性格も考え方も違う。





けれど、私たちはお互いを認めあっている。













哀しみの華

















「ただいま。」

「・・・おかえり。」

「竹巳は?まだ帰ってないんだ?」

「・・・藤代と食事してくるって。俺は本当にアイツの神経が信じられねえ・・・。」





連絡用にと新しく買った携帯を握りしめ、一馬が複雑そうな表情で怒ったように呟く。





「竹巳、結構世話好きだから藤代くんと性格あうんじゃないの?」

「だからって・・・!お前を攻撃してきて、俺らの力を利用したいって言った奴らだぞ?
なに仲良く食事なんてしてんだ!」

「まあまあ落ち着いて一馬。」

「・・・お前もっ・・・!何でお前らはそういつも飄々としてんだよ・・・。」





不満そうに顔をそらした一馬に自然と笑みが浮かび、荷物を置いて、彼の横へと腰をおろした。





「一馬、もしかして黒川くんにもそんなこと言ってんの?」

「い、言ったけど・・・アイツ全然気にしねえっていうか・・・掴みどころがねえんだよ。」

「あー、そんな感じ。で、何?黒川くん嫌いなんだ?」

「いや別に嫌いとかじゃないけど・・・。」

「彼、うるさくなさそうだし、気遣いもうまそうだし。一馬とはあうと思うけどなあ。」

「確かにそんなにうざくねえし、気は楽だけど・・・って違う!」





聞いたことにいちいち真剣に答えてくれるから、どうも彼をからかいたくなってしまう。
シゲが一馬をからかって笑っていた気持ちも何だかわかってしまった。





「・・・。」

「・・・一馬?」

「・・・くそ・・・。」

「ごめんごめん、からかいすぎた?」





口数の少なくなってしまった一馬の顔を覗き込む。
瞬間、俯けていた顔をこちらへ向けた一馬と目があった。





「・・・俺も・・・お前らみたいに思えればいいんだよな・・・。」

「え?」

「周りの変化にすぐ対応して、何でもないって顔して・・・。」

「ええ?何、どうしちゃったの一馬。」





まっすぐ見つめられた瞳から、視線をそらすこともできず、私は一馬の小さな声に反応を返した。





「あーもう!何で俺、すぐに顔とか口とかに出てくんだよ!」

「お、落ち着いて一馬!何が言いたいの?」

「また俺、お前に気遣わせてるじゃねえかよ!」

「は?」





一馬の一言が全く想像していないものだったから、間抜けな声を返してしまった。





「俺っていつもそうだ。すぐ態度に出して、何かと口を出すくせに何もできなくて・・・。
今回だってお前、あいつらに襲われるし・・・。」

「・・・一馬・・・。」

「普通逆だろ?俺はいつもお前に・・・お前らに頼ってる。」





これだけ一緒に暮らしていても、中々聞くことなんてない一馬の本音。
きっかけがあればずっと吐き出したかったのかもしれない。
自分の不甲斐なさなんて、皆持ってるものなのに。私たちは平気なフリをしているだけなのに。
やっぱり一馬はいつだってまっすぐで、正直なんだなあ。





「・・・あのさ。」

「慰めとかいらないからな!余計惨めになるだろ?!あー!こんなこと言ってるのだって恥ずかしいのに・・・!」

「じゃあ慰めじゃなくて、私が思ってることも言っていい?」

「え?」





悔しがって、けれど今自分の言った言葉に顔を赤くしながら顔を背けた一馬に、笑いながら話を続けた。

あまりに一馬が正直で、まっすぐだから。
おかしいな、私だって冷静を装って格好つけてばかりいたのに。
本当の気持ちなんて恥ずかしくて、なかなか口に出せずにいるのに。
それでも一馬といると、そんな自分が崩されていく。








「一馬が私たちに頼りっぱなしなんて思ってないよ。」

「だ、だって俺はっ・・・」

「私、一馬がいてくれてよかったと思ってる。」








だけど、そんな自分を嫌だとは思わない。








「一馬の正直なところも、すぐ熱くなるところも、不器用なところも。私は好きだよ。」







自分の感情を出すことの少ない私たちの中で、一人いつでもまっすぐだった一馬。
夢もあって、信頼できる場所もあって。だからこそ、それを手放すときはよっぽどつらかったのだろうけれど。

