変わらない日常。
変わっていった日常。
けれど俺は確かに
今の日常を、変わってしまった日常を望んでいる。
落ちてきた天使
「・・・落ち着いた?」
「落ち着かない。」
「・・・そこは空気読みなよ。嘘でも落ち着いたって言うべきでしょ。」
「嘘はつくなって言ったの英士のくせに「何か言った?」落ち着きました。」
しばらく泣き続けていた。
ようやくその泣き声も止み、体も震えなくなっていた。
だから俺が優しく聞いてあげたって言うのに、本当空気が読めないよねは。
「じゃあも落ち着いたことだし、本題に入ろうか。」
「・・・。」
が何か言いたそうだ。まあ無視だけど。
だってここで反応したら、またくだらない時間が使われてしまう。
俺たちには時間がないんだ。だから仕方なく無視。
「はつまり俺を好きになったら、ましてや俺と両想いになったら、俺が不幸になるって思ってたわけだよね?」
「・・・。」
「まあ確かに予想外だったけどね。
が俺を好きになるのはともかく、俺がを好きになることなんてありえないし。」
「英士!私何かひどいこと言われてマス!」
「でも、何がどう転んでなのかわからないけど、ありえないことが起こった。」
ありえるわけないと、その想像さえしなかった。
俺の穏やかな日常を壊したトラブルメイカー。
同情やちょっとした情は沸いたとしても、それが恋愛感情になるだなんて思ってもみなかった。
「。」
それでも今、俺は。
「俺は、不幸になんてならないよ。」
彼女ともっと、ずっと一緒にいたいと。
そう、思ってる。
「だっ・・・だけど・・・!これが原因で英士に天界から罰が落ちてきたら?」
「知らないよそんなの。想像もできないし。」
「た、例えばこのまま私と結婚して、子供ができたら?!
私と同じことになっちゃうかもしれない・・・!英士につらい思いだってさせちゃうかもしれない!」
「気が早いな。そんなに気にするなら、子供を作らなければいいんじゃないの?」
「何を言うの英士!私、子供欲しいもん!」
「別に家族計画の話をしてるわけじゃないんだけど。」
危ない。また話が飛ぶところだった。
ていうかそんな先の話を主張されてもこっちが困るんだけど。
「結婚して子供が生まれたら・・・側にいてあげるんだもん・・・!」
「・・・なるほどね。じゃあ力を使わないように躾けてやればいい。」
「でも私は使って・・・ばれちゃったのに・・・。」
「大丈夫。絶対力を使わないように、体に叩き込めばいいんだから。」
「黒い!笑顔が黒い!!でも何だか頼もしいよ英士!」
正直結婚とか子供とか、そんな先の話なんて想像もつかないけれど。
もし本当に彼女の言うとおりになったとしても、策はいくらだってあるはずだ。
まだ起こってもいないことを気に病んで、立ち止まってしまうなんてバカみたいだから。
先ほどまで泣きはらしていた彼女が嘘のように、普段の笑顔に戻ってゆく。
そんな彼女の姿に、一番ほっとしていたのは俺自身だっただろう。
「・・・でも・・・やっぱり・・・」
「くどい。は俺と一緒にいたいの?いたくないの?」
「一緒にいたいよ!」
「それだけわかってれば充分でしょ。」
「!」
が驚いたようにその場に固まって、言葉を失った。
俺はそんな彼女を気にもせずに言葉を続けた。
「じゃあ、話もまとまったところで。これからどうすればいい?」
「え?」
「え、じゃないよ。俺は天界ってものを知らない。の母親のように、がここに残る為にはどうしたらいいわけ?」
「・・・。」
「?」
「それが一番の問題じゃんか!どうしよう英士!!」
「え?問題ってそれが最初から問題でしょ?今まで何を話してたと思ってるの。」
「私たちの愛と葛藤について。」
「面白くない。ちゃんと真面目に話してよ。」
「いや、真面目なんだけ「今のが真面目だって言うなら俺にできることはもう何も「さあ話しましょう!真面目にネ!」」
何だ愛と葛藤って。
そんな昼メロのタイトルになりそうな台詞はかないでよ。
「まあでも・・・の母親は任務を終えてからも、こっちに来てたんだよね。」
「うん・・・。そうなんだけどね・・・。」
「何?」
「お母さんだから出来たことであって・・・普通の天使にはできることじゃないよ。
ましてや私、天使見習だし・・・。」
「そこはどうにかしてよ。」
「ええ?!フォローなし?!俺が助けてやるとかロマンチックな台詞もなし?!」
「だってどうにもできないだろ?俺は天使じゃないから天界には行けない。
だったらに頑張ってもらうしかないでしょ。」
「ぐっ・・・正論・・・!正論だけどさっ!
