失った光。





好きだった。





大好きだった。





残酷な現実を、信じたくなんてなかった。














たった一人の君へ















「・・・は?」

「・・・何だよその反応・・・!」





俺が彼女へ気持ちを打ち明けたとき、返ってきたのは口をポカンと開けた間抜けな表情と
もう一度言えとでも言っているような、問いかけの一言。





「ちょ、ちょっと待って。もっかい言って?!」

「な、何でそんな何度も言わなきゃいけないんだよ!」





あんなにはっきり言ったんだ。聞こえていないはずがない。
なのにもう一回って・・・。今のだってすっげえ必死だったんだぞ俺は。





「聞きたい!もう一回聞かせてよ一馬一馬かじゅまー!」

「だ、だから・・・!」





頭ひとつ分下の位置に、の顔。
こんなに近くで見上げられて、ひっつかれて、平常心でいることに必死だった。









「好きなんだよ!お前が!」









さっきも伝えたその言葉を必死で、しぼりだすように。
こんな告白になるはずなんかじゃなかったのに、結局どんなときでもには調子を狂わされてしまう。







「・・・。」

「・・・・・・?」






告白とは思えない、怒鳴るように告げた言葉を聞いて
が顔を俯けてだまってしまった。
俺は不安になり、静かに彼女の名前を呼んだ。





「・・・一馬・・・。」





顔をあげた彼女は、泣きそうな顔で俺を見つめた。
俺の不安は最高潮で、これはもうダメなのかと諦めさえ覚えていた。






「ありがと!嬉しい!すっごい嬉しい・・・!!」






けれどそんな俺の思考とは裏腹に、は俺に抱きつく。
笑顔で、本当に嬉しそうに。







「私も一馬のこと、好きだよ・・・!ずっと好きだった・・・!」













ずっと欲しかった言葉を、望んだ温もりを、俺は今抱きしめてる。





ずっと一緒にいて、これからも一緒にいてほしいと願うを、抱きしめてる。





そして、彼女も俺を望んでくれていた。





嬉しかった。





幸せだった。





彼女の声が、笑顔が、温もりが、





全てが、愛しかった。




















想いが通じて、俺たちは付き合い出して。時は過ぎていく。
中学を卒業し俺はサッカーに集中するために、たちとは別の高校に入学した。

会えない時間が増えて、それでも高校に入学してから買った携帯で話をしたり
なんとか休みを合わせて時間をつくり、直接会ったり。
寂しいと思うときもあったけれど、それでも幸せだった。
離れていても、俺たちの関係は何も変わらない。そう思えることが嬉しかった。





『ねえねえ一馬。そっちの高校ってさ、やっぱり一般者立ち入り禁止?』





電話の最中、の突然の言葉。
俺は疑問に思いながらも、彼女の質問に答える。





「そりゃそうだろ。何でそんなこと聞くんだ?」

『いやー、ちょっと一馬くんに会いたいなあなんて思って。』

「・・・ええ?」

『だって私も部活あるし、一馬も部活あるしでさー、もう三ヶ月も会ってないんだよねー。
すごく寂しいんだよ一馬ー。』





毎日一緒にいた俺たちが、三ヶ月も会わないことなんてなかった。
ずっと一緒にいた分、三ヶ月は本当に長く感じられた。それは俺も一緒だった。





『実は明日、部活早めに終わるんだ。だから、夜になる前にはそっちに行けると思うんだよね。』

「ちょ、いや、でもそれは・・・」

『一馬が迷惑だって言うなら行かないけど。』

「迷惑だなんてあるわけないだろ?!」

『やった!じゃあ決まり!そっち着いたら携帯に電話するからさ。
学校には入れなくても、門の前にいるくらいだったらいいよね?』

「・・・たくっ・・・お前はいつも強引だよな。」

『だって、こうでもしなきゃ一馬に会えないもん。』





素直に自分の気持ちを話してくれることが嬉しかった。
俺はなかなか素直になれないのに、はそれがわかってるから、いつも俺の代わりに言葉をくれる。





『好きだよ一馬!』

「・・・ああ。」





聞いてて恥ずかしくなるような言葉を最後に、電話が切れた。
電話を切るとため息をついて、俺も彼女くらい素直になれればいいのにと思うんだ。



そうしたらきっと、彼女をもっと喜ばせてあげられたのに。















約束の日。
部活が終わって携帯の着信を見ても、部屋に戻ってからも携帯の音は鳴らなかった。
さすがに時間が遅くなってきて、俺は彼女の番号を表示し通話ボタンに手をかけた。





「うわっ。」





それと同時に、携帯の音が鳴り出した。
からかと思ったそれは、彼女からではなく自分の家からの着信。

慌てているような混乱しているかのような、はっきりとしないたどたどしい口調。
電話の先にいる母親が、一体何を言っているのかわからなかった。

そして、その中で俺は信じられない言葉を耳にする。







『・・・・・ちゃんが・・・ちゃんが・・・さっき、交通事故でっ・・・』







・・・母さんは何を、言っている?





が・・・が・・・一体どうしたっていうんだよ・・・?








