大好きだった私の半身。





いつだって明るく、皆を和ませる笑顔も





優しくて温かな、光の射す場所も





今はもう、どこにもない。

















たった一人の君へ
















さんが当病院に運び込まれ、先ほど死亡が確認されました。」





その言葉を聞いたとき、頭が真っ白になった。





「どういうことですか?!なぜがっ・・・!」





私の様子がおかしいことに気づいたお母さんが私から受話器を取り、相手と話してる。
そしてその話の内容が進むにつれて、お母さんの表情も声も変わっていくのがわかった。





「っ・・・!行くわよ!!」





思考は停止していて、何も考えられなくて。
私はお母さんに手を引かれるままに、車に乗り込んだ。




















「・・・っ・・・!!」





目の前には真っ白なベッドに横たわったの姿。





「どうしてっ・・・こんなっ・・・!」





お母さんの悲痛な叫びが部屋に響く。





「・・・。」





そっと触れたはあまりにも冷たかった。





「・・・・・・?」





かたく閉じられた瞳。





?」





私はの手を取り、彼女の名前を呼ぶ。





「ねえ、聞いてるの?・・・?」





返事は、戻らなかった。








泣き叫ぶお母さんと、呆然とする私の横で誰かが話してる。
横断歩道を渡っていた。法定速度を無視した暴走車。の命を奪った、鉄の塊。



が死んだなんて、嘘だと思った。
だって今日も一緒に学校に行って、今日も変わらずはクラスの中心で。
光の差す場所、温かな笑顔、優しい空間。

入学したばかりの高校で、は当然の如く昔から続けてきたバレー部に入って。
1年だからって関係ないって、レギュラーを目指すんだって張り切ってて。
帰宅部の私はに別れを告げて、先に家に帰った。

何ひとつ変わることのない一日だった。





もう動かない。あんなに眩しかった笑顔は、もうそこにはない。
顔に傷なんてなくて、まるで眠っているかのように。
それでもあまりにも冷たいの手は、呼吸さえもしないの姿は
そして、半身を失ったこの胸の痛みは。

彼女の死を実感させるには、充分だった。






「・・・っ・・・っ・・・!!」






残酷な現実を実感しても、私はただ彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。
何度その名前を呼んでも、もう彼女が帰ってくることなどないのに。
いつものように、優しい笑顔で、強気な態度で、楽しそうに嬉しそうに返事をくれるはもうどこにもいないのに。





っ・・・ーーーー!!」





それでも私は何度も、何度もの名前を呼んだ。
泣き崩れて、声が嗄れても、彼女の名前を呼び続けた。

















っ・・・!!」

「・・・一馬・・・。」





の眠る部屋で泣き続け、その部屋を出てから数時間が経っていた。
廊下にある長椅子に一人腰かけて、声のするほうへと振り向く。





「・・・は・・・?!」

「・・・。」

「何か、電話でおかしなこと言われたんだけど・・・違うよな?嘘なんだろ?」

「・・・一馬・・・。」

「アイツ、いっつもそうやって人騙して面白がってさ。もう騙されたりしねえし!」

「一馬・・・は・・・」

はどこにいるんだよ。今度こそ騙されないってそう言ってや・・・

「一馬っ・・・。」





先ほど叫びすぎて嗄れてしまったその声で、一馬の名前を呼ぶ。
不安に押しつぶされそうな表情で、一馬は初めて私の顔を見た。





「・・・は・・・もう、いないの・・・。」

・・・?何だよお前まで・・・」

「・・・っ・・・。」





信じることのできない、残酷な現実。
私だって信じられなかった。信じたくなかった。一馬の手をひいて、目の前の扉を開く。





「・・・・・・?」





そう、一言だけ呟いて。
一馬は冷たくなったの頬に手を置く。





「・・・な・・・ん・・・」





目を丸くして、驚いた表情で。言葉にならない声を出して。
私はそんな一馬の後ろで、ただただ涙を流すことしか出来なかった。
の顔から一馬の手が離れる。
一馬はうなだれるようにその場に崩れ、それからは何も言葉を発しなかった。

眠るように横たわるの姿を見て、一馬は何を思っただろう。
悲しさが押し寄せて、がいなくなったことが信じられない。
けれど、目の前の残酷な現実に逆らうこともできずにいる。私と同じ気持ちだっただろうか。

それとも、幸せだった時間に想いを馳せていただろうか。
これは夢なんだと、自分に言い聞かせて。

その場に崩れ俯いた彼からは、何も読み取ることはできなかった。


















のお葬式には、本当にたくさんの人が来た。
小、中学校の同級生は勿論、まだ入りたての高校の友達も。
そして、私すら知らない人たち。がどれだけ人とのつながりを持ち、どれだけ愛されていたのかがわかる。






「・・・ごめんなさい。一馬はやっぱり・・・。」





隣に座るお母さんに話しかけるのは、一馬の母親だった。
家族ぐるみで仲の良かった真田家には、このお葬式でもいろいろと手伝ってもらっていた。
けれど、その中に一馬の姿はなかった。
ぼんやりとお母さんたちを眺めていると、一馬のお母さんと目が合う。





「ごめんねちゃん・・・。ちゃんだってつらいのに・・・。」





おばさんの言葉を聞いて、小さく笑う。
笑う気力もなくしていたから、うまく笑えていたのかはわからないけれど。

が大好きだった一馬。想いを伝えあって、ようやく付き合い始めた二人。
高校は違っても、一馬と出かけるんだと笑うの姿はとても嬉しそうだった。

きっと幸せの真っ只中だった。
そして今、姿を現さない一馬がどんな気持ちでいるかを思うと胸が痛んだ。












それからしばらく私は学校を休み、1週間ほど経った頃にようやく学校へと向かった。
いつまでも落ち込んでいることを、は望まない。
私を大切にしてくれていたが、いつでも前向きにまっすぐ前を見ていたが望むのは
後ろを向いてうずくまって生きていくことじゃない。

私はたった一人となった部屋のカーテンと窓を開け、小さく深呼吸をした。
そしてあれ以来、一度も顔を合わせていない一馬が家から出てくるのを目にする。





「・・・一馬・・・?」





ドアの前で見送るおばさんに、何の返事もせず全くの無表情で。
一馬はドアを閉め歩き出した。



窓から一馬の姿を見ている私に気づきもせずに、まるでどこも見ていないような虚ろな目。



見たこともないような一馬の表情に、ゾクリと小さな寒気を感じて。
徐々に速くなっていく胸の鼓動は、しばらく戻ることはなかった。










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