「そうだ英士!お前ああいうこと言うの止めろよな〜!傷つくだろ?!」

「は?」





四時間目の授業を終えて、皆がまだかまだかと待っていた昼休み。
目の前で俺より一回りは大きい弁当箱からご飯をかきこみながら、結人がなにやら文句を言ってきた。





「今日の朝!俺がちゃんに嫌われてるとかって!」

「ああ、あれ。だって本当のことでしょ。」

「ぐはっ!何それ!何それ!自分は気に入られてるからって何なの?!モテる男の余裕ですかああそうですか!」





文句は続けながらも食べることは止めない。食い意地ありすぎでしょ。
もっと落ち着いて話せないのかな。

今日の朝というのは、結人がはまっている子についてクラスメイトたちと話していたことだろう。
結人が天使だと例えていたその子は一馬の妹のこと。
天使だなんて大げさだとも思うけれど、まあそれにも納得はできるくらいの容姿を持っている子だ。





「ていうか結人、手紙くれた女の子には結局会わないことにしたの?」

「おう!俺にはちゃんいるし!くそう!」

「ふーん。」

「え、何?英士彼女欲しいの?紹介してやろっか?!」

「いらない。結人からの紹介だったら心底いらない。」

「ええ?!何それ!!何でお前ら俺の扱いそんなにひどいの?!」





別にひどくなんてないよ、被害妄想は止めてよね結人。
でもとりあえず今ひとつ何か言うならば、俺の弁当に伸びているお前の箸を引っ込めろということかな。
面倒だから言わないけど。まあ俺らはアイコンタクトで通じるよね、こういうのは。





「・・・。」

「お前、そのオーラは止めろ!わかったよ!何もとらねえよ!!」





結人の箸が引っ込んだ。ホラね、通じた。
え?オーラ?何それ。





「結人、一応言っておくけどさ。って小学生なんだよ?」

「知ってるよ、何言ってんだよ今更。」

「俺たちは高校生。」

「いや、知ってるって!」

「そうか、結人は小学生好きか。」

「止めろその言い方!俺はちゃんだからいいんだよ!
あの子はいいぞ!将来すっげえ美人になる!そこらのアイドルなんか目じゃないぜ!」

「・・・光源氏にでもなりたいの?」

「え?何それ。」

「あ、ごめん。結人には難しすぎた。」

「ええ?!何その蔑みの目!ちゃんと説明して!!」





まあ結人はかなり面食いなうえ、実は結構プライドも高いから。
が結人にするような扱いは受けたことなんてないんだろう。
だからきっと意地になってる部分もあるんだろうけど。





「なんだよ、英士だってちゃんのことかなり可愛がってるくせして!」

「だって可愛いから。仕方ないんじゃない?」

「いけしゃあしゃあと!俺を犠牲にしたくせに!」

「え、それは結人の自滅でしょ?」

「ぐはあっ!痛い痛い!」





と初めて出会った日、確かに結人の行動で俺はの性格を把握したわけだけど。
勝手に突っ走って、一馬をけなしてに嫌われたのは自分のせいだよね。





「英士は思わねえの?ちゃん、今でさえすげえ可愛いのに。
どこかの馬の骨にやるよりは自分でゲット!とか。」

「さあ?」

「もうやだこの子!何この余裕ー!!一馬ー!一馬はどこだー!!」

「今日は来ないんでしょ。ていうか、この話題を一馬の前でしたら一馬がいじけちゃって後が面倒。

ちゃーん!コイツ!コイツの方が絶対一馬を蔑んでるってー!現実を見てー!」

「うるさいな結人は。所詮嫌われてるくせに。」

「ぐはあっ!えぐられたぁ!!」





なんて言ってるけど、正直俺は結人みたいには考えられない。
だってどんなに大人っぽくたって小学生でしょ?

