「きゃああああーーーーーーー!!!」







それはまるで、初めて出会ったあの日のように。







「ぷはー!!死ぬかと思った!!」







雄たけびとともに、俺の目の前に落ちてきた少女。







「私の名前は。職業は『天使見習』してまっす!」







その時少女は、自分を天使だと言った。







「私の名前は!人間になって英士に会いにきました!」







けれど、今は。







人間になったとそう言って、俺の目の前にいる。
















落ちてきた天使


















「・・・っ・・・!!」

「英士!どうしたの英士!!」





よみがえる記憶。
と過ごした日々。





「・・・。」

「頭痛い?!しっかりして英士!私がついてるぞー!!」





周りに迷惑ばかりかけて
俺に気苦労ばかりかけて
自分勝手で我侭で
なのに、






「俺はまだ、と一緒にいたいと思ってる。」







なのに、愛しいとそう思っていた。












「ねえ、私のことわかる?英士!」

「・・・。」





不安そうに俺を見つめるの姿。
俺は頭を抱えた状態のまま、そんなを見上げた。





「・・・うわあ、思い出しちゃったよ。」

「違うよね。そこはそういう台詞じゃないよね。」






久しぶりに会ったのだろうけれど、俺たちに感動の再会だなんてシーンがあるわけもなく。
まるで、昨日まででもそうしていたかのような雰囲気で。そしてが泣きそうな顔で俺を見てる。






「何だよもー!いつもの英士じゃーん!!変わっちゃったかと思ったよバカー!!」

「誰がバカなの。」

「英士がだ!!感動の再会のシーンで雰囲気ぶち壊しじゃないのさ!」

「なんか話がめちゃくちゃだよ。支離滅裂。期待してないけど、もうちょっとわかる話をしてよ。」

「やー!でもなんか安心する!何これ?!英士中毒かな!」

「何それ。とっとと解毒して。」





泣きそうな顔で、文句を言いながらそれでも俺に飛びついてくる彼女を受け止めて。
そんな状態でも俺たちは話を止めなかった。

止めたくなかった。





「・・・英士!」

「何?」

「忘れないでいてくれて、ありがと!」

「・・・今の今まで忘れてたよ?」

「じゃあ、思い出してくれてありがと!」

「・・・。」

「英士のおかげで私、ここにいられるんだ!」

「・・・そりゃあ散々迷惑かけられたからね。完璧に忘れる方が難しいでしょ。」

「ふふふ!じゃあこれからも英士にはたくさん迷惑を・・・」

「かけなくていいから。」





どうしてがここにいられるのか、とか。
どうしてまたここに落ちてきたのか、とか。
これから俺たちはどうなるのか、とか。



聞きたいことはたくさんあったけれど、とりあえず今は。










「・・・おかえり。。」

「っ・・・ただいま・・・!ただいま英士!!」

























「まあ、そんなわけで委員長・・・いえ、心の友、ちゃんはとてもいい子だったのでした!」

「・・・へえ、あの子がね。すっごい性格悪そうだったけど。」

「見た目で判断してはいけませんよ英士!ちゃんはあれだ。英士属性なんだ!」

「は?」

「素直じゃないけど優しいの!口は悪いけど、意外と世話焼きなの!」

「一緒にしないでよ。」

「え!私的褒め言葉なのに。」

に褒められても嬉しくない。ていうかそれ、褒められてるように聞こえない。」

「何それ!ひどい!ひどいよ英士!!」





結局がこっちに来られたのは、天使長って人とあの時の天使のおかげらしい。
これまで虐げられてきたに、どうしてここまで協力したのか、その真意はよくわからなかったけれど。

けれど、それでもはここにいる。
白い羽根があるわけでもなく・・・っていうか、って天使らしいとこそこしかなかったな。
あの天使が使ったような力を持っていたわけじゃなし、せいぜい最初の契約のみってところ?





「何英士?そんなに見つめないで!」

「・・・やっぱりエセ天使か。」

「何その呟き!なんかバカにしてない?!」

「うん。」

「そこは一応否定しようよ。」





が不満そうに顔をしかめる。
何だかそれさえも楽しく思えて思わず笑いがこぼれていた。





「ねえねえ!英士はどうして私のこと思い出してくれたの?」

「え・・・。」

「私への愛かな!ねえねえ!」

「いや、それはない。」

「ええ?!全否定?!私のこと好きなんじゃないのー?!」

「別にへの愛なんかじゃなくて・・・」

「なんか?!私への愛は『なんか』ですか!」

「うるさいよアホ天使。」

「もう天使じゃないもー
「黙らせて欲しい?」・・・ゴメンなさい。」





久しぶりに会ってもこれだ。
忘れられないはずだよ。そりゃあいつもの日常と思っても違和感だって感じるよ。
こんな奴が突如として消えたら、違和感を感じないはずがない。





「そうだ。ユンからの電話・・・。」

「ユン?」

「結人も一馬も桜井も、皆のことを忘れてたのに。ユンだけは覚えてたんだ。」

「ええ?!何それ?!」

「ユンの言葉がなかったら、俺だって思い出してなかったかもしれない。」

「じゃあユンは恩人だ!さすがユン!」

「でも・・・どうして・・・。」

「そうだね、天界の力が効かない人間なんて・・・
はっ!!

