![]() 「おい!正門のとこに天使がいる!!」 「は?」 「いいから見てみろって!あれ絶対レベル高いぜ!こっから見てもオーラがちげえもん!」 HRが終わり、クラスの皆がダラダラと帰り支度をはじめた放課後。 興奮ぎみで突然叫びだしたのは、窓際で鼻唄を歌いながら鞄に物をつめていた隣の席のクラスメイト。 「なになに?何だよ天使って!」 「ぶは、お前夢でも見てんじゃねえの?妄想はひとりでしろよ!」 叫んだソイツをバカにしながらも、続々と集まってくるクラスメイト。 俺はそんなクラスメイトの行動に呆れながら、特に気にすることもなく帰り支度を進めた。 「・・・あれ?マジでなんか・・・レベル高いっぽくねえ?」 「ちゃんとこっち向かねえかな?こっち向け!」 女のことでこれだけ夢中になれるってある意味すごいよな、全く。 もう俺たち高校生だぜ?少しは落ち着けよ。 ガラッ!! そんなことを思いながらため息をついていると、教室の扉が勢いよく開かれた。 「おい!お前ら!天使!エンジェル発見!!」 彼女とのデートだと一番に教室を出て行った奴が戻ってきた。 どうやら奴も正門にいる女のことを報告にきたようだ。ていうか彼女はいいのかよ。 「え!お前見た?見てきたの?!だろ?天使だよな!オーラ違うもんな!」 「おう!そうなの、オーラすごすぎて俺ごときが話しかけられねえんだよ! 学校に入ろうか迷ってるみたいだった!誰か行ってこいよ!」 「俺無理!一般人だもん!お前行け!!」 「やだよ!何で・・・」 「あーもう!天使がどっか行っちまう!」 何こいつら。バカか?バカなのか? まあどうでもいいや。アホな奴らは無視してそろそろ部活行こう。 「かーずまっ!練習行こうぜ!」 「・・・?何の騒ぎ?」 クラスメイトのバカさ加減に呆れてもたついてる間に 結人と英士が俺のクラスにやってきた。 高校から同じ学校に入って、英士と結人は同じクラスだが俺だけ違う。 だからだか知らないけど、二人はこうしてたまに俺を迎えにくる。たくっ、ガキじゃないっての。 「何?どうしたんだー?」 この騒ぎようを見て結人が興味を持たないわけがない。 結人は窓にたかる奴らをかきわけて、その興味の対象を覗きこむ。 「な?天使だよな若菜!お前ならわかるだろ?!」 「・・・。」 結人がだまりこむ。 コイツを黙らせるなんて、どれだけのオーラを出してるというのか。 ちょっと興味がわいたけど、まあ俺もそれほど暇じゃないし。 ・・・大体、天使って言葉が似合う奴ならもう知ってるし。 「よっし!俺が行ってくる!!天使情報ゲット!」 「すっげー!勇者だ!勇者がここにいる!」 「健闘を祈っててくれ!行ってくる!」 「行ってらっしゃい!!」 ああもう何このアホ集団。 どうして俺、このクラスになっちゃったんだろう。 結人みたいなノリの奴ばっかなんだけど。 「なあ一馬。」 「なんだよ。」 「あれ、ちゃんじゃねえの?」 「あ、本当だ。」 結人が天使と呼ばれる人物を指差して。 英士がその人物を凝視して。 俺のよく知るその名前を告げる。 「・・・はあっ・・・?!」 その言葉と同時に俺は初めて窓際へと駆け寄った。 「・・・・・!!」 そこにいたのはまさしく。 「よっし!俺が行ってくる!!天使情報ゲット!」 「すっげー!勇者だ!勇者がここにいる!」 「健闘を祈っててくれ!行ってくる!」 「行ってらっしゃい!!」 「・・・ちょっと待てえーーーー!!」 クラスメイトたちの言葉を思い出して、俺は教室から駆け出していった奴を追いかけた。 皆が天使だ天使だと騒いでいた視線の先にいた人物。 そこには俺の妹、がいた。 「・・・はあっ、はあ・・・ぜはーっ・・・」 「どうしたの?そんなに息きらせてまで急がなくてもよかったのにー。」 「だ、だってお前っ・・・あいつらにっ・・・俺は・・・」 「・・・?でもよかった。お兄ちゃんが気づいてくれて。学校に入っちゃっていいのかわからなかったし。」 