確かに一馬以外にあの笑顔を向ける相手が俺しかいない、というのは結構嬉しいことだけど
それはやっぱり妹として思う感情であって。年の差がどうとか、将来がどうとか柔軟な考えには至らない。
たった4つ差と言えばそれまでだけど、俺は今高校生では小学生。それが事実だ。








その日の放課後、部活の自主練に行こうと一馬のクラスに行ったら
クラスの奴らが窓際で騒いでる。
何事かとそこを覗くと、そこには丁度今日何度も話題になったの姿。

それを告げると一馬が全速力で彼女の元へ走っていった。
うーん。普段引っ込み思案なくせに・・・。一馬のシスコンぶりも中々のものだな。
そんな一馬に苦笑しながら、俺と結人も彼女のいる正門へと向かった。





「おーい、ちゃーん!久しぶり!」

「久しぶり、。」





一馬と嬉しそうに話すに声をかけると、彼女はこちらに笑顔を向ける。





「あ、英士くん!久しぶり!!」

「え?俺は?!」

「英士くん、お兄ちゃんと同じ学校なんて羨ましいなあ。」

「はは、一馬が寮に入っちゃったからは寂しいんだもんね。」

「そうなの!だから英士くんが羨ましすぎる・・・!!」

ちゃん!俺も、俺もこの学校いるんだけど!羨ましーいーかー?」

「黙れ結人。」





相変わらず嫌われてるなあ結人。どうしよう、哀れすぎておかしくなってきた。
でも一応俺、の前じゃいい人で通ってるからこらえておこう。
いや別にいつもが悪い人ってわけじゃないけどね。





「真田・・・!その天使・・・じゃなかった、その女の子お前の妹かよ・・・!」

「・・・そ、そうだけど・・・。」

「マジで!全然似てねえじゃんかよ!初めまして、俺真田と同じクラスの・・・」

「てめえ!抜け駆けすんな!俺から・・・」

「ちょっと待て、俺がっ・・・」





俺たちの後ろから様子をうかがっていた奴らが、ゾロゾロと集まってきた。
あーあ、あの時の結人と同じ。皆もっと空気を読む術を身につけた方がいいよ。
あ、無理かな。何故かこの学校の奴ら、結人属性が多いもんね。





「私、チャラチャラした男って嫌い。世の中の男が皆、お兄ちゃんを見習えばいいのに。」





ホラみなよ。だから手痛いカウンターを受けるんだ。皆呆然としてる。
そしてその何でお前が・・・っていう目で一馬を見るのは止めときなよ。一馬が悲しそうな顔してるから。

しかしこのままだと、また面倒なことになりそうだな。
一馬は騒ぎ、結人も騒ぎ、他の奴らも騒ぎ・・・あれ、なんか騒いでばっかだなこいつら。
一応ここ、名門男子高校なんだけど。あれ?
まあいいや、考えても時間の無駄。結人には効果ないけど、一応釘だけはさして黙らせておこう。