もうちょっとさ!俺がついてるから大丈夫だ!みたいなさっ!」
「俺がそんな台詞を言ってるの、想像してみて。」
「・・・。」
「・・・。」
「怖っ!!」
「失礼だな本当に。」
そんな夢みたいな台詞よりも現実が大事。
実際俺たちには時間がなくて、これからどうすればいいのかもわからない。
俺がどんなに頑張ったって、天界なんて想像上のような世界に行けるはずも無いんだろう。
それならば前例があるが動くのが妥当。つまりはもう、に頑張ってもらうしかないってことなんだよね。
「・・・それができたとして・・・本当にいいの?英士。」
「何が?」
「私と一緒で・・・きっと、いっぱい迷惑かけるよ・・・?」
「ああ、既にかけられてるから変わらないし。」
「ええ?!」
「かけられすぎて、それがないと物足りなさを感じちゃうくらいにね。」
「!」
はまだ自分を責めてる。
だから思う。
自分といて幸せになれるのか、と。
確かに最初は迷惑だと思った。災難だと思った。
だけど。
「。」
「・・・何・・・?」
「二人とも、不幸なんかじゃなかったと思う。」
「!」
「楽しかったんでしょ?の両親も気持ちは一緒だったんじゃないの?」
そうじゃなければ。
その頃を思い出すの表情が優しく、あんなにも嬉しそうにはならないだろう。
たった一人の冷たい場所で、それでも笑っていられたのはその頃の思い出があったからだ。
その幸せを作りだした人たち。
がそんなに幸せだったと思える場所を作った人たちが、幸せでなかったはずがない。
「待ってるから。」
「・・・っ・・・。」
「俺が待ちくたびれる前に、戻ってきなよ。」
「・・・うんっ・・・!」
「うわっ!」
頷きとともにが俺に抱きつく。というか、飛びついてきた。
後ろに傾きそうになった体をなんとか持ち直して、俺も彼女を抱きしめた。
「私、頑張るから・・・!待っててね英士!」
「頑張りすぎて空回りしないようにね。」
「何言ってるの英士!いつ私が空回りなんてしたの!」
「いや、いつもでしょ。」
「何を・・・きゃあ!」
「?!」
反論の言葉を返そうとしたの言葉は、強い光に遮られた。
夜も更けた今、差し込むはずのない強い光が俺たちを照らす。
「久しぶりね。」
「・・・委員長!」
「やってくれるわねアンタ。問題児だとは思っていたけど・・・まさか人間を好きになるだなんて。」
その光の中心にいる少女は、金髪で髪の長い・・・まさにおとぎ話に出てくる"天使"と言える外見をしていた。
その背中にはと出会ったときに見た、白い羽根がある。
聞くまでもない。
目の前に現れたこの少女は。
「アンタがとろいから迎えに来たわよ。。」
が俺の服を強く握りしめ、俺は宙に浮かぶ少女を見上げた。
少女は優しげな風貌とは裏腹に、冷たい視線と無表情を崩すこともないまま、ただ俺たちを見下ろしていた。
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