何でもできると思ってた。
貴方が光を取り戻せるのなら。
たった一人の君へ
「こんにちは、お久しぶりです。」
「・・・・・・ちゃん・・・。」
英士と結人と話した翌日、私は一馬の家へと向かった。
今日は丁度学校も休みで、一馬ともゆっくり話ができるはずだ。
玄関のドアを開けたおばさんが、驚いたように私を見た。
それもそのはず。私はのお葬式が終わってから、この家に近づきさえしなかったのだ。
毎朝窓から見えていたおばさんは、お母さんも言っていたようにとても疲れているように見えた。
「・・・一馬に・・・会いに来てくれたの?」
「・・・はい。」
「・・・っ・・・ありがとうっ・・・。一馬もきっと喜ぶわ。」
おばさんは私を家へと招きいれ、一馬を呼ぼうとする。
けれど私はそれを止めて首を振る。そして彼の部屋がある2階へと階段を上がった。
私に何が出来るかなんて、わからない。
のように、一馬を元気づけられる自信もない。
だけど、私にも出来ることがあるのなら。
深呼吸をひとつして、目の前のドアを開けた。
部屋の窓は開いていて、そこから風が吹き抜ける。
目に入った一馬はこちらを向いておらず、床に座ったまま窓の外へと視線を向けていた。
「・・・一馬・・・?」
名前を呼ぶ。
一馬の肩がピクリと動いた。
「一馬。」
もう一度、しっかりと。彼に届くように。
一馬の体が動き、視線がこちらへと向く。
振り向いた彼の瞳はまだうつろなままだ。
「一馬・・・!!」
名前を呼ぶことしかできない。
何と声をかければいい?何を伝えればいい?
「ずっと・・・ずっと会いに来なくてごめん・・・。頼りにならなくて・・・ごめんね?」
「・・・っ・・・。」
一馬が何か言おうと口を開く。
そして、虚ろな瞳が光を取り戻し、その目はしっかりと私の姿をとらえた。
「頼むよ!アイツを・・・一馬を助けてやってくれよ・・・!!」
「・・・っ・・・ありがとうっ・・・。一馬もきっと喜ぶわ。」
何を言われても私じゃどうにもできないと思ってた。
気の利いたことだって何一つ言えていないのに。
なのに、あまりにも早く一馬が光を取り戻したかのように私を見たから私は少しだけ驚く。
もしかしたら本当に私は・・・一馬を救うことができる?
私でも、
私でも貴方の、支えに・・・
「かず・・・」
「・・・。」
時が、思考が、止まった。
「・・・っ・・・!!」
光を取り戻した一馬の瞳に映っていたのは、もういないはずの彼女の姿。
もういないはずの、の姿。
「ち・・・違うっ・・・私は・・・っ・・・」
「・・・っ・・・!!」
「一馬っ!!」
私たちは対照的な双子だった。
頭もよくて運動神経もよくて、誰にでも好かれた。
何もかもが平凡で、引っ込み思案で人見知りだった私。
だけど、その姿だけは本当にそっくりで。
初対面の人は何度も私たちを間違えた。
対照的な性格を知ってからも、間違って声をかけられるほどに。
私たちがどんな姿をしていても、どんな環境にいても
一馬は絶対に私たちを見分けた。間違えることなんてなかった。
一馬はいつだって、本当の私たちを見ていてくれたの。
「一馬っ・・・私は・・・私はじゃない・・・。だよ・・・!」
「・・・何・・・言ってんだよ・・・?また俺をからかってるのか?」
「からかってなんかない!は、はもう・・・」
「。」
私の名前じゃない、の名前とともに一馬は私を抱きしめた。
強い、強いその力。動くことも、逃げることもできない。
温かい腕、温かい体。それはずっと好きだった人の温もり。
「ごめん・・・なんか俺・・・情けねえけどさ・・・」
「・・・。」
「やっぱり・・・お前がいないとダメみたいだ・・・。」
「!」
違う。違うんだよ一馬。
貴方の愛しい人はもういない。どこにもいない。私はじゃない。
「私はっ・・・」
言葉が出てこない。伝えなきゃ、本当のことを。
そう思っているのに、まるでそれ以上の言葉を失ったかのように声にならない。
「私、はっ・・・!」
私がここで一馬を突き放して、また一馬は光を失うの?
からかわれて怒る顔も、照れて赤くなった顔も、優しかった笑顔も失って
また、うつろな瞳のまま何も映さなくなるの?
「わ、たし・・・」
「会いたかった・・・。」
私の言葉は、愛しい人を呼ぶ一馬の声に遮られて。
抱きしめられたまま、一馬の顔が私に近づく。
唇に、温かいものが触れた。
感じる温もりはずっと望んでいたもの。
目の前にはずっと好きだった人の顔。
生まれて初めてのキス。ずっと大好きだった人。
けれど、それは
あまりにも切なくて、
あまりにも悲しい、くちづけだった。
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