「あのさ、ひとつ教えておくけど。」

「え?なになに?!」

「あの子、小学生だよ。」

「「「・・・。」」」





沈黙が走って、皆信じられないって表情をしてる。
あ、なんかすごい間抜けな顔の奴がいる。俺一応真剣な表情で話してるんだからさ。やめてよその顔笑いそう。





「ギャー!!何それ!!うそぉ!!」

「しょ、小学生ーーー?!」





ようやく返ってきた反応は、まあ全くの予想通りで。
いくら奴らが結人属性だって言っても、普通に考えればここでひくでしょ。





、俺も一緒にいていいかな?」

「うん、英士くんならいいよ!」





俺の言葉にかたまってしまった奴らはほっておいて、
何だか面白そうだから俺も一馬たちについていくことにした。
俺を気に入ってるらしいは当然、笑顔で返事をくれた。





ちゃん、俺も・・・」

「結人は来なくていいよ。」





うん、結人。もうきっとお前ムリだと思うよ。
第一印象って結構大事なんだよ。





「じゃあ俺らも一緒に行こうかな!な!一馬!!」

「・・・何だお前ら!!」

「何言ってんだ、俺たち友達だろ?!な!一馬!!」






さっきの奴らが復活した。
この流れは、え?いや、まさか。





「お前ら落ち着けよ本当に!はまだ小学生なんだぞ?!」





たえかねて、一馬が奴らに怒鳴った。
そうそう、そこは俺も同意できる。いくら大人っぽくたっては小学生だ。





「お前、あんな可愛い子独り占めする気かムッツリが!」

「だ、誰がムッツリだ!!」

「今は小学生でも、はやい話がたった4つ差じゃねえか。たいしたことねえよ。」

「なっ・・・」

「ていうか俺らもなあ・・・」





「俺らもあの子にお兄ちゃんって言われてえんだよおーーーー!!」






ああバカだ。この学校バカばっかだ。
俺この学校に入って本当によかったんだろうか。

そして奴らの言葉はさすがににも聞こえていたらしい。
最初は小声で話してたのに、そこを大声で叫んでたら意味ないでしょ。





、バカばっかりの学校でごめんね?」

「英士くんが謝ることないよ。それより、こんな人たちばっかりで英士くんもお兄ちゃんも大変だね?」

「ううん、まあ一人じゃないからね。一馬がいてくれるだけで大分楽だよ。」

「へへっ!やっぱり?さすが英士くん!」





一馬本人には絶対言わないような台詞を並べて。
俺の言葉に嘘なんてないかのように、は満面の笑みを浮かべた。
また皆が羨ましそうにこっちを見てる。いや、お前ら皆自滅だからね。俺はどうにもできないから。

なんだか面白かったので、もうちょっと奴らをからかってみることにした。





は一馬以上の男じゃないとダメなんだもんね?」

「うん!」

「あの人たちは全然届いてないもんね?」

「当然っ!」

「結人は?」

「圏外!」

「ぐはあっ!!」






あ、皆うなだれてる。結人に関しては地面に倒れこんでる。
バカだな、小学生の女の子なんかに振り回されて。

そうだ、ついでだしもう一つ聞いてみようかな。





「じゃあさ、俺は?」

「えっ・・・?」





俺の言葉にが目を丸くして驚いた表情を浮かべた。
その直後、頬がどんどん赤くなっていく。

・・・これは、かなり予想外。
一馬大好きなのことだ、しかも大人びてるだけあって、かわしかたも結構うまい。
きっと「お兄ちゃんの次に好きだよ」なんて言うと思っていたんだけど。





「・・・え・・・と・・・」





俯いてどうにか返事を返そうとする。
顔は隠していても、白い肌の彼女はその熱を隠しきれていなかった。
参ったな、深い意味なんてなかったのに何だかこっちまで照れてくる。





「なんてね。俺もまだまだ一馬には叶わないし。」





一生懸命悩んで困ってる彼女を見ているのも可愛いとは思ったけれど。
小学生をいじめて楽しむほど、俺性格悪くないからね。だから一馬、そんなに睨まないでよ。

結局収拾がつかなくなったので、一馬はを送りがてら別の場所へと歩いていった。
二人を見送っていると、がこちらを振り向く。







「じゃあね、英士くん!」







さっきの照れた顔なんて嘘のように、また満面の笑みで手を振る。
俺もそんな彼女を見て、自然と笑顔を浮かべ小さく手を振った。





「えーいーしー!!くそう、調子に乗るなよ!!」

「乗ってないよ、普通にしてるだけ。自爆してないだけ。」

「「「痛い痛い痛い!これ以上俺たちに追い討ちをかけるな・・・!!」」」





他の奴らには決して向けない笑みを、自分にだけ向ける。
大人っぽいと思えば、意外なところで照れたり慌てたり。
妹みたいなあの子を、可愛いと思わないわけがない。

だけど、彼女は小学生。
俺は結人みたいに柔軟な考えは持ってないから、彼女は妹にしか思えない。





・・・はず、だったんだけど。





誰にも言ったりしないけど、さっきが顔を真っ赤にさせたとき、自分の熱も上がっていたこと。
そしてそれを隠すために早めに話を切ったこと。それはまぎれもない事実で。





俺は今高校生では小学生。それが事実。
でもそうか、は来年中学生。もしかしたら感じ方が違ってくるのかもね。





なんて、どうも俺もバカばっかりのこの高校の奴らに感化されたみたい。





自分の気持ちがどうであれ、の気持ちがどうであれ。





とりあえず、彼女の成長を楽しみにしておこうかな。








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