自分でも理解できない感情。





けれど、気づいたからには進むしかない。

















落ちてきた天使
















「くっつけよう。あの二人。」

「まーた英士ってば何言って・・・
ええ?!何言ってんのー?!!





その声のあまりのうるささに思わず耳を塞ぐ。
なおも騒ごうとする彼女の顔を抑え黙らせる。
ああもう。何でコイツはいつもいつもいつもいつも・・・ああ、いや、うん。抑えよう。





「・・・うぁを・・・うあらっえ・・・」

「ごめん、何言ってんのか全然わかんない。」

「えひひをふぇいしぇええほーーー!!」

「・・・え?何?やります?ありがとうございます?」

「ひはほーーー!!」





何この生き物。ひはほって何ですか。
何かが本気で泣きそうになってたので手を離す。
は頬をさすりながら、驚いた顔で俺を見上げた。





「・・・あの二人って・・・?」

「そりゃあの二人だよ。」

「別にいいって言ったじゃん!それに・・・何で英士がそんなこと・・・」

「気が変わったんだよ。このまま二人残されて、がいなくなってから俺に協力求められても困るし。」

「そんなことな「にとってもいい話でしょ?『天使』になれるチャンスだよ。」」





が何か言うのを遮って、話を進める。
未だの表情は驚いたままだ。
まあそれもそのはずだと思うけど。今までの仕事になんて関わりたくないって態度でいたんだし。
そんな俺がいきなり協力的になるだなんて、そりゃ怪しくも思えるよね。





「・・・何?!何が狙い?!何を企んでるんですか英士さん!!」

「企んでなんかないよ。純粋にの手伝いがしたいって思っただけ。」

「ぎゃー!英士がおかしい!何か英士じゃないよーーー!!」

「・・・失礼だな。俺は俺だよ。」

「こんな優しくて紳士的なの英士じゃないよー!怖いよおかあさん!!」





本当に失礼だなこのアホ天使。
俺は元々紳士的だし優しいと思うよ。がアホなことばっかりしてたから多少扱いが乱暴になってただけで。





「二人がもうお互いを好きってのはわかりきってる。朝の態度でだって一目瞭然。
1日2日じゃ無理だと思ってたけど・・・。実は結構いけると思う。だったら試してみる価値ありでしょ。」

「・・・本当に、本気でそう言ってるの?」

「勿論。」

「な・・・何だか英士がすごく頼もしく見えます・・・!キラキラ輝いています!」

「輝きはいらないから。とっとと動きなよエセ天使。」

「キラキラ消えました!代わりにどす黒いオーラが見えてきました。・・・ってやっぱりいつもの英士じゃん!」

「・・・は?」

「嘘です。きらめいてます。星が見えます。すみませんでした。」





ようやくやる気になったらしいと休み時間に適当に話して。
結局は桜井に頑張ってもらうことにした。
朝の勢いのまま、告白してもらう流れに持っていこうと。
風祭だって断ることはないと思う。それも一目瞭然。
に対する態度とは全然違うし、桜井が風祭に近づかなくなったときもソワソワしてたし。

つまりは自分の気持ちに気づいていないだけ。本当にもう一押しのはずなんだ。



短い休み時間に話をしにいってもあまり意味はないし。
桜井に授業をさぼらせるわけにはいかない。(ていうか風祭とつきあわせたいから授業サボれとか言えない)
俺たちは放課後、部活が終わり帰ろうとしていた桜井を呼び止めた。





「ヘーイ!くっりいっろちゃーん!!」

先輩!どうしたんですか?」





何でこんなにテンション高いのコイツ。
一緒にいるの恥ずかしいんだけど。並んで立ってるの恥ずかしいんだけど。





「話があるのよ!ちょっと顔をお貸しなさい!」

「・・・はあ・・・。」





ねえ、何?緊張してるの?
それでそんな訳のわからないキャラになってるの?
ていうか緊張してるんだとしても、痛いよそのキャラ。





「あはは。先輩、その喋り方上條先輩みたいですね!」

「あら?そうかしら?ホホホホ!!」





ごめん上條。お前のキャラ痛いとか言っちゃった。
まあ悪気はないからさ。多分。











桜井を適当な場所に連れ出して、回りに人気がないのを確認する。
あとはに懐いているらしい桜井を説得するのはの仕事だ。

ここで俺は去ってもいいんだけど、何故か桜井がに相談をするときは俺も一緒にいることが多くて。
むしろ俺たちに相談みたいな形になってたから、俺がどこかに行く必要もなかった。
いや、別にここにいたいわけじゃないけど。大体キャラじゃないんだよね、女の恋愛に協力するとか。





「栗色ちゃん!」

「は、はい?!」





一人、ため息をつきながら思考にふけっていると、どうやらの説得が始まるらしい。
桜井の両肩を掴み、真剣な表情で彼女を見つめる。





「君ならできる!応援してる!」

「・・・は、はい・・・?!」





おかしい。その始まりはおかしい。
説得の全工程すっとばしてる。





「朝の君は実に見事でした・・・!」

「あ、朝?・・・あっ・・・。」





どうやら朝の風祭への台詞を思い出したらしく、桜井が顔を真っ赤にさせた。
桜井が勘のいい子でよかった。
これが風祭だったら話進まないよ。ていうか、説得以前に説明が下手すぎだよ。





