いつでも光が差し込むその場所。
羨ましかった。
妬ましく思ったときも、あった。
だけど、それでも。
私は間違いなく、貴方を誇りに思っていたの。
貴方が、大好きだったの。
たった一人の君へ
「、ー!!」
「お?どうしたの、慌てちゃって。」
「宿題忘れちゃったー!お願い!助けてえ!」
「わーお、マジでー?次は数学の山中先生だよー?あっぶなーい!」
「だから助けてって言ってるじゃん!」
「あは、仕方ないなあ。じゃあ姉さんが手伝ってやろうかね。」
「やったあ!ありがと!!」
休み時間に私たちのところへ走りよってきたクラスメイト。
クラスメイトが彼女に助けを求め、縋る姿を見るのはもはや見慣れた光景。
「じゃあちょっと行ってくるね。」
「うん、行ってらっしゃい。」
そして彼女がその助けを決して断らない、世話好きな性格なのも知っている。
私は小さく手を振って、クラスメイトに抱きつかれながら席を立った彼女の背中を見送った。
「ー!今日の部活さー・・・っとちゃんか。」
「ならあっちで宿題の手伝いしてるよ。」
「そっか!ありがとねー!」
今ではもうほとんどないけれど、入学当時はしょっちゅう間違えられたんだよなあ。
話しかけられては、今日の元気なくない?なんて言われて。
顔はそっくりなのに、性格は全然違うんだねと言われることにも慣れた。
勉強もできて、スポーツもできて。明るい性格で面倒見もいい。
彼女の周りにはいつも光が差している。それとはまるで正反対の私。
「やっぱり見た目だけはそっくりだよねー?」
のいる方へと向かう彼女たちの会話が聞こえた。
「さすが双子だね。」
そう、持っているものは姿以外正反対だけれど。私と彼女は双子の姉妹だ。
クラスメイトの一人の宿題を見るはずだったのに、その子の席にはを中心として何人もの人間が集まっていた。
一緒に勉強を教えてもらったり、ただ単にに話しかけるためにそこにいる子もいる。
もはやそれも毎日見る光景のひとつ。
私はそれを気にすることなく、鞄の中の本を取り出そうと手を伸ばした。
「。」
「一馬。」
呼ばれた自分の名前に手を止め、顔をあげる。
そこに立っていたのは、小さな頃からの幼馴染である真田一馬だった。
「これ、担任が渡してくれだって。」
「ノート?あ、この前遅れて提出した奴だ。」
「ふーん・・・。」
一馬からノートを受け取ると、瞬間、クラスに大きな笑い声が響いた。
どこからかなんて探すまでもない。明るく、楽しそうな笑い声はのいる場所からだった。
「・・・今日も楽しそうだな、は。」
「まあどこにいても目立つ子だからね。」
「・・・わかってるけどさ。」
一馬が不満そうに笑い声のするその場所を見つめた。
彼が不満そうにする理由はわかっていた。
愛想がなくて、不器用で意地っ張り。お世辞にも世渡り上手とは言えない彼。
私と同じように、人付き合いは少ない方だ。
だからと言って、そこに混ざりたいと思っているわけじゃない。
「行ってくれば?」
「え?」
「に馴れ馴れしくしてんじゃねえー、って。」
「はあ?!」
笑いあうの肩を抱く男子の姿。
誰だって好きな人が他の男子に触られているのを見るのは嫌だろう。
「な、何言ってんだよお前!」
「何を今更。一馬は隠し事向いてないよ?」
「だ、だから何も隠してなんてないって・・・」
「っ!かーずま!!」
「うわあ!!」
先ほどまで遠くで笑っていたが、いつの間にか私たちのところまで来ていた。
丁度話していた人物の突然の登場に、一馬が驚いて体勢を崩す。
「そんなに驚かなくてもいいじゃんよー!私仲間はずれ〜?」
「そ、そんなことしてねえだろ?!」
「してるよー!あー、ひどい。悲しくなってきた。泣きたくなってきた。」
「だから何もしてねえって・・・つーかこれくらいで泣くってなんだよ!」
「・・・一馬。のいつもの意地悪だよ。そんなに必死にならなくても・・・。」
「ふっふっふ。その必死になるところが可愛いんじゃない。」
「・・・っ・・・。」
ニコリと笑って、背伸びをして一馬の頭を撫でるに
一馬は顔を真っ赤にしてから顔を背けた。まるで子供のような扱いにやっぱり一馬は不満そうだ。
でも、ねえ一馬。気づいてる?
