こんなにも卑怯で、汚い心。





誰かを傷つけることを恐れながら、自分が傷つくことを恐れていた。


















たった一人の君へ

















!一馬、今週の日曜試合あるんだって!応援しにいこうよ!』





周りの皆から好かれていて、たくさんの人から告白もされて
それでもの見ていたのはたった一人だった。





『一馬ってばぜったい緊張してるよ!ひやかしに行ってあげよ!』





素直じゃなくて意地っ張り。それでも優しくて温かい一馬。
が好きな、の目に映る、たった一人の男の子。





『・・・なんだよの奴。俺の応援に来たんじゃなかったのかよ。』





どこへ行ってもすぐに誰かと仲良くなって。
いつだって誰かに囲まれているの姿。
一馬が不満そうに見つめて、ボソリと呟いた。



そうか。そうなんだ。














はいつも皆に囲まれちゃうもん。でも一馬のことだって忘れてなんかないよ。』





考えてみれば、当然のこと。





『え・・・?べっ・・・別に変な意味とかないからな?!』





明るくて、行動的で、強さも持っていて。
一馬の応援をするために真っ先に動いて、いつだって一生懸命な

そこにいるだけで、周りを明るくしてくれる人。
そして皆以上にのことを知ってる一馬。



好きに、ならないわけがない。





『あはは、そんな必死にならなくても。』





そんなに必死で、顔を真っ赤にして。
なんと言おうと一馬の顔を見ればわかっちゃうよ。





ああ、やっぱり私・・・にはかなわないんだなあ。

















私は多くの人に囲まれて、楽しく騒げるタイプじゃない。





みたいに、周りの人に楽しさを与えられる人間じゃない。





だけど、そんな多くの人じゃなくてもいいから。





大切な人たちだけは、笑っていてほしいと思う。





幸せで、いてほしいと願う。





だから、








『あのさ、私・・・一馬と付き合うことになった。』








だから、誰にもこの気持ちを気づかせない。






『おめでとう、。』






誰にも気づかれないように、笑うの。





私の気持ちを二人が知れば、優しい二人はきっと戸惑う。
そして心の中にしこりが残る。本当の意味で幸せな二人じゃなくなってしまう。



大丈夫、私も幸せだよ。
だって大好きな二人が想いを伝えあって、幸せそうに笑ってる。



誰にも、言わない。
ずっと、胸に秘めて隠すの。



願うことは、大好きな二人の幸せ。



ねえどうか、ずっと笑っていて。



そうすれば、そんな二人の傍にいれば、きっとこの胸の痛みは別のものに変わる。



二人を祝福して、また別の道を見つけられる。











それなのに、どうして。












さんが当病院に運び込まれ、先ほど死亡が確認されました。』














いかないで。





いかないで、





私にも一馬にも、が必要なんだよ。





皆、貴方を愛していた。





貴方の中に、光を見ていた。









『やっぱり・・・お前がいないとダメみたいだ・・・。』



『私はもう、あんな一馬を見たくないの・・・!』



『ただ何でもできるだけの人だったら、ここまで私たちの中に残らないよ。』



『もしだったら、皆ここまで引きずらないだろ?』










私でも誰かの力になれるんじゃないかって思った。
一馬の力になれたらいいと思った。だけど。



だけど、私じゃやっぱり何もできなくて。



何も、変わらなくて。





貴方のような明るさがあればよかった。





貴方のように、誰かの光になりたかった。





私は、少しの大切な人さえ救えない。





たった一人の大切な幼馴染さえ、救うことができない。




















ピリリリ











「・・・!」











携帯の電子的な着信音で目が覚める。
我に返って開けた視界を見渡せば、そこには部屋の白い天井。
窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。
どうやら学校から帰っていつの間にか眠ってしまったようだ。

眠りながら見ていた夢は、幸せな思い出と今の現実。
そしてずっと持ち続けたまま、必死で隠そうとしていた想い。

二人の幸せを願ってた。そのことに嘘なんてない。
でも私はきっと・・・になりたかった。
強くて、優しくて、明るくて。
いつだって一馬の光だったに。一馬に愛されていたに。





「・・・っ・・・!」

「・・・何でもない!勿論わかってるからさ、頑張ってきなよね一馬!」





もしかしたら私は、を演じると決めたあの時に。
切なさとか悲しさとは別に、もう一つの感情を持っていたのかもしれない。
一馬の光がまたなくなってしまうとか、おばさんが悲しむからとか、そんな理由とは別に。



今ならば、私はになれるのかもしれないと。



だから、そんな自分に気づいたとき
もう一馬には会えないと思った。にだって、顔向けできない。














視界に今の着信を知らせるように、チカチカと光が点滅する携帯が見えた。
私は何も考えず携帯を開く。





『窓の外見て』





メールには、たった一言。
私はその文どおりに、部屋の窓から外を見た。





「・・・っ・・・。」





そこにはメールをくれた人が、英士が立っていた。









きっと今日だってサッカーの練習があったはずでしょう?
寮の門限だってある。そこを抜け出すことだって規則違反で。
英士は決められた規則をしっかり守って、破ったりなんてしない人なのに。



それなのに、どうして。



どうして貴方は、こんな私のために。



こんな自分勝手な考えばかり持ってる、私なんかのために。







誰も傷つけたくないと思っていた。





迷惑をかけたくないと思っていた。





そう言い訳をしながら、逃げていた情けない自分。





痛む胸とこみあげてくる涙をこらえながら、私は彼の元へと向かった。










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