ようやく聞ける彼女の本音。





心に引っかかっていた、その表情の意味は。

















落ちてきた天使

















ガチャッ!ガチャガチャ!!バターン!!





「はあっ・・・はあっ・・・!」

「・・・?!何、どうしたのそんなに慌てて。」

「えっ・・・ええ、英士っ・・・!!」





慌しく家のドアが開き、そこに立っていたのは予想していた人物。
息を切らせ、今にも泣きそうな顔をしながらが俺の名前を呼んだ。

俺と別れて一人で走り出して。
俺をごまかすことなんてできないってわかっただろうか。答えは、見つかったのだろうか。

息を切らすほどの全速力で走って帰ってきたんだろう。
だって俺たちには時間がない。もそれをわかっていてこんなに必死で・・・。





「わーん英士!!よかったーーーー!!」

「よかったって何・・・」

「もうここにたどり着けないかと思ったよーーー!!」

「・・・は?」





そう、俺たちには時間がなくて。
そのわずかな時間ではきっと答えを・・・





「何も考えずに走ってたら、いつの間にか見たことのない場所になってるんだもんさー!
このうちの電話番号も覚えてないし・・・!もう帰れないかと思った・・・!うわーーんっ!!」





・・・うん。そうだよね。
コイツを常識で考えちゃダメなんだった。俺もまだまだ甘いね。





「でも落ち着いてよく見てみたら、一本隣の道を行けばいいだけだった!
道が一本違うだけで世界も違うんだね!恐ろしいね英士!!」





うん。恐ろしいのはお前の行動だけどね。

つまりはご近所で道に迷って半泣きで走り回ってたわけだ。
なんて無駄な時間の使い方だよ。





「怖い思いしたらお腹すいちゃった!ご飯は?」

「・・・用意してあるけど。」

「あれ?おばさんは?」

「近所の集まりで出かけてる。って朝にも言ってたけど?」

「あや!そうだったっけ!」





なんていうか・・・いつも通りすぎて拍子抜けだ。
滅多に見せない真剣な、複雑な表情で走り出していったさっきのが嘘のよう。





「英士は食べた?」

「まだ。」

「じゃあ一緒に食べようよ!」

「いいけど・・・。」

「でね。私の話・・・聞いてくれる?」

「・・・いいよ。」





ああよかった。道に迷ってただけじゃなかったんだ。
これでいつも通り何もなかったかのように終わらせようとしてたら、危うく鉄拳でも飛ばしてしまうところだったけど。













母さんが用意してくれていた夕飯を電子レンジで温めて、テーブルに並べる。
は普段と変わらない態度で俺に話をしているつもりだろうけれど、少しの違和感。
これから話すことに緊張しているのだろう。





「おばさんの手料理はおいしいね!時間が経ってもデリシャス!!」

「ああそう。それはよかったね。」

「そうよ!毎日こんな料理が食べられるお母さんがいて幸せよ英士!大切にしなさいね!」

「・・・。」





夕飯を食べ始めても、のくだらない話は続く。
けれども心の準備というものが必要なんだろう。
彼女が本題に入るまで、俺も特に話を切り出すこともなく彼女の話に適当に頷いていた。





「あ、そうだ!さっき道に迷ったって言ったじゃない?その前に栗色ちゃんに会ったんだよ!」

「へえ。」

「あの子はもう本当にいい子だよね!これからも絶対大丈夫!」

「・・・そう。」

「私が手助けするはずの子だったのに、元気づけてくれたんだ。」

「・・・。」

「自分に正直になってって。一緒に・・・頑張ろうって言ってくれたよ!」





の表情が変わる。
真剣で、それなのに切なそうな、そんな表情。





「だから、私も全部話す。長くなるけど・・・聞いてくれる?」

「え、長くなるの?」

何その嫌そうな顔!!雰囲気ぶち壊し!!いつもはそれで私のこと怒るくせにー!」

「だっての話が長くなるのって、無駄な話が多いからでしょ?簡潔に話せば長くならないよきっと。」

「何ですかこの仕打ち・・・。でもさんは負けませんから!話しちゃうから!!英士がなんと言おうとも!」

「じゃあ最初から聞かないでよ。」

「ちょっと真面目ぶってみただけだよちくしょーう!!」





そんな神妙な顔して聞かなくたって。俺の答えはわかっているくせに。
の本当の気持ちを知りたいと言ったのは俺なんだから。





「・・・何から話せばいいのかな・・・。」

「ていうかここまで時間かけといてまだまとまってないの?さすがだね。」

「痛い痛い!爽やかな笑顔で毒はかないでください!」

「誰が毒はいてるの。失礼だな。」





だってそうでしょ?
時間がないっていうのに、人を突き飛ばして逃げ出したり、近所で道に迷ってたり
母さんの夕飯について熱く語ってる間に考えてたのってこれから話すことじゃないの?

俺がついつい注意(毒じゃないよ断じて)してしまうことは仕方がないことだと思う。





「わかった!さんも大人だから!天使だから!落ち着きを持ってわかりやすく説明するよ!」

「あ、いいよそんな気は遣わなくて。に落ち着きとかわかりやすさは求めてない。っていうか期待してないから。

「ぐはっ!ひどい!」

「どうでもいいけど早く話進めてよ。話が長くなる原因ってこれなんだから。」

「・・・半分は英士のせいだと思う。」

「何か言った?」

「いえ、何も。滅相もございません!ボス!!」





そうして軽く敬礼をすると、が何かを考えるように顎に手をあてた。
そして顔をあげ俺をまっすぐに見つめ、口を開いた。










「私も好きだよ。英士のこと。」











唐突に告げられた言葉。の顔にうっすらと赤みが帯び、照れたように笑う。
そして俺もまさか急にこんな言葉がくるだなんて予想していなかったから、驚いて言葉を失ってしまった。





「自分でも前からわかってた。だけど・・・その気持ちに気づかれるわけにはいかなかった。認めるわけにはいかなかったの。」

「・・・どうして?」





がまた笑った。
けれど今度は複雑そうな、悲しそうな笑み。
それはいつものの笑顔とは程遠い。





「私ね。人間界での任務を聞いたとき、ひとつだけ絶対にしないって決めてたことがあるの。」

「何?」

「人間を、好きにならないこと。」

「・・・それは天界の掟か何か?」

「ううん。そういう掟もないわけじゃないけど・・・それとは違うの。」

「?」








「私、人間と天使のハーフなんだ。」

「!!」








の言葉にまた驚く。
人間と天使の・・・ハーフ?つまりは天使と人間の子供ってことで。そんなことが、あるんだ。
けれど、そうして生まれたがいるってことは、俺の気持ちもの気持ちも無駄なものなんかじゃないってことじゃないの?
悲しそうに浮かべるの笑顔の意味はまだわからなかった。





「人間と天使の恋なんて素敵だよね。」

「・・・。」

「だけどね。」







「私が生まれたせいで、お父さんもお母さんも・・・不幸になっちゃったんだ。」








の言葉の意味も、これから何を話すつもりなのかもわからなかったのに。
そう言っては顔を俯け気味に目を伏せた。



その姿は、今まで見たどの彼女よりも儚く見えた。






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