変な虫がわいてこないうちにと、全速力で正門まで走った。 そんな俺の気も知らず、は笑顔で手を振って俺を迎える。 「ふふふ。」 「何?」 上目遣いで俺を見つめ、嬉しそうに笑む。瞬間、 「お兄ちゃん久しぶり!会いたかったあー!!」 「ちょっ・・・!おい!」 人目も気にせず俺に抱きついてきたに、思わず我を忘れてしまいそうになる。 ちょ、ちょっと待て、落ち着け俺。ここは学校の正門。今は下校時刻。 大体今も周りの視線が気になるって言うのに、気をしっかり持て俺。大丈夫だ俺。 「突然どうしたんだよ。」 「・・・お兄ちゃんなんか困った顔してる。・・・いきなりきちゃって迷惑だったかなわたし・・・。」 「そ、そんなわけないだろ!嬉しいよ!俺も嬉しい!!」 「きゃー!さっすがお兄ちゃん!嬉しいーーー!!」 せっかく今俺から引き剥がしたのに、またくっついてしまった。 何だよもう、何この素直さ。本当に俺の妹か? 「おーい、ちゃーん!久しぶり!」 「久しぶり、。」 妹の眩しさに眩暈を起こしているうちに、結人と英士がゆっくり歩いてこっちにやってきた。 ガキの頃から友達のあいつらは、勿論のことも知っていた。 「あ、英士くん!久しぶり!!」 「え?俺は?!」 「英士くん、お兄ちゃんと同じ学校なんて羨ましいなあ。」 「はは、一馬が寮に入っちゃったからは寂しいんだもんね。」 「そうなの!だから英士くんが羨ましすぎる・・・!!」 「ちゃん!俺も、俺もこの学校いるんだけど!羨ましーいーかー?」 「黙れ結人。」 ・・・うん、まあお互いを知っているはずなんだけど。 は結人を毛嫌いしている。(まるで別人だ)そして英士を気に入っている。 その理由は・・・わかってるけど俺にはどうしようもない。許せ結人。 「真田・・・!その天使・・・じゃなかった、その子お前の妹かよ・・・!」 「・・・そ、そうだけど・・・。」 「マジで!全然似てねえじゃんかよ!初めまして、俺真田と同じクラスの・・・」 「てめえ!抜け駆けすんな!俺から・・・」 「ちょっと待て、俺がっ・・・」 結人と英士の後からは、同じクラスの奴から違うクラスの全然知らない奴までが集まってきた。 ああもう本当にバカばっかりだ。ていうかをこんな狼だらけの場所には置いておけないな。どこか別の場所に・・・ 「うるさいな。馴れ馴れしい、どうせただのクラスメイトでしょ。 お兄ちゃんと話してて、話題にも出ない人たちなんだから。」 は昔からよからぬ男どもに言い寄られることには慣れているから。 面白半分だとか、見た目だけを見て騒ぐとか、そういう態度には敏感だ。 そう判断するやいなや、辛らつな台詞をはく。 それで・・・あのさ、。お前の言ってることも間違ってはないんだけどさ。 俺と話してて出てくる友達の名前って、結人と英士だけだから間違いではないんだけどさ。 なんか、ちょっと兄ちゃん切なくなってきた。 「あれ・・・天使・・・」 「は?天使がどうしたの?私、チャラチャラした男って嫌い。 世の中の男が皆、お兄ちゃんを見習えばいいのに。」 「・・・お兄ちゃんって・・・」 見るな、お前ら俺を見るな。 お前を見習うの?って目で見るな。言ってなくても目が語ってる。 仕方ないだろ?何でかは俺を理想視してるんだから。 それが別に嫌なわけじゃないけどさ。むしろ嬉し・・・って今はそんなことはどうでもいいんだ。 「違うところで話そう、。」 「うん!あ・・・でもお兄ちゃん、部活・・・。」 「今日は自主練なんだ。練習は後で行くけど、少しだけなら大丈夫。」 「やったあ!お兄ちゃん大好き!!」 「「「・・・。」」」 ああ、痛い痛い。視線が痛い。 何だこのギャップ、どうして真田なんかにとか思ってる。絶対思ってる。 「どうして真田なんかにあんなベッタリなんだよー!しかも何あのギャップ!!」 あ、ピッタリだった。 俺すげえ。人の心読んじゃったよオイ。でもなんか悲しい気持ちになるのは何でだろう。 「顔はあんな可愛いのに!ていうか俺もくっつかれてえーーー!!」 