ずっと傍にいた。





変わるものなんて、何もないのだと思っていた。















たった一人の君へ
















「おーい!かっずまー!!」

「・・・。」

「うわ、何その迷惑そうな目。ひどくない?ひどいよね?私泣いちゃうよ?」

「朝からなんだよそのテンション。泣く気もないくせに。」

「わーんー!一馬がひどいよー!」

・・・。」

「どうせ一馬なんて私のこと嫌いなんだ、そうなんだ。いいもん私にはがいるもん。」

「ちょ・・・何でそういう話になるんだよ、おい・・・!」





俺に背を向けて、双子の妹であるに抱きついて。
俺が何を言ってもこちらを向かないに、嘘だとわかっていても焦ってしまう。





「・・・。」





じとりと責めるような瞳を向けて、俺を見て。
俺が不安そうに、それでもかける言葉も浮かばずに口ごもっていると、
その姿を見てが悪戯ぎみに笑みを浮かべる。





「そんな顔するなら、最初から格好つけて人のこといじめようとしないの!」

「誰がいじめたんだよ誰が!」

「一馬のくせに!かじゅまのくせに!」

「何だ俺のくせにって。しかもどさくさに紛れてかじゅまとか言うな!」

「もういいもん、ばかずまー!」

「誰がばかずまだ!」

「・・・っ・・・。」

まで笑ってんなよ!」





小さい頃から、学校も同じで毎日一緒に学校に行っていた。
けれどお互いが成長すれば、いくら幼馴染と言っても男と女で登校することなんて恥ずかしくなって。
俺は二人と時間をずらして学校へ行ったりしていたんだけれど、そんなことお構いなしに
は毎日俺の後を追い、大きな声で俺の名前を呼ぶんだ。

俺が恥ずかしがって早めに家を出ること、知ってるくせにそういうことをする。
は昔からそうやって俺をからかう。俺もいつの間にかのペースに巻き込まれてムキになって言い返す。
そんな俺たちの言い合いを見つめて、が静かに笑ってる。

そんな毎日。変わることのない、穏やかな時間。















授業が終わって、ざわついた教室。
休み時間に大きな笑い声が響く。その中心にいるのは、

俺はクラスの奴らとケンカはしても、馴染めるような性格じゃなくいつもその笑い声を遠くで聞いていた。
別にそれが羨ましかった訳じゃない。けれど、耳に残るのはその中にいるの声。目で追ってしまうのはの姿。

が大勢の奴らに囲まれることも、頼られることも昔から知っていたのに。
そんな彼女に距離を感じるようになったのは、いつからだっただろう。
が俺以外の奴に楽しそうな笑顔を向けるたび、胸が痛んで。
彼女の隣で笑う男に、嫌悪感を持つようになった。





「いいの?」

「何が・・・?」





そんな自分でもわからない気持ちを見透かしたように、が俺に問いかける。
何のことなのかわからなかった。
だってがたくさんの奴らに囲まれるのはいつものことで、男女問わず友達が多いことも知っている。
なのになぜ、今更こんな気持ちになる・・・?





「一馬!」





彼女が俺の名前を呼ぶたびに、体が強張る。





「一馬ー!何やってんの!立てー!」





サッカーの試合に突然やってきた、彼女の声が嬉しかった。





「なーに落ちてんの。また次で挽回すればいいじゃない。」





彼女が見ていた試合に負けたことで、自分が情けなく思えた。





「元気だせ一馬!次は勝つとこ見せてよ!」





次こそは、彼女の笑顔を見たいと思った。
俺を元気付けるための笑顔ではなく、俺が彼女を喜ばせてあげられるような。














がいて、がいて、俺がいる。
何も変わらないと思ってた。だけど、ようやく俺は自分の気持ちに気づく。






「一馬!」






俺を呼ぶ彼女の声が、愛しかった。
その声を聞くだけで、元気になれた。

俺が落ち込んでも、いつだってその笑顔で、その明るさで、俺を救い上げてくれた。



いつからかなんて、わからない。



それでも、俺はを好きになってた。









「やっと気づいたんだ?」

っ・・・。何いきなり・・・」

「一馬の顔見ればわかるよ。」

「なっ・・・!」

「・・・幼馴染だもん。当たり前でしょう?」





俺自身が気づいていなかった気持ちを、は見透かしていて。
そしてそれに気づいたときでさえも、笑いながら俺の気持ちを言い当てた。
は俺たちの中で口数が多いほうじゃないけれど、その分人をよく見てる。

結局俺は、にもにも叶わないのだと思い知らされる。
だから、何か隠し事をしたって無駄なんだ。





「でもアイツ・・・俺のこと弟くらいにしか思ってねえし。」

「それは一馬がそう思ってるだけじゃないの?」

「だってお前・・・アイツ、人の頭とか撫でてくるんだぞ?!普通同い年の男にそういうことするか?!」

「・・・それもひとつの愛情だと思うけど。」

「それってつまり弟扱いじゃねえのか?」

「そんなに言うなら、一馬自身が確かめてみればいいのに。」





穏やかに笑うに、俺は何も言葉を返せなかった。
そう、確かにこの気持ちを告げればいい話だ。
でも俺は情けないけれど、それが怖かった。
その気持ちを告げて、居心地の良いこの場所を無くしてしまうかもしれない。
俺たちの関係が変わってしまうのかもしれない。そんなことばかり、頭に浮かんでは消えていく。





「一馬。」

「な、何だ?」

「私・・・一馬のこと、好きだよ。」

「え・・・?」

のことも好き。二人とも・・・大好き。」





机にひじをついて、窓の外を眺めながら。
の突然の言葉。窓の外に向けられているその表情は見えない。





「だから、二人に幸せになってほしいな。」

「・・・・・・?」

「1歩進むことで、何かが変わるかもしれない。私たちの毎日も。」

「・・・。」

とギクシャクすることだって、考えちゃうよね。」





まるで俺の心をそのまま言い表すかのように、は視線はそのままに言葉を続けた。





「それでも、私は二人の傍にいるから。」

「!」

「ギクシャクしちゃっても、気まずくなっても。
勿論、二人がうまくいっても。私は今までと変わらない、二人が大好きなまま傍にいるから。」

「・・・・・・。」

「だから、安心して?私じゃ頼りないかもしれないけど、
二人が少しでも幸せでいられるように、手助けくらいはきっとできるから。」





の視線がようやくこちらに向いた。
夕焼けのオレンジ色の光が、の顔を照らした。

その光が反射して、やっぱり彼女の顔はよく見えなかった。





「なんて、つまりは私が二人の傍にいたいってだけなんだけどね。」





最後に冗談めかして笑う。
と同じ顔で。けれど、それは彼女と同じ笑顔ではない。





「・・・おう。ありがとな、。」





俺の言葉にがまた笑った。
一人で整理しきれなかった気持ちも、情けない自分も、全て吹き飛ばしてくれるような
穏やかで、優しい笑み。
のような派手さはないけれど、彼女と同じくらいに俺に元気をくれた。












二人の大切な幼馴染。





俺にいつも勇気を、元気をくれた。





背中を押してくれた。





恥ずかしくて言葉になんて出さなかったけれど、





二人が好きだった。





大好きだったんだ。









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