自分の気持ちをまっすぐぶつけ、シゲを連れ戻すために必死になって。
私が苦しんでいるとき、何も言わずにそっと傍にいてくれた彼の温かさ。
いつも意地をはって格好つけて、周りを信じることさえできずに逃げていた私よりも、一馬の方がよっぽど強い。





「だ、だから慰めはいいって・・・」

「だから私の思ってることだってば。そのまま言ってるだけ。」






ああ、もう本当に一馬の顔が真っ赤だ。
口をパクパクとさせて、何か言いたそうにしてる。





「・・・そうやってお前はさー!!あーもうやだ!!」

「何が嫌なの。」

「結局俺が格好悪いじゃねえかよ!」

「・・・別に一馬に格好よさは求めてないからさ。」

「・・・なっ、お前っ・・・」








「一馬はずっと、変わらないでいて。」








本心だった。一馬にはずっとそのままでいてほしいと思った。
私たちは皆性格が違っているけれど、だからこそこうして支えあえている。
一馬も竹巳も変わらずにいてほしい。もう、誰もいなくならずに。








「・・・お、お前っ・・・いつからそんな恥ずかしい台詞言うようになったんだよっ・・・!」

「さあ?でもこれ、一馬の影響がかなりあると思うのよね。」

「なっ!俺のせいにするな!」

「・・・まあ全部が全部そうじゃないとは思うけど。一馬は態度にでちゃう正直者だけど素直ではないもんね。」

「お前、今絶対俺をからかって遊んでるだろ?!」

「だから本心だってば。全部。」

「・・・っ・・・。」

「さーてと、ご飯食べよー。」









顔を真っ赤にして不満そうな顔をする一馬を見てると、本当に彼は私と同い年なのかと考えてしまう。
いざとなるとすごい行動力を見せるくせに、こういうとこはとことん弱いんだよね。

そんなことを思いながら、帰りに買ってきたコンビニのお弁当をテーブルに広げて。
試しに一馬に食べるかと聞いてみたけれど、いらないと予想通りの返事。





「・・・俺も、さ・・・。」

「ん?」





呟くように小さな、一馬の声。
飲み物をとりにそこをたった私は、足を止めて一馬を見る。







「・・・俺も、お前がいてよかったと思ってる。」







顔は俯いていたし、耳をこらさないと聞こえないような小さな声だったけれど。
確かにその声は私の耳に届いて。その言葉は私の心を温かく包んでくれた。





「ありがと。」

「・・・おう。」





何だか照れくさくなってしまって、一言だけ言葉を返して私はキッチンに向かった。
飲み物を取り出しながら、一馬の方へ視線を向ければ、どう見ても動揺してる。
本当に態度が隠せない人だよね。





「かず・・・」





一馬の名前を呼ぼうとすると、丁度そこで玄関の扉が開いた。





「・・・ただいまって何二人ともかたまってるの?」

「いや別に。おかえり竹巳。」

「真田は顔真っ赤だし。」

「だ、誰が・・・!」





竹巳がきょとんとした顔で私たちを見る。
今の話を聞かれていたら、竹巳はきっと笑っていたんだろうな。





「藤代くんとご飯食べてきたんだって?」

「・・・ああ、うん。」

「思ったより早かったね。何か飲む?」

「いや、いいよ。」





いつものように穏やかに笑い、自分の部屋へと向かう竹巳。
いつも通りのはずなのに、私は一瞬、違和感を感じて。





「・・・竹巳?」

「ん?」

「・・・なんか、調子悪い?」

「え?そう見える?別に俺は何ともないんだけど。誠二に乗せられて食べ過ぎたかな。」

「・・・なら・・・いいけど。」





それだけの短い会話をかわし、竹巳は自分の部屋へと入っていった。





?どうかしたのか?」

「ううん・・・何でもない。」





何かあったわけでもない。竹巳も何も言っていない。
それならばやはりこの違和感は気のせいなんだろう。

私の笑顔が不自然に見えたのか、一馬が疑問の表情を浮かべて私を見つめていた。
一馬に余計な心配をかけないように、私はもう一度小さく笑った。








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