貴方を見るの瞳がいつも優しくて、愛おしそうなこと。
は誰にでも優しいけど、そんな目で他の誰かを見るなんてことないんだよ?
弟みたいに接しながら、でもその視線に意味があること。気づいてる?
「止めろよ!いつまでも弟扱いすんな!」
気づいて・・・ないんだろうなあ。この調子じゃ。
クラスメイトの男子にヤキモチ妬く必要なんてないくらい、の目にはたった一人しか映ってないのに。
からその気持ちをはっきりと聞いたことはない。
一馬だって、いつも否定してばかりだったけれど。
だけど、私にはわかるの。
誰よりも、貴方たちのことがわかる。
ずっと一緒にいたから。ずっと、見てきたんだから。
ねえ、早く気づいて。
二人が付き合ったなら、私は祝福するよ。
不器用で、意地っ張りで、でも照れ屋で優しい一馬。
いつでも笑顔で明るくて、誰より私を大切にしてくれる。
その瞬間、ずっと秘めてきた私の想いは意味のないものになってしまうかもしれないけれど。
でも、私は本当に二人とも大好きだから。幸せになってほしい。
「、話があるんだけど・・・!」
「何?」
「あのさ、私・・・
赤く染まった頬。少しだけ緊張した、けれど嬉しそうな面持ち。
がこれから何を言おうとしてるのか、すぐにわかった。
「一馬と付き合うことになった。」
ああ、ようやくか。
ずっと一緒にいて、中学生活ももう終わりを迎えて。
ようやく、二人は気持ちを伝えあった。
胸に小さな痛みが走った。
けれどそんな痛みよりも大きな、もう一つの感情が私の中を巡る。
「おめでとう、。」
胸が痛かったことも本当だった。だけど、私は本当に嬉しかったの。
ずっと知っていた二人の気持ち。私は遠くから見て、協力することさえできなかったけれど。
「へへっ。ありがと。」
そう言って頬を染めながら笑顔を浮かべるは、私と同じ顔のはずなのに本当に綺麗に見えた。
の笑顔を見て、二人は幸せになれると思った。
私もきっと大丈夫。胸は痛んでも、大好きな二人を祝福して応援できる。
そう、思っていたの。
本当に、心から。
「ー!今手が放せないのー。電話出てくれるー?」
「わかったー。」
電話の電子音が鳴り響く。
いつも母親ばかりが出る電話の受話器を手にとって。
「もしもし?」
『さんのお宅でしょうか?』
「はい。」
なんだか物々しい雰囲気の電話に、こちらまで緊張してしまって。
そして、話を進める相手が病院の人間だと知る。
『さんは、そちらのご家族で間違いありませんか?』
「・・・?は、はい・・・。」
『落ち着いて聞いてください。』
いきなりの名前が出てきたこと。
なぜその人が落ち着けなんていうのか。意味が、わからなかった。
『さんが当病院に運び込まれ、先ほど死亡が確認されました。』
明るくて、優しくて、強くて。
勉強だって運動だって何でもできる、皆から好かれる自慢の姉。
比べられることがつらくなかったわけじゃなかった。
と比べて幻滅される表情を見て、心を痛めていなかったわけじゃなかった。
いつも一緒にいる一馬を笑顔に出来たのはいつだってだった。だから一馬が彼女を選んだのも必然で。
私の持っていないものを持っているが羨ましかった。になりたいと願ったこともあった。
だけど、だけどね。
それ以上に、私はが大好きだったの。
こんな私なのに、誰よりも大切にしてくれることが嬉しかった。
が誰かに褒められると自分のことのように嬉しかった。
だからには、誰よりも幸せになってほしかった。
だからお願い。
誰か、嘘だと言って。
もう一度、あの笑顔に。
光が集まるかのような、温かな笑顔に会わせて。
TOP NEXT
|