「・・・何か気づいたの?」

「い、いや、いやいやいや!ふっしぎー!これぞまさしく奇跡!!」





が明らかに挙動不審な動きをする。
ああ、何か気づいたなコイツ。都合の悪い何かを。





「さ、さあ、か、帰ろう英士!」

「・・・。」

「な、何してるの!ホラ、立って!」





軽々と俺の腕を引いて、俺を引っ張りあげる
あれ?これってもしかして・・・。





「ねえ。」

「な、何?!」

「聞きたいことが3つほどあるんだけど。」

「3つ?!多いよ!」

「1つ目。俺を軽々と引っ張りあげるその怪力は天使の力って奴じゃないの?」

「え?天使の力?あはは!関係ないよ!大体天使が皆力持ちっておかしいじゃん!
何言ってるの英士はー。」





あ、そうなんだ。
俺はてっきり天使の力か何かで、筋力増強してるのかと・・・。
聞いておいてよかった。危ない危ない。
興奮してるには近づかないようにしなきゃ。





「2つ目。挙動不審すぎるけど、秘密を一人でもってられないのなら、とっとと話したら?」

「なー?!誰が挙動不審デスか誰が!!」

「いや、お前が。」

「なーにを言ってますかー!この人はー!」

「・・・いいけど。じゃあ俺、一生聞かないからね。が秘密を俺に話したくなっても、絶対聞かないから。」

「じょ、上等だコノヤロ!別に秘密なんてないからいいもん・・・」

「・・・へえー。」

「ゴメンなさい。聞いてください。」

「最初からそう言えばいいんだよ。」





は周りをキョロキョロと見渡し、俺の体を引っ張る。
そして口を手で覆い、俺の耳元で囁いた。





「あのね!秘密だよ英士!」

「そんな勢いで話されたら、小声にしてる意味がない気がするけど・・・」

「ユンが私を忘れなかった理由、わかっちゃった・・・!」

「・・・どういうことだったの?」

「ホラ、私ユンに会ったとき言ったでしょ?天界には管理範囲があるって・・・。」

「・・・ああ、そういえば。」





確かにユンが日本に来たときに言っていた。
韓国から来たユンは、のいる天界の管轄範囲外だった。
だからに関する記憶操作が行われていなかった。





「でね、そういうことが起きちゃった時には、天界に申請を出すの。特例が出ましたって。」

「ああ、それで管轄の場所に記憶操作をしてもらうんだ。」

「そうなの。でも私それ、すっかり忘れてたよ。さっきビックリするくらいにサッパリ。」

「・・・。」

「あっぶなかったー!それが天界でバレてたら大目玉だよ。人間になって全て解決!やったぜ!」

「・・・。」





ああ、なんかつくづく。
わかってたけどつくづく思う。

コイツ、本当にバカだ。





「何その目!私がバカだって言いたいの?!」

「うん。」

「だからそこは一応否定しようよ!さんは悲しい!」

「こっちでそういうバカな失敗しないでね。」

「しないよ!私がそんな失敗をしょっちゅうしたりすると思う?!」

「思うけど、そんなにしょっちゅうしたら、制裁が落ちると思ってて。」

「・・・。」

「何?。」

「英士が言うと、シャレに聞こえない・・・!」

「ああ、シャレじゃないから。」

「・・・ギャー!!」





でもまあ今回だけは、がバカでよかったと思う。
だって本当にユンの言葉がなかったら、俺はを思い出していなかっただろう。
いや、いつか思い出していたとしても、こうして一緒にいることはできなかっただろう。

俺に怯えるように騒ぐを見て(ていうか、女としてギャーって悲鳴はどうなの)
俺は一番気になっていた三つ目の質問を投げかける。





「それじゃあ最後ね。もうは人間として暮らせるんだよね?」

「・・・っうん!」

「じゃあ、の人間としての設定ってどうなるの?このまま俺の家に行って母さんに不思議がられることはないの?」

「・・・。」

「・・・。」

「しまったあっ・・・!!」

「・・・。」

「どうすればいいのかな英士!私何も聞いてない!」

「・・・はあ。とことんバカだよね。」

「ええ!否定できない!さすがのさんでも否定できない!
でも聞いて。私もいきなり天界から落とされてビックリしてて何も聞く暇なかったとい
「ちょっとうるさいから黙って。」





の人間設定なんて知るはずもなかった。
かと言ってを一人、こんなところに置いていけるはずもない。

1ヶ月前の設定が残っていることを願って、俺たちは家へと戻っていった。

先ほど突然家を飛び出した俺に、母さんはどうしたのかと問い、
適当な理由でごまかすとため息をつきながら俺を家に招きいれた。





「母さん。」

「何?」

「あのさ、・・・なんだけど。」





まずは母さんはのことを覚えているのか。
が人間になったことで、彼女の記憶が戻ってくるなんて、
そんな都合のいい話はないのかもしれないけれど。一応、念のため問いかけてみる。すると。





ちゃん?まだ帰ってないけど?」

「!」

「何?どうしたの英士。」

がわかるの?」

「え?何言ってるのよ。貴方の幼馴染のちゃんでしょ?」





都合のいい話、あったよ。
まさかあの根性悪い天界が、そんな気の利いたことするなんて思わなかった。
けれど、それなら。はまた俺の家にいることができる。
俺は塀の後ろに隠れていたに視線を送る。





「・・・たっ!ただいまおばさん!」

「あら、おかえりなさい。ちゃん。」

「・・・お、おばさーん!!会いたかったー!!」

「あらあらどうしたの。迷子にでもなった?」





なんかあやし方が子供だよね。
一応いい年した子が迷子って・・・。つくづく母さんはに甘いんだから。





「そうだ、丁度よかったわちゃん。」

「え?」

「さっき電話があったの。貴方のご両親から。」

「・・・え、えええ?!」





の両親?そして何で母さんはさも当然のようにそれを言うんだ。
一体何がどうなっているのか、さっぱりわからなかったけれど。

一番訳のわからなそうな顔で固まるにため息をつきながら
彼女の手を引き、自分の家へと入っていった。









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