馬鹿げてるとわかっていても
何もせずにいるよりは、よっぽどいい。
今まで自分勝手な彼女に振り回されてきたんだ。
今度は俺が自分勝手になったっていいでしょ?
落ちてきた天使
「・・・え・・・?」
「だから、が好きだから協力したんだよ。」
「・・・え・・・?」
「何回言わせれば気が済むんだよヘボ天使。その耳は飾り?」
「ええええ?!!!だ、だだだだって!何言ってんの英士!」
「どもりすぎ。少し落ち着けエセ天使。」
「だだだだだって!!英士がそんなこと言うなんてどうしちゃったの?!何?少女マンガでも読んだ?!」
「だからどうしてお前の思考はいつもあさってな方向に飛んでいくの?」
人が真剣に話してるって言うのに、何でそこで少女マンガだよ。
と真剣な話ができないって、絶対コイツの思考回路のせいだと思う。
いつもは呆れてそこで話が終わるけど、さすがに今回はそうはいかない。
「ぎゃー!はずかしー!私も英士好きだよ!!」
「・・・。」
「もう!最後の最後にそんなこと言うなんてキザだな英士!女泣かせめ!!」
「・・・気づいてそう言ってるんだか、本当に気づいてないんだかはあえて聞かないけど。」
「・・・え?」
「友達とか、仲間として好き、とか言ってるわけじゃないからね。」
「!」
「俺も何でかなんてわからないし、理解もできないし、本当ありえないと思うんだけど。」
「否定しすぎじゃない?!」
「それでも、どうも間違いじゃないらしい。」
なんか、ねえ、本当に呆れるけど。
気づいてしまった気持ち。今更隠したって仕方ない。
「俺はまだ、と一緒にいたいと思ってる。」
「・・・っ・・・!」
笑っていたの表情が徐々に崩れて。
笑っているのか、泣きそうなのかわからないような、複雑な表情。
本当、おかしい。こんなはずじゃなかったんだけど。
自己中で周りに迷惑ばっかりかけて。彼女には一体どれだけの人間が振り回されただろう。
そんな奴とこれからも一緒にいたいとおもうだなんて、人生ってわからないよね。
「ねえ。」
「・・・なっ・・・なん・・・何デスカ・・・?!」
「本当に明日、天界に帰るの?」
「・・・か、帰るよ?だって、帰らなきゃ・・・!」
「前に俺と離れることが嫌だって、そう言ったよね?」
「・・・言ったね。うん、そんなこともあった!」
「じゃあ帰らなければいいんじゃないの?」
思い出すだけで悲しげな表情を見せる場所。
は故郷だと言うけれど、こうして人間としても暮らせるのならわざわざ帰る必要なんてないんじゃないのかって。
単純にそんなことを思った。
「そ、そんなことできないもん!」
「何でわかるの?試してもいないのに。」
「だって天界と人間界だよ?!天使と人間だよ?」
「それが何?」
「・・・っ・・・。」
任務を成功させられる可能性がほとんど0となった今、がそこへ帰って何かいいことがあるとも思えない。
天界なんて知らないし、どんな掟があるのかもわからないけれど。
そんなこと俺にはどうでもよかった。
「俺が聞きたいのはさ。」
「・・・?」
「がどうしたいって思ってるのかってこと。」
驚いたように目を見開いて。
何かを言おうとはしてても、言葉が出てこないようだ。
そんなを見つめながら、俺はさらに言葉を続けた。
「無駄なところで後先考えずに突っ走るくせに、肝心なところじゃ弱気になるってどういうこと?」
「む、無駄なところって何!ちゃんと考えてますー!」
「・・・へえ。どの辺がちゃんと考えてるのかはさっぱりわからないけど、へえ。そうなんだ。」
「ああ、痛い。トゲトゲしいこの言いように胸がズキズキと痛みます・・・!」
が胸を押さえながら、顔を俯ける。
それはいつものやり取りだったけれど、少し違ったのはその後がすぐに顔をあげないことだ。
「・・・私、天界に帰る気満々だったのになあ・・・。」
「・・・。」
「英士がそんなこと言ってくれるなんて・・・思ってもみなかった・・・。」
顔を俯けながらも少しずつ。
いつもとは全然違った雰囲気で言葉を紡ぐ。その声は少しだけ震えていた。
「でも私、天界に帰るよ!」
「・・・それがの答え?」
「うん!大丈夫、天界も悪いことばっかりじゃないんだよ?何てったって天使たちの楽園!心配しなくていいよ英士!」
「・・・。」
があまりにもバカすぎて、ため息が出てくる。
「皆、言うの。私が天使になんかなれるはずないって。
落ちこぼれなんだから、そんなの諦めろって。」
強がってはいたけれど、あの時の彼女はいつも見せる表情とは、正反対の顔だった。
「・・・初めて、だったから。」
「何が?」
「一緒にいて、楽しいって思えること。」
天使と人間の成長にどれだけの違いがあるのかはわからないけれど。
一緒にいて楽しいと思えることが初めてだなんて、そんな場所が楽園だなんてあるわけがない。
「・・・天界に帰ることが嫌なんじゃないの。英士と・・・離れることが寂しかったんだ。」
が生きてきた時間の、きっとほんの一時。
突然現れて、周りを振り回して、俺に悪態をつかれて睨まれては縮こまって。
騒がしいだけの、何のことはない生活。
それなのにそんな小さなことで、俺と離れたくないと言った。
本当にバカだよね。
何がをそうさせる?どうしてそんなに意地を張る?
「けど、ヨンサへの気持ちは恋愛感情じゃないの?」
「うん!」
「本当に?全然?」
「そうだよ!」
たとえ俺への気持ちに恋愛感情がないとしても。
それでもそんな顔をする場所より、よっぽど居心地はいいはずだ。
「俺をバカにしてるの?」
「え・・・?」
「の嘘なんて、すぐバレるに決まってるでしょ。」
「う、嘘じゃないもん!わわわ私は・・・私はて、天界に帰るんだもん!」
ほら、またどもった。
指摘されると慌てて言葉がおかしくなってるんだから、誤魔化しきれるはずなんてないのに。
「・・・いい加減に・・・」
「・・・う、う、嘘じゃないってばーーー!!」
「っ!!・・・!」
「わ、あわ、ぎゃー!ゴメン英士!さんはちょっと出かけてきます!!」
誤魔化しきれないと悟ったは俺を突き飛ばして、その場を駆け出した。
彼女の怪力に突き飛ばされた俺が体を起こすと既に、の姿は遠くなっていた。
全く人を突き飛ばしておいて逃げるってどういうこと?
その行動じゃ自分が嘘をついてるって肯定してるようなものだよ。
最後の日を前にして、確かに俺の行動は馬鹿げてるとも思う。
人間じゃないにここに残れって言うのも、普通に考えれば無理な話なんだろう。
だけど、何もせずに終わることなんてできない。
こんな中途半端な気持ちのままで、終わらせることなんてできない。
走り出したを追いかけることはしなかった。
彼女はきっと帰ってくる。その時にこそ、本当の答えをくれるだろう。
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