新たな出会い。





それは、吉と出るか凶と出るのか。





まだ、誰にもわからない。














哀しみの華















「子供を助けた?」

「うん、それでちょっと力を使っちゃったんだよね。一応報告しておこうと思って。」

「笠井からもちゃんと言ってくれよ。、その子供を助ける為に車の前を横切ったんだぜ?」

「・・・それは真田が言えることじゃないよね。」

「うっ・・・。」

「でもまあ、真田の言ってることも間違ってない。気をつけてよ?。」

「うん。わかってる。」





既に家に着きくつろいでいた竹巳に先ほどのことを報告する。
微々たるものといえど、魔の者の力を使ってしまったことは事実。
無駄に思える報告であっても、話しておくにこしたことはない。





「使った力もほんの少しなんだよね?まあ俺も全然感じ取れなかったくらいだから、問題はないんだろうけど。」

「うん。」

「だけどこの町に感知能力の強い退魔師がいたらやっかいだ。一応逃げる準備はしておいて。」

「了解。ごめんね。」

が謝る必要はないよ。人助けなんだしね。」

「そう言ってくれると助かる。」





竹巳は穏やかな笑みを見せて、読んでいた本に視線を戻した。
安堵のため息をついて部屋に戻ろうとすると、一馬が竹巳の前で何か話したそうに突っ立っている。





「・・・どうしたの真田。」

「いや、あの、お前も特に問題ないか?」

「え?」

「塾の講師なんてして、大勢の人とあって問題ないのかって思って。」

「ないよ、今のところはね。」

「ふーん・・・。」





まただ。また一馬が不満そうな表情で竹巳を見ている。
そういえば竹巳のバイトの話をするとやけに不機嫌になるなあ一馬。
大勢の人がいる場所でのバイトはリスクが高い、とでも思っているのだろうか。





「何か言いたいことでも?」

「別に。」

「真田ってすぐに顔に出るよね。」

「そ、そんなことねえし!部屋戻る!」





そう言い残すと、一馬はバタンと音をたて自分の部屋に入っていった。
自分の部屋に戻ろうとしていた私と竹巳の目が合い、一体何なのだろうとお互い肩を竦めた。
























「お疲れさまでした。」

「はーい!じゃあ次は明後日ねー。」





それから数日後もいつも通りにバイトを終え、軽い挨拶をしてから店を出た。
引き戸を開けてもそこには誰もいない。今日は一馬も竹巳もここへ来ていないようだ。
特に気にすることもなく、私はいつも通りに暗くなった道を歩く。
この間の交通事故直前の現場に出くわし、暴走車はもう来ないだろうかと思考を巡らせて。




「・・・?」





ふと、後ろに何か気配を感じ振り向く。瞬間、





「はあっ!!」

「?!」





気合をこめたような声。その声と同時に私の体が背中から押し出されるように宙を舞う。





「・・・っ・・・!」





私は体が地面に叩きつけられる前に、なんとか体勢を整え地面へと着地する。
瞬間、四方から衝撃波のようなものが私を襲う。





「・・・何なのよ一体・・・!」





呟いた一言はとめどなく放たれる力にかき消された。
私は地面に着地しては、すぐに地面を蹴りその力を避け続け、そうしながらも、力の出所を目と感覚で追う。





「・・・。」





街灯の下、かすかだが人影が見える。
私は攻撃を避けながら、少しずつ少しずつその人影へと近寄ってゆく。
この攻撃の数、質、スピード。簡単に逃げることはできないだろう。それならば。





「?!」





一定のリズムのもとに続く攻撃が止まる瞬間。
私はすぐに地を蹴り、その人影のいる場所へと移動した。
その人影は突然現れた私に驚きの表情を見せ、硬直する。





「うっそ・・・!」

「動かないで!」





動く間も与えずに、私は人影の腕を取り身動きができないように固めた。





「隠れてる人たちもコソコソしてないで出てきたら?」

「うわー!捕まっちゃったよ!わりい二人とも!」

「・・・。」





私が捕らえているのは、恐らく私と同じくらいの男の人。
攻撃してきた力を見ると、考えるまでもなく退魔師なのだろう。
捕まっているというのに、何だか明るい声でしかも隠れている人数があと二人なのだと完璧にばらしてる。
そんな彼に少しだけ拍子抜けしながら、それでも警戒は緩めない。





「・・・ったく。何やってるのお前。」

「まあまあ、新人にしちゃたいしたもんだろ。」





そうしてその状況に諦めがついたのか、さらに二人の人影が現れる。
一人は色黒で背の高い男。もう一人は彼に比べて背は低く可愛らしい顔をしているけれど・・・雰囲気から言えばこちらも男だろうか?





