玄関の扉を開けると、そこには大きな荷物を抱えた金髪の男がおりました。
「おーおー、可愛らしい二人やなあ。」
「二人って何?シンデレラのことなら一人だろ。」
「そりゃ、シンデレラと椎・・・じゃないか、サンドリヨンのことに決まっとるやん〜」
「・・・ああ、『可愛い』って設定だもんね。でも、台本にない台詞で人を不愉快にさせないでくれる?」
『お前が言うな。』
『お前が言うな。』
台本にない台詞を言っているのは、お前の方が多いぞサンドリヨン。
『で、淡々とつっこむな不破!お前今ナレーター!!』
「ま、気を取り直して!今日も気前よく買うってってな!」
「もちろん負けてくれるんでしょ?」
「せやなー、二人に可愛く上目遣いでお願いされたら考えなくも「却下。」」
言動と風貌から、やってきたその男は商人のようです。
資産家でもあるシンデレラの家には、定期的に商人が物を売りにやってきます。
「そういえば、今度お城で舞踏会があるんやろ?あのゴツイ姉さんらは行くんやろうけど・・・
二人は行かへんの?」
「この格好見てよ。行かせてもらえると思う?」
「僕は別に行かなくてもいいし。ここでシンデレラと二人でハッピーエンドでいいんじゃない?」
『よくねえよ。王子登場せずに終わるじゃねえか!』
『俺はいいと思う。
姉たちは舞踏会に行きました。シンデレラとサンドリヨンはその間に家を乗っ取り、幸せに暮らしました。完。どう?』
『どうもこうもない!!』
「俺は二人のドレス姿、見たいわー。」
「残念ですが、買うお金がありません。」
「ドレスはともかく、あのゴツイ継母と義姉のために特注の注文してお金かけてるのに、
僕らには一銭もかけないってところが腹立つよね。」
「俺にとったら高い金でドレスを買うてくれるいい客なんやけどな。」
舞踏会があり、興味はあるのに行くことができない。
悲しそうに儚げに呟き・・・む?儚げ?
『不破!ダメ!気にしたらダメ!』
『この不自然さをいかに流せるかが必要だよな。』
いや、事実は明確に伝える必要がある。修正が必要だろう。
舞踏会があり、本人たちは行く気がない。
けれど、少女たちには一切の贅沢をさせないというのに、
自分たちは泥水のように金を使う姉たちは許せないようだ。
『あーあ。アドリブでばっかり進めるから。』
『やめて!これ以上俺のシンデレラ純情像を崩さないで!』
「こっそり使うたったらええやん。元々姫さんたちの父親の金なんやろ?」
「継母の方が金の管理もきっちりとしてるんだよ。
父親はもうダメだ。僕らの手には負えない。」
「・・・なんや、具合悪いんか?」
「ううん、あの義母と結婚して、あの義姉たちを引き取るって決めた時点で見限りました。」
「可愛い顔して思い切ったこと言うわー」
「だって、あれはひどいよね。」
「ね。どうかしちゃったとしか思えないよね。」
確かに後からきた嫁やその娘たちの悪行を見落とし、
実の娘たちの苦労にも気づかないのなら、よほどのバカだな。
しかしそこは法律に則って・・・
『不破!不破!お前の意見はいいから!』
『正義感に目覚めたみたいだな。そのまま法律を武器に戦いそう。』
・・・誰も頼るものがいないと話す少女二人を見て、商人は心を痛めました。
しかしドレスなんて高価なものを無償で用意することなどは、さすがにできません。
落ち込む二人を前に、商人は商品が入っている袋とは別の小さな袋を開きました。
「さすがにドレスは無理やけど、これくらいならええやろ。」
「何?ランプ?」
「お守りや。そのランプを大切にしてやると、魔人が出てきて願いを叶えてくれるって伝えられてる。」
『違う童話きちゃったー!』
『何でもありだな、この話。』
「でもそれは貴方のお守りなんでしょ?私たちがもらうわけには・・・」
「ええねんええねん。それで少しでも可愛らしい姫さん方になってもらえるなら、それが俺の願いってことや。」
「そんなお前の願いは僕が打ち砕くけどね。」
「砕くな。どんだけドレス着たくないねん!」
そして、継母と義姉たちにドレスを選んでもらい、
舞踏会に必要なものを注文すると、二人は商人を見送りました。
任されていた仕事も一段落つけると、狭く質素な自分たちの部屋で一息つきました。
「疲れたねえ。」
「うん、いろんな意味で。」
「お義母さんや義姉さんたちのドレス姿には目もあてられなかったね。」
「もう記憶から抹消した。」
「あ、そうだ!商人にもらったランプ、どうしようか?」
壊れないようケースに入れて棚のうえに飾っておく
綺麗にするために柔らかい布で掃除をする
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