!お前・・・ふざけんなよ!俺らに説教ばっかりしてたくせに!
一人で冷静でいやがって、何でもないって顔しやがって!」





二人とも素直じゃないけれど、とても優しい奴なんだと知ってる。





「こうなってまで欲しいと思うもんがあるんだったら、最後まで貫けよ!
あんな奴に負けんなよ!魔の者にだって・・・!」





とてもまっすぐな人間だと、知ってる。





「お前の体だろ?!お前の命だろ?!諦めんてんじゃねえよ!!」





だけど、こんな俺に向けてもらえる感情じゃない。言葉じゃない。
自分勝手に動いて、仲間を危険に晒して、迷惑ばかりかけて。
見限られたって当然だった。俺はそれを責めたりしなかった。





なのに、





「私も、一馬も・・・皆、竹巳が好きなんだよ?一緒にいたいって、そう思ってる。」





なあ、いくらなんでもお人よしが過ぎるだろう。





「迷惑なんて、いくらかけたっていいよ。
竹巳だから、貴方が大切だから、私たちはここまで来たの。」





こんな俺なんかのために、どうして?





「帰ろう、竹巳。」






どうして、そんな言葉を。




















違う。



知っているんだ、本当は。



俺は、二人を本当に大切に思ってる。



当たり前だ。運命をともにし、一緒に生きていた仲間。



素直じゃないくせに、まっすぐで、正直で、優しくて。



自分の為だと言いながら、他人を心配して必死になって。







知っていたんだ。





そんな二人も、俺を大切に思ってくれていること。





俺が二人に対してそう思うように、





どんなことになろうとも、俺を見捨てたりなんかしない。

















もうこれ以上苦しみたくないのに、希望なんて持っても仕方ないのに。



それでも、願わずにはいられない。






何も見えなかった視界が、徐々に広がっていく。



始めに見えたのは、落ちていく赤色の雫。



そして次に流れる、透明の雫。それが何かはわからなかった。



先ほどの声が幻聴でないのならば、彼らはここにいる。





もう、見捨てろなんて言わない。





逃げろとも言わない。





「・・・・・て・・・」





ただひとつ、願うのは。












「生きて。」













彼らの未来。









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