ちょっとお前ら、本人ここにいるぞ。いくら俺らが歩きだしてるからって声でかすぎ。 なんて、当の本人はもう俺の腕にくっついて後ろの声なんて聞いてもないみたいだけど。 「わかる!その気持ちわかるぞ!昔からの知り合いなのに、いつも俺にだけ冷たいんだよあの子!!」 結人も大声で同意するな。 が聞いてたら、また嫌われるぞ。無視とか暴言じゃすまなくなるぞ。 「郭、お前なんか慕われてなかった?!何で、どうして、何をした?!」 「秘密。」 「何でだよくそー!!」 「・・・あのさ、ひとつ教えておくけど。」 「え?なになに?!仲良くなる秘訣?!」 「あの子、小学生だよ。」 「「「・・・。」」」 沈黙が走った。 そう、は背もそこそこあるし、大人びた表情をしてるけれど。 彼女は小学6年生。まぎれもない小学生だ。 「ギャー!!何それ!!うそぉ!!」 「しょ、小学生ーーー?!」 皆、驚いてるみたいだけど、まあよかったかも。 高校生の俺らが小学生の子に騒いでたってわかれば熱も冷めるだろ。 「、俺も一緒にいていいかな?」 「うん、英士くんならいいよ!」 奴らに混乱だけ撒いて、英士が俺たちに駆け寄った。 は他の奴らに見せる表情とは違う、それこそ天使と言われる笑顔を英士へと向けた。 結人と英士のこの差。ちょっと悲しくなってくるな。俺にはどうにもできないけど。 「ちゃん、俺も・・・」 「結人は来なくていいよ。」 「ギャー!ひでえ!!」 「・・・、あのさ・・・結人も一緒でいいだろ?俺からも頼むからさ。」 「・・・うーん・・・。お兄ちゃんが言うなら・・・。」 「ありがと一馬!ありがとちゃん!なんかすっごく悲しいけどありがと!!」 まあ結人友達だし。一人だけ仲間はずれにするのもな・・・。 しかしの結人嫌いはひどいな。 その理由を考えると、俺は少しにやけつつもやっぱりちょっと困ってしまうんだけど。 「じゃあ俺らも一緒に行こうかな!な!一馬!!」 「・・・何だお前ら!!」 「何言ってんだ、俺たち友達だろ?!な!一馬!!」 さっき、を取り囲んでいた奴らまでついてきた。 いつから友達になったんだ。が小学生だったってことでショック受けてたんじゃねえのかよ! 「お前ら落ち着けよ本当に!はまだ小学生なんだぞ?!」 奴らのバカさ加減にたえかねて、ついつい大声を出すと そいつらが今度は俺を取り囲んだ。肩までくんで、に聞こえないよう顔を近づける。 「お前、あんな可愛い子独り占めする気かムッツリが!」 「だ、誰がムッツリだ!!」 「今は小学生でも、はやい話がたった4つ差じゃねえか。たいしたことねえよ。」 「なっ・・・」 「ていうか俺らはなあ・・・」 もうやだコイツら。この思考、やっぱり結人と一緒じゃねえかよ! 「俺らもあの子にお兄ちゃんって言われてえんだよおーーーー!!」 「・・・。」 あの、お前らさ。バカなところ完璧にに見られてるぞ。 すっごい嫌そうな顔してる。多分お前らの望む未来はねえよきっと。 「、バカばっかりの学校でごめんね?」 「英士くんが謝ることないよ。それより、こんな人たちばっかりで英士くんもお兄ちゃんも大変だね?」 「ううん、まあ一人じゃないからね。一馬がいてくれるだけで大分楽だよ。」 「へへっ!やっぱり?さすが英士くん!」 待て、待て英士。お前絶対そんなこと思ってないだろ? 俺がいるから楽とか絶対思ってないだろ? 「は一馬以上の男じゃないとダメなんだもんね?」 「うん!」 「あの人たちは全然届いてないもんね?」 「当然っ!」 「結人は?」 「圏外!」 「ぐはあっ!!」 大変だ、英士が追い討ちをかけて、奴らが次々と倒れこんでる。 ついでに結人まで巻き込んでる。それくらいにしといてやれ英士。なんか皆かわいそすぎるから!! 「・・・ふーん。」 「英士くん?」 「じゃあさ、俺は?」 「えっ・・・?」 英士を見上げて、大きな目を見開いて。 もともと白い肌のの頬が、見る見るうちに赤くなっていくのがわかる。 