変わらない日常。





物足りなさを感じている自分。





その理由もわからないのに。
















落ちてきた天使
















「英士ー!おはよーっす!」

「おはよう結人。」





部活の朝練に向かう道のり。
同じ時間帯に、同じ方向の結人に会うのはいつものことだ。
そして、このパターンだと大体・・・。





「おはよ、英士。結人。」

「おっす一馬!今日もナイーブそうだな!」

「何だその挨拶!」

「おっす一馬!今日もリンゴ食べてきたか?」

「言い直す意味あんのか?!」

「まあまあ一馬。いつものことだし本当のことじゃない。」

「さり気にお前も俺をバカにしてるよな?!なあ英士?!」

「まさかまさか。」





朝の同じ時間帯に、丁度俺たち3人が合流して。
結人の挨拶に始まり、一馬がそれに反応し、俺は状況を楽しむ。
こうしていつもの日常が始まる。





「なあなあ、聞いた?!」

「何を?」

「風祭とみゆきちゃん、ついに付き合いだしたらしいぜ!」

「へえー・・・。」

「そ、そうなのか?!」

「何だよ一馬、気になるのか?だよなー。同じ天然の風祭に彼女が出来たらお前も焦るよなー。」

「誰が!別に俺、女に興味なんてねえし!」

「あ、そうなの。じゃあ男・・・」

「男にも興味ねえよ!」

「英士は興味なさそうだなー?」

「まあ、どうでもいいことだし。」





風祭と桜井が両思いだろうってことは周知の事実。
今更驚くことじゃない。けど。
いつまで経っても進展する想像ができなかった二人。
桜井の気持ちにずっと気づくことのなかったサッカーバカの風祭と、
引っ込み思案でそんな風祭の鈍さに右往左往するしかなかった桜井。

そんな二人がどんなきっかけで付き合いだしたのだろう。
興味があるとしたら、そんな小さな疑問くらいだ。





「あれ?でも英士、あの二人のこと結構気にしてなかったっけ?」

「は?何で俺が・・・。」

「・・・だよな。あれ、何で俺こんなこと思ったんだっけ?」

「寝ぼけてるんじゃないの結人。」

「寝ぼけてなんかないっつの!つーかそうだよな。英士が仲良くもない風祭とかみゆきちゃんとかを気にするわけないよな。」

「そうだよ。何言ってるの。」





全く何を寝ぼけてるんだか。
ただでさえ人の世話なんて焼くタイプじゃないってのに。
風祭と桜井がどうなろうが俺の知ったことじゃないし、気になんてするはずもない。





「でもあれだな!風祭に彼女が出来て悲しむのは一馬だけじゃねえよな!」

「何で俺が悲しむんだよ!関係ねえっつってるだろ?!」

「他に風祭のこと好きな子なんていたっけ?」

「水野だよ水野!アイツ、なんだかんだで悔しいと思うぜ!」

「ああ、心底どうでもいい。」

「いっつも一緒だったもんなあいつら。それこそ禁断の愛かと思うくらいに!」

「止めてよ、誰に影響されたの。」

「言ってたじゃんかー!って・・・誰がだっけ?」

「結人、そういう趣味があったんだ。ふーん。」

「止めろ!俺は普通だ!一馬と違って女の子が大好きです!

「いや、いらないよそんな宣言。」

「ていうか俺がそういう趣味みたいに言うなよ!」





どうも最近の結人はおかしい。
テンション高いし、訳のわからないことばっかり言うのはいつものことだけど。
何ていうか、その質が違うっていうか・・・。まるで誰かの影響でも受けたみたいだ。

俺の知らないところで、影響を受ける誰かにでもあったのかな。
決していい影響とは思えないけど。





















「・・・桜井?」

「あ、わわ!郭先輩・・・!」

「どうしたのこんなところで。ああ、風祭に用とか?でもアイツのクラスは別だよ。」





昼休み、教室を出ようとするとそこには1年の桜井が所在なさげに佇んでいた。
1年の桜井が2年の教室に来る理由なんて、大体想像ができる。
女子サッカー部キャプテンの小島か、付き合うことになったらしい風祭に用があるのだろう。

けれど、ここはC組。
風祭も小島も別のクラスだ。そんなこと、桜井は当然わかっているはずだけど・・・。





「・・・そうですよね!何で私このクラスの前にいたんだろう・・・。」

「・・・?」

「ご、ごめんなさい!何でもないんです。し、失礼しますっ。」

「ああ・・・うん・・・。」





そう言うと桜井はそそくさとその場から立ち去ろうとする。
俺はそんな彼女の後姿を見て、思わず声をかける。





「桜井。」

「は、はい?」

「風祭と付き合うことになったんだって?」

「あっ・・・は、はいっ!!」

「・・・よかったね。」

「え、ええ?!ありがとうございますっ・・・。」





桜井が口をあけたまま、驚いたように俺を見た。
それもそのはず。だって俺は桜井とは部活が同じだというだけで何の関わりもない。勿論、その相手の風祭とも。
そんな俺が彼女に祝いの言葉を口にするなんて。それは驚くだろう。
だけど、俺自身だってそんな行動をとった理由がわからなかった。

他人の恋なんてどうだっていい。
ましてやそれが、俺に関わる人間でないのならなおさら。
どうだっていいと思ってた。気になんてしていなかった。
なのに俺はなぜ今、二人が付き合って嬉しいとそう思っているのだろう。





「・・・おかしいな・・・。」

「え・・・?」

「いや、こっちの話。」





疑問の表情を浮かべてそれでも祝われたことが嬉しかったのか、桜井は笑顔で1年の教室へ戻っていった。
俺も少しだけこの感情の意味を考えたけれど、結局答えは出ることはなかった。
チームメイトとして、少しは他人の幸せを祝う気にでもなったのかもしれない。
ちょっとした心境の変化ってところだろう。何てことはない。何も、意味なんてない。






















過ぎてゆく、変わることのない日常。





「英士英士!見てこれ!ちょー格好よくね?!」





居心地の良い場所。





「なあ英士、ちょっとだけ練習付き合ってくれねえ?」





特別なことなど何もない、ありふれた日々。







俺はそんな毎日が好きだった。





いつも通りの学校の授業を終えて、

いつも通りにサッカーの練習に励む。

いつも通りに仲のいい奴らと帰路について、

いつも通りに自分の家に向かう。





そんな日常を望んでいた。








「おーい英士!何ボーっとしてんだよー!」

「大丈夫か?何かあったのか英士?」

「いや、別に。ちょっと考え事してただけだよ。」









なのに、







この日常に、望んでいた日々に、何かが足りないようなそんな気がして。










「考え事?」

「たいしたことじゃないよ。」










そう、たいしたことじゃない。





ちょっとした心境の変化。きっと、それだけ。






考えてもわからない、この感情に意味などあるわけがないのだから。












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