「貴方たち・・・松下家の人間?」

「まさか。そうだったらもっと慎重にやるし完璧に君を捕らえてるよ。」

「・・・じゃあ、何者?」

「退魔師だよ。ただし、松下家とは関係ない。」

「・・・?」

「西園寺グループって知ってる?」

「・・・聞いたことないわね。」





どうやら小さな男がこの三人のリーダーらしい。
私が仲間の一人を捕らえているにも関わらず、冷静に質問に答える。





「まあまだ小さい退魔師のグループだからね。だけど実力には自信があるよ。」

「ここの彼も?」

「そいつはまだ新人。素質はあるから使えるかと思ったんだけど、あまかったな。」

「どうも!」

「・・・。」

「無駄に明るいけど気にしないで。」

「えー、無駄にってひどいっすよ!翼さん!」

「・・・くくっ。人数も翼の名前までばらしてるし。」

「笑うな。もうお前黙ってろ。」





こんな体勢になっているというのに、なんなのこの拍子抜けする雰囲気は。
彼らの目的がさっぱりわからない。





「・・・何なの?何が目的?」

「結論から言うよ。」

「?」

「僕らは君たちを保護したい。」

「!」

「攻撃を仕掛けたのは悪かった。けれど、君が本当に松下家が手を焼いたっていうキメラなのか確信が持てなかったからね。」

「なっ・・・。」

「魔の者と融合した4人の紅一点。君がだろ?」

「・・・!」

「僕らも仕事が仕事なんでね。それくらいの情報は持ってるんだよ。
力を隠す術を覚えたキメラたちの行方を松下家は必死になって探してる。けれど君はこの間、ここで力を使っただろ?」





数日前の事故がよみがえる。
あんなちっぽけな力の解放なんて、ばれるわけがないと思っていた。
けれど今は、そんな自分のあまさを後悔する。





「この数日間、君らをずっと監視していた。君が力を使った理由も知った。そして出した結論が、君らの保護だ。」

「・・・どういうこと?」

「僕らが聞いていたのは、人間を喰った危険物、凶悪なキメラ。それだけ。
けれどここ数日の君たちを見る限りじゃ、それはどうも違うみたいだし。それに今だってそいつを殺さないでいる。
むしろこの距離で君の身体能力なら俺たちを殺すことも可能なはずだ。けれど、それもしない。」

「・・・。」

「ならば捕獲なんかする必要はない。だから君たちを保護したい。どう?少しは理解できた?」





あまりにも堂々と話す目の前の彼に、私は言葉を失ったままじっと彼を見つめた。
目をそらすこともなく、小さく笑みを浮かべてる。





「・・・それなら、保護だってする必要はないんじゃないの?」

「・・・?」

「私たちをかくまうってことは、松下家も敵にまわすってこと。
聞いたこともないグループがわざわざそんな大きな相手を敵にまわす必要なんてないじゃない。
そんなリスクを背負う理由なんて・・・」

「・・・ないって言える?」





話しながら初めて彼の、彼の属する西園寺グループの意図が見えた。
確かに私たちを保護することは松下グループを敵にまわすことだ。
けれど、もともと弱小だったグループ。時が経ち松下グループの追っ手からも逃げおおせている私たちの力が加われば、グループ全体の力も確実にあがる。

そう、彼の言っていることは私たちの保護なんかではなく、





「藤代と違って頭がいいね、君は。」

「俺と違ってってどういうことっすか!」

「くくっ・・・。」





私が彼の意図に気づいたことを察したようだ。
整った顔にまた笑みが浮かぶ。





「別に善意から君らを保護しようってわけじゃない。
偶然この町にいた君らを、偶然この町で退魔師をしていた弱小グループが力を借りようって思っただけ。
僕らは君たちを松下家から守る。そして君らは俺たちが望んだときに力を貸してほしい。」

「・・・断ると言ったら?」

「そうだな、松下家に情報を流して点数稼ぎでもしておこうか。僕はそういうの好きじゃないんだけどね。」

「・・・はあ。どうせ逃げ道も無くしてるんでしょう?」

「察しがよくて助かるよ。」





私は捕らえていた彼の手を緩め、体を離す。
目の前の彼の言うことを完璧に信じたわけではないけれど、恐らく嘘はついていない。
それに数日私たちを監視していたというのなら、家の所在もばれてしまっているのだろう。
このことを二人に伝えてから逃げるのでは遅すぎるし、もしどちらかが家に帰っていたら、誰かに張り込まれているだろうそこから逃げるのは難しい。
納得はいかないが、ここはひとまず彼の言うとおりにしておいたほうがいい。





「思ってたよりすっげー綺麗っすね!それに強いし!あ、俺は藤代誠二。」





先ほどまで捕らわれていた女に言う台詞じゃないだろうと思いながらも、手を掴まれ何度も上下させる彼にため息をつき、





「手荒な真似して悪かったな。俺は黒川。黒川柾輝。」





これまでのやり取りを楽しそうに見物していた色黒の彼を一瞥し、





「僕は椎名翼。これから宜しくね?。」





先ほどまで冷静に話を続け、女の子みたいに綺麗な顔をした彼に上っ面の笑みを返して。







ああ、竹巳に怒られることと一馬が慌てだすことは確実だななんて、拍子抜けすることを考えてた。
まだ信用なんて出来るはずもない彼らとの出会いが、私たちにとってどんな影響を与えるのか。

私には、知る由もなかった。










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