「いいのですか?天使長様。」
「何がですか?」
「のこと、わかっていたのでしょう?
彼女が郭英士にした契約の力の弱さも、管轄外の報告を怠っていたことも。」
「・・・さあ、何のことでしょうか?」
「・・・最初から、あの子を人間にするおつもりだったんですね?あの子の両親のことも・・・。」
「私には何のことやらわかりません。の方こそどうなのですか?」
「え?」
「最初はの相手など嫌がっていたのに、最後はとても仲がよさそうに見えましたよ?」
「・・・なっ・・・!冗談は止めてください!」
「ふふっ。私もそうだったのですが・・・は話せば話すほどに、惹かれていく子が多いんですよねえ・・・。」
「何をおっしゃっているんですか?あの子はイジメの対象で・・・」
「面白がっている子はたくさんいれど、本気で陰湿なイジメにあっているところなど、見たことはありましたか?」
「・・・!」
「ふふふ。」
「でも私は、あんな不真面目で成績が悪くてヘラヘラしてる子は好きではありません!」
「それで構いませんよ。私たちは平等に人間の幸せを祈りましょう。も含めてね。」
「・・・はい、わかっています。平等に、です。」
落ちてきた天使
ピピピピピピ・・・ピピピピピ・・・
携帯のアラームが鳴り響き、機械的な音でセットされた時間であることを主張する。
俺はいつものように布団から手だけを出して、頭の上にあるはずの携帯を探った。
「・・・?」
けれどいくら手を伸ばしても、そこにあるはずの携帯は見当たらない。
俺は仕方なく布団から顔をだす。
「英士、おっはよーーー!!」
「・・・おやすみ。」
「いや違う!朝だよ!朝だよ英士!起きてくださーいっ!!」
そこにいたのは機械的な音を響かせている携帯を手に持ち、満面の笑みを浮かべる。
何なの朝っぱらからこのテンション。ありえないんだけど。
ていうか低血圧の俺は朝からこんなイライラする行動を取られると・・・
ドカッ
「うるさい。」
「・・・英士、女の子にドカッで擬音はありえないから!いくらそれが枕であっても痛いものは痛いのよー?!」
「うるさいって言ってるのが聞こえない?」
「ゴメンなさい。」
が戻ってきてから、毎朝こんな調子だ。
あのときの天使が言ってた意味が痛いほどわかる。
「この子が毎日側にいるのよ?毎日騒ぎが起きて、うざくて仕方なくなるわよ?」
「英士ー・・・。英士くーん・・・。起きようかー。起きようねー。」
「・・・。」
まあ、手放そうとは思わないけれど。
「ちゃん、ご両親は明日一時帰国ですって?」
「はい!」
「よかったわね。寂しかったでしょう?ご馳走でお祝いしないとね。」
「へへへっ。ありがとうおばさん!」
あの日の母さんの言葉。
俺たちは驚きながらも、その真相を知る。
「さっき電話があったの。貴方のご両親から。」
その言葉は本当だったのだ。
何がどうなったのかはわからない。あまりにも都合が良すぎるとは思う。
だけど、かけなおした電話の先にはの本当の両親がいた。
外国にいたの両親は、失った記憶も戻り明日この町にやってくる。
あの日、泣きながら電話をしていたを見て、彼女がどんなに一人で苦しんできたのかを思い知った。
俺でさえ同情するような場面だったのに、両親に謝り続けるに彼女の母親の声が聞こえた。
『ちょっと!いつまでも泣いてるんじゃないわよ!私の娘ならしっかりしなさい!
