一度は見失いかけた愛しい彼女。





「・・・っ・・・!」





もう離さない。





「ち・・・違うっ・・・私は・・・っ・・・」





離したり、しない。





「会いたかった・・・。」





強く抱きしめる。





抱きしめた彼女の声も聞かず、表情も見ず。
ただただ強く。






もう決して見失わないように。


















たった一人の君へ

















、ごめん遅れた!」

「私は大丈夫だけど・・・何かあった?」

「電車が遅れて・・・悪い、久しぶりに会うのに・・・。」

「あははっ。電車じゃしょうがないんだからそんな申し訳なさそうな顔しなくていいのに。
でもそうだなー。じゃあそこの店のクレープおごって!それで許してあげる!」

「お、おう。わかった!」





俺の前にが戻ってきて。
やっぱりあの悪夢は夢でしかなかったのだと安堵した。





「今日はどうする?映画かゲーセンとか・・・ゆっくりしたいならファミレスにでも行く?」

「・・・お前に任せる・・・けど、ゲーセンはいいや。」

「何で?ゲーセン嫌いだったっけ?」

「結人としょっちゅう行ってるから。お前と一緒のときくらいは別のことしてたい。」

「・・・あははっ。なるほどー!」





いつもと変わらない明るい声。
笑いながら俺の手を掴むと、目的地がどこかも言わずに歩きだした。





「どこ行くんだ?」

「・・・考え中ー。」

「どこ行くかも決めないで歩きだしてんのかよ。」

「いいでしょ。たまにはそういうのも。」





前を向いて俺の手をひいて。人前で手をつなぐなんて恥ずかしかったけれど、
それ以上に彼女と一緒にいられることが嬉しかったから。
彼女のぬくもりに触れていたいと思ったから、何も言わずにそのまま彼女の手を握り返した。

そしての言葉に呆れながらも、その通りだと思った。
別にどこだっていいんだ。何をしていたっていいんだ。

俺はただ、彼女の傍にいたい。
彼女と一緒にいられればそれでいい。








「・・・?」







温かな手の温もり。
いつも通りの明るい彼女。

なのに、俺の前を歩く彼女に俺はふと違和感を覚えて。







「・・・・・・?」







彼女の名前を呼ぶ。
を失ったのは悪夢だったけれど、もう二度とあんな夢は見たくない。
だから彼女の名前を呼んで、彼女がいつも通りなことを見て安心したかった。









「なーに?一馬。」









は笑って答えた。
いつも通りに、変わることなく。

でも、なぜだろう。





その表情は、その声は、俺の知っているもののはずなのに、





お前の笑顔がひどく悲しそうに見えるときがある。





けれど俺はお前の傍にいられることができなくて、その理由を探すことはなかった。





お前がいつでも笑っていてくれるから、感じた違和感の答えを探そうともしなかったんだ。



















それからしばらくして、英士に結人、が俺の家に集まる。
神妙な面持ちで皆が俺を見つめて。





「一馬、話があるんだ。」






恋人が、親友が告げた言葉は、信じられないものばかりだった。





はもう、いないんだ。彼女は・・・交通事故で亡くなってる。」





また、悪夢がやってきたのだと思った。





「何・・・何、言ってんだよ・・・!冗談でも笑えねえよ!」

「冗談じゃないって言ってるだろ・・・?」

「そこにいるじゃねえか!じゃあそこにいるのは誰なんだよ!!」

だよ。」





・・・?
何を言ってる・・・?俺はもよく知ってる。
周りの誰が見間違えても、俺は彼女たちを間違えない自信だってある。
それなのに、今目の前にいるのは・・・?そんな、そんなはずがない。






「なあ・・・嘘だろ?お前は・・・、だよな?」





そんなことあるはずがないと思いながら、目の前のに問う。
笑ってくれ。笑って、冗談だと言ってほしい。
がもういないだなんて・・・






「・・・私、だよ・・・。」






俺の目を見ずに、顔を俯けて。
震える声でそれでも。それでも彼女は、自分をだと言った。





「・・・本当のことなんだ一馬。俺たち、お前をよくからかうけど、冗談でこんなこと・・・しねえよっ・・・。」





いつも明るく場を和ませる結人も、
本当につらそうな顔で、それが真実なのだと告げた。













「・・・う、そ・・・だ・・・。」










彼らがこんな冗談を言う人間ではないとわかってる。
こんな気難しい俺の、数少ない信用できる奴ら。





それでも、俺は。





「俺は信じないっ・・・!俺はっ・・・俺はっ・・・!!」





あの悪夢がまたやってきたのかと、





もう二度とあんな思いはしたくないと、









「・・・っ・・・。」









彼女に助けを求めた。





いつでも俺を救ってくれた、を求めた。







「っ・・・!」








混乱して、頭が真っ白になって俺はその場に倒れこんだ。





倒れる前に目に入ったのは、あまりにもつらそうな彼女の姿。





一緒にいるときに感じた違和感。





笑っているのに、どこか切なく感じたあの時と同じ。





笑顔と、悲しく泣きそうな顔。





対照的な表情なのに、あの時と同じ切なさが自分の中を駆け巡っていた。













TOP  NEXT