その言葉の意味を理解する前に、俺はもう部屋を飛び出していた。
電話を握り締めて、他には何も考えられず母親に告げられた病院だけを目指した。

ようやく病院につくと、そこには一人俯いて椅子に座っているの姿。





っ・・・!!」

「・・・一馬・・・。」





俺はとにかくこの現状が知りたくて。
今、一体何が起こっているのかを知りたくて。
力なく俺を見つめるの肩を掴み、彼女に問いかける。





「・・・ は・・・?!」

「・・・。」

「何か、電話でおかしなこと言われたんだけど・・・違うよな?嘘なんだろ?」

「・・・一馬・・・。」

「アイツ、いっつもそうやって人騙して面白がってさ。もう騙されたりしねえし!」

「一馬・・・ は・・・」

はどこにいるんだよ。今度こそ騙されないってそう言ってや・・・

「一馬っ・・・。」





嗄れてしまった声。赤く腫れた瞳。
震えた声で、俺の名前を呼ぶを見つめた。



どうか、嘘だと言ってほしい。



の悪戯だと、悪い冗談だと。



どうか、どうか。





「・・・ は・・・もう、いないの・・・。」

・・・?何だよお前まで・・・」

「・・・っ・・・。」





は俺の手を引き、目の前にある部屋の扉を開いた。
そこには真っ白なベッドに横たわる、一人の少女。





「・・・・・・?」





この間まで、楽しそうに笑っていた
俺のところへ会いにくると、嬉しそうに笑っていた





「・・・な・・・ん・・・」





まるで眠っているかのような彼女の頬は、あまりにも冷たくて。
かたく閉じられた瞳、コロコロ変わる表情はもうそこにはない。





『実は明日、部活早めに終わるんだ。だから、夜になる前にはそっちに行けると思うんだよね。』





俺は今日、彼女と会うはずで。
いつも気合を入れてる部活だって、いつも以上に力が入った。
に会えると思うだけで嬉しくて、元気がもらえて。

だから部活を終えて、電話の着信がないことにがっかりして。
待っても待っても彼女からの連絡がないことに不安を覚えて。



それでもきっと・・・笑いながら、俺に会いにくるのだろうと思ってた。



なのに、今目の前にいるはもう笑ってなんていなくて。



俺が目の前にいても、何も喋らない。



まるでそこに光が差しこんでいるかのような、明るい彼女はもういない。









どうして・・・?





どうして・・・?





嘘だろう?こんなの、悪い夢なんだ。





目を覚ませばこの悪夢も消える。





また、いつものように彼女に会える。




















「・・・一馬?」





なのに、何度眠って、何度目を覚ましても





「今日は・・・ちゃんのお葬式よ。一緒に・・・行きましょう?」





その悪夢から目覚めることはできない。





「・・・。」





何度目覚めても、そこは彼女のいない世界。





光を失ったかのような真っ暗な世界。





「・・・私は行くわね。出れたら・・・ちゃんと来なさい。ちゃんも一馬に来てほしいはずよ。」





かすかに母親の声が聞こえて。





の葬式だなんて、何を言ってるのだと思った。





はやく、はやくこの悪夢から目を覚まさなければ。
















窓の外にはたくさんの人が集まっていた。
これが本当にの葬式だとしたら、多くの人望があったらしいと思った。





本当、だったら?





「・・・っ・・・。」





これは夢のはずで、現実であるはずなんかない。
目を覚ませばきっと、は笑って俺の傍にいる。





けれど、覚めない夢。続く悪夢。
もしも本当だとしたら?





『ねえねえ一馬。そっちの高校ってさ、やっぱり一般者立ち入り禁止?』

『いやー、ちょっと一馬くんに会いたいなあなんて思って。』

『実は明日、部活早めに終わるんだ。だから、夜になる前にはそっちに行けると思うんだよね。』





は、俺に会おうとしてた。





「ちょ、いや、でもそれは・・・」

『一馬が迷惑だって言うなら行かないけど。』

「迷惑だなんてあるわけないだろ?!」





学校には入れないし、そもそも学校に彼女が来るだなんて
学校の外で会うとはいえ、校則違反に近い。

それでも、俺は彼女の言葉が嬉しくて。





「・・・たくっ・・・お前はいつも強引だよな。」





俺も、彼女に会いたくて。





ただ、彼女に会うことを楽しみにして。





『・・・・・ちゃんが・・・ちゃんが・・・さっき、交通事故でっ・・・』





当然のように、会えると思ってた。





もうすぐに会えるのだと、能天気に彼女の電話を待っていた。









「おーい!かっずまー!!」



「朝からなんだよそのテンション。泣く気もないくせに。」



「元気だせ一馬!次は勝つとこ見せてよ!」



「やっと気づいたんだ?」



「だから、二人に幸せになってほしいな。」



「好きなんだよ!お前が!」



「私も一馬のこと、好きだよ・・・!ずっと好きだった・・・!」








決して覚めない悪夢。





これは、現実・・・?









「・・・は・・・もう、いないの・・・。」









は・・・もう、どこにも・・・いない?









「・・・嘘だ・・・。」








俺に会いにくるって言ってたんだ。







「・・・嘘・・・」







嬉しそうに、笑ってたんだ。







なのに、俺に会いにくる途中で・・・







「っ・・・うああーーーー!!」







どうして覚めてくれない?





どうして消えてくれない?





何故?





今が・・・現実だから・・・?





嫌だ、嫌だ・・・!!





誰か・・・誰か助けてくれ。






この悪夢から、俺を目覚めさせてくれ。





















「一馬・・・?」





聞こえない。





「どうしたんだよ、一馬。俺たちの声聞こえてる?」





何も、聞こえない。





「おい、しっかりしろよ一馬!」





何も、聞きたくない。考えたくないんだ。
















「・・・一馬・・・?」
















・・・聞こえた。





俺がずっと、求め続けていた声。









「一馬。」









ようやく、聞こえた。
ようやく、聞くことができた。









「一馬・・・!!」










やっぱりお前が死んだなんて、ただの夢だったんだ。
やっと悪夢から目を覚ますことができる。











・・・。」












ようやく、会えた。






いつも俺を救っていてくれた彼女。






俺をこの悪夢から救いだしてくれるのも、なんだ。






どうか、もう離れないで。





どうか、いなくならないで。





誰も彼女を奪わないで。









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