ホラ、アナタも何か言ってやって!』
『か?いいんだぞ。悲しい時は泣いてしまって構わないんだから。
そういう俺も泣きそうっ・・・』
『何でアンタが泣いてるのよ?!いい?。
私たち、近いうちにアナタに会いにいくから!そのときも謝って泣いたりしたら教育的指導が飛ぶからね!わかった?!』
なんていうか・・・さすがの両親だと思った。
感動的再会も何もあったもんじゃない。まあ俺の時もそうだったけど。
それでもは泣きながら、幸せそうに笑っていた。
感動的な再会なんてなくても、それだけで充分だったんだろう。
「えーいし!学校学校!遅刻するぞう!!」
「・・・。」
「何?何にやけてるの英士!」
「別ににやけてなんてないよ。」
「英士がにやけるなんて!おばさん!何かが起こる予兆かもしれない!気をつけて!!」
「あはは、外に吊るしていってあげようか?」
「ゴメンなさい。」
「何でも謝れば済むってもんじゃないよね・・・?」
「ゴメンなさ・・・ぎゃー!おばさーん!英士が怖いよー!」
「コラ英士。ちゃんを怖がらせるんじゃないの!」
だから俺は何もしてないんだけど。
あえて言うなら、を少しでもまっとうな人間にしてあげようとしてただけで。
まったく皆、に甘いんだから。
「あー!!結人!一馬!おはよう!!」
「お!おはようちゃん!」
「お、おはよ。」
「・・・むー?聞こえないよ一馬くーん?!」
「おはよう!」
「・・・成長したな一馬め!へへっ!おはよっ!」
「英士もおっす!」
「ああ、おはよう。」
のことを忘れていた皆の記憶も全て戻った。
勿論一馬がを怖がっている辺りも全て。
それまでの経験がものを覚えさせるというか、一馬もの扱いになれてきたようで
ここ最近では一馬がにビクつく回数は明らかに減っている。
そして。
「きゃわー!将だーー!!」
「待った。」
「ぐえっ!何、何なの英士!」
「風祭って桜井と付き合いだしたって言ったよね?」
「聞いた聞いた!嬉しかったなー!よくやったぜ栗色ちゃん!って感じで!!」
「彼女がいる男に抱きつくってどうなの?」
「えー。いいんじゃーん。将に彼女ができても将は私のオアシス!そこは変わらないのだ!」
「・・・はー。」
それで桜井がまた二人の仲を気にするとか・・・いや、それはないとしても。
でも羨ましがったりはするんだろう、しかもそれを口に出してしまいそうだ。に毒された桜井なら。
それに、もうひとつ。
「・・・じゃあ、彼氏のいるのに他の男に抱きつくことは?」
「・・・へ・・・?」
「それはどう思う?」
「・・・え、えーっと・・・。」
「・・・。」
「・・・ダメ・・・かな・・・?」
「・・・かな?」
「ダメです!」
「わかればいいよ。」
それに、いつまでも風祭がのオアシスじゃ俺が困る。
うるさかっただけの時はいいエサ話相手になっていたけど、今はもう違うんだから。
「言っておくけど、俺は独占欲強いから。それに耐えられないならいつだって離れていっていいよ。」
「・・・え、英士!それは・・・それはつまり英士が私のオアシスに・・・!」
「ならない。なれない。なりたくない。」
「何その三段活用・・・!!」
のバカみたいな行動に、やっぱり結人も一馬も何も言わずに先に部室に行ってしまっていて。
久しぶりに会った風祭へのバカみたいな叫びも止まなくて。そんなを水野が呆れながら見ている。
あの日、空から降ってきた天使は俺の日常をガラリと変えてしまった。
騒がしい日常。こんな日常、望んでいたものじゃないけれど。
それでも楽しいと感じ、自然に笑っている自分がいる。
こんなに騒がしくて、自分勝手で、周りに迷惑ばかりかける奴を好きになるなんて。
しかも天界と人間界だなんて、夢みたいな話まで聞き、記憶まで消されるなんて体験までして。
「なんてやってる間に時間ないよ英士!」
「俺のせいみたく言わないでよ。全部のせいだから。」
「なー!人のせいにするんじゃありませんっ!!」
こんな非日常。
けれど、これからはこれが俺の日常になっていくんだろう。
「英士!」
「何?急ぐんでしょ?」
がその場に立ち止まって俺の名を呼ぶ。
彼女は満面の笑みを浮かべて。
「大好きだよ!」
そう言って、走り出す。
全く、本当に何でも突然なんだから。
「。」
「へ?」
けれど、そんな彼女に振り回されてばかりじゃ悔しいから。
「俺も好きだよ。」
たまには俺も、振り回してみようかなんて。
真っ赤になって歩みまで止めてしまったを見て笑う。
「ギャー!恥ずかしい!顔から火が!火があ!!」
「もうちょっと可愛らしい反応できないの?」
そうしてこれからも始まる。変わらない日常が。
君が側にいる日常が。
後悔なんて、しない。
「やー、英士がこんなこと言うなんて、熱でもあるんじゃないの?その笑顔にも裏がありそうで怖いです!」
「・・・ないよ。、疑心暗鬼になりすぎ。俺を見習って素直に受け止めてみたら?」
「え、何それ冗談?」
「ケンカ売ってるよねさっきから。」
「ぎゃわー!嘘でーす!!ゴメンなさーい!!」
・・・多分、きっとね。
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