「・・・え・・・と・・・」 ちょ、お前っ・・・可愛っ・・・ いやいやいやいや、違う!そうじゃないだろ俺!! 待て待て待て待て!自分で言うのもなんだけど、今までは俺以外には目もくれてなかったぞ?! さっきの奴らにたいする反応だったら腐るほど見てきたけども! 「なんてね。俺もまだまだ一馬には叶わないし。」 そう言うと英士はの頭を優しく撫でて、ニコリと笑った。 もほっとしたように、笑みを返す。 こうしてお前は株をあげていくんだな。そんな思ってもみないことを堂々と言いながら。 もう収拾がつかなくなったので、英士や結人、他の奴らにも帰ってもらい俺はがここに来た理由を尋ねた。 「じゃーん!携帯電話だよっ!」 「おわ!マジで?!」 「お兄ちゃん、寮に入ってなかなか連絡取れなくなっちゃったからさ。 お父さんたちもすぐ連絡取れるようにって!」 「で、届けにきてくれたのか。サンキューな。」 礼を言うと、が照れくさそうに笑った。 「そうだ、今度学校に来るときはこれに連絡入れろよ?」 「うん!」 「絶対だぞ?!いきなり来ちゃダメだからな?!」 「うん・・・?どうしてそんな必死なの?お兄ちゃん。」 「何でも!どうしても!」 連絡なしで来て、今日みたいなことになったらマジで俺の胃が痛くなる。 お前は自分の可愛さを自覚しろ。 「もうちょっといたかったけど、さっきの邪魔のせいで結構時間経っちゃったね。」 「あ、ああ・・・。」 「また来るね!お兄ちゃんもたまには家に帰ってきてね!」 「おう!ちゃんと帰るから!」 だからなるべくならもう学校には来ないでくれ、なんて言えるわけもない。 「あ、その時また英士くんだったら連れてきてもいいよ!」 「え?!」 「結人はまあ、お兄ちゃんが連れてきたいなら・・・連れてきてもいい。」 結人の扱いが哀れすぎて思わず泣けてきた。 って、そんな同情はどうでもよくて。 「あ、あのさ、・・・!」 「ん?」 「お、お前っ・・・えい、英士のこと・・・」 って、何を言ってるんだ俺は。 小6の妹にこんなこと聞いてどうすんだ・・・! 「あ、もしかしてさっきのこと聞こうとしてる?」 「え?」 「英士くんはやっぱり大人だよね、ドキッとしちゃった・・・!!」 「お、おお。」 「ふふ、さすがお兄ちゃんの友達!」 「ま、まあな。」 「じゃあ行くね!バイバーイ!」 笑顔で手を振って去っていくを、唖然としながら見送った。 なんだ、別に英士のことが好きってわけじゃなかった? いやでもはっきりとは言ってないしな。ていうかアイツ、発言が大人びすぎてねえ?! だから小学生に見られないんだ。いや、それがわかって言い寄る奴らも多すぎだけど。 でも今一番危ないのは英士だ。 ドキッとするも何も、のあんな顔見たのなんて初めてだったし・・・! 俺嫌だからな、英士が俺の弟になるとか・・・!結人でも嫌だけど! じゃあ誰ならいいのかって、知るかそんなこと! ピリリ、ピリリ 「おわっ!」 から受け取ったばかりの携帯が音を鳴らした。 ええ?俺、まだもらったばっかりなんだけど。一体誰から・・・ 『驚いた?私も携帯買ってもらっちゃったんだ!これでいつでも連絡できるねv』 からのメールだ。 俺の気も知らないで、まったく・・・ 『サッカー頑張ってね!お兄ちゃん大好き!』 「・・・。」 もう何だコイツは!可愛すぎるんだよだから狙われるんだよくそう。 とりあえず今はまだ、俺が一番だと思っても良さそうだ。 でも周りには策士やら能天気やら狼やらがたくさんいるから、油断はできない。 もうシスコンでも何とでも呼べばいい。 俺はが可愛くて仕方ないんだから。 『そうだ、英士くんにも頑張ってって言っておいてね。』 ・・・いや、うん、そういうんじゃないんだよな?な?? わかってるぞ俺は。兄ちゃんの友達だからってことだよな? ・・・俺はお前を信じてるからな、! 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