「オアシスを渡すのはとてもつらいけど・・・。栗色ちゃんならできると思うの。」

「できるって・・・?」

「将と一緒に歩いていくこと。」

「!」





・・・付き合うでもなく、恋人になるでもなく。
一緒に歩いていくこと、だなんて、よくもまあそんな青春ドラマみたいな台詞考えつくもんだよね。

でも、風祭と桜井にはピッタリな言葉なのかもしれない。





「将はサッカーのことばっかりだし、将の側にいる人は大変だと思うんだよね。」

「・・・。」

「だけど栗色ちゃんなら将を幸せにできる。幸せになれる。私が保証する!」

先輩・・・。」





『運命の赤い糸』だなんて少女マンガのようなものが本当にあるのなら。
天界の力ってのが嘘じゃないのなら。の『保証』は本当に約束された未来。

俺はそれを知っているけど、簡単に保証された桜井は・・・。





「っ・・・っ・・・先輩っ・・・。」





感動してる。
とことん単純・・・いや、純粋な子だよね。





「だから、これからも頑張ってね!」





・・・ん?





「ありがとうございます!先輩!」

「うんうん。そんな潤んだ目で見つめられるとさん困るよ!」





・・・あれ?





「わざわざ呼び出してごめんね。」

「いえ、ありがとうございました!私、頑張ります!」





と俺に一礼して、桜井がその場を離れ・・・
って、ちょっと待った。告白は?それをしてもらおうってここまで呼び出したんじゃないの?!





「桜井!」

「え・・・あ、郭先輩・・・?」

「告白・・・しないの?」

「英士?!」

「え、ええ?!」





いつもほとんどが喋っていて、あまり口出ししない俺が彼女を呼び止めたから
桜井が驚きの声をあげて俺を見る。





「風祭はボーっとしてるから、早めに捕まえといたほうがいいよ。変な虫がつかないうちにね。」

「・・・はい!あの、私・・・。」

「・・・。」

「栗色ちゃん。英士のオーラに怯えなくていいから。自分のペースでいいんだよ?」

「なっ・・・。」





のことだから、告白のことなんて頭から抜けてるんだと思ってた。
だから俺はフォローのつもりで桜井を引き止めた。
なのに。何、言ってるんだコイツ。

期限は明日までなんでしょ?明日までにこの二人をくっつける必要があるんじゃないの?





「私、次の風祭先輩との練習の日に・・・告白しようと思ってます!」

「・・・うん。そっか!応援してるね!」

「・・・次の練習日って・・・?」

「はい、明後日です!」

「!!」





桜井は曜日を決めて、風祭と一緒に練習をしているらしい。
それが明後日。だけど。明後日じゃ遅すぎるだろ・・・?

再度軽く頭をさげて、桜井がこの場から去っていく。





「さくっ・・・」

「英士!」





そして再度桜井を呼び止めようとした俺を止めたのはだった。
俺は疑問の表情を浮かべてを見た。少しだけ、怒りもこめて。





「やる気になったんじゃないの?」

「そうだよ。」

「じゃあ何なわけ?その態度は。」

「・・・。」

「自分のペースでいいとか、告白が明後日だったわかってるのに応援してるだとか!」

「・・・へへ。」

「・・・笑い事じゃないだろ?!」





だんだんと怒りが増してきて。
俺は珍しく声を荒げてに詰め寄る。





「ごめん。ちょっと・・・ううん、かなり嬉しくて。」

「何が?!」

「英士が・・・必死になってくれることが。」

「!」





俺はこんなに怒ってるのに。
何、その気の抜けるような台詞。





「天使に必要なことって、何だと思う?」

「・・・え・・・?」

「人の記憶を操作できたり、この世界の魂を導く人もいる。世界を支配できるような、大きな力こそ全てって人もいる。」

「・・・?」

「だけど、私は思うんだよね。どんな小さなことでも誰かの幸せの手助けが出来たなら・・・それでいいんじゃないかって。」

「何・・・言ってるの・・・?」





が何を話したいのかがわからない。
ただひとつわかっていたのは、彼女の笑う顔がいつものバカみたいな笑顔じゃなく
幸せそうで、なのに切ない。そんな笑顔だったこと。





「他人の都合でせかされてする告白じゃ、栗色ちゃんも気持ちの整理なんてつかないよ。」

「!」

「ゆっくりでもいい。二人のペースで幸せになってほしいんだ。」

「・・・。」





が真面目な顔で、いつもとは違う笑みを浮かべてそんなことを言うから。
俺は彼女に何も返すことがができなかった。





「でも英士の気持ちは嬉しかったなぁ!へへっ!」

「本当、笑い事じゃないでしょ。あと1日だったのに。伸ばすとかできないわけ?」

「そこんとこ厳しいんだよね!融通きかない頑固頭ばっか・・・やばい!聞かれてたらどうしよう!!」

「・・・はあ・・・。」





もういつものに戻って。
いつものように俺を呆れさせて、ため息をつかせて。





「英士はやっぱり優しいよね。」

「は?」

「もうすぐ最後の日だって聞いたから、協力してくれたんでしょ?」

「・・・。」

「ありがとう!英士がパートナーでよかった!」





明日が最後の日だから?
別れの前に協力しようだなんて思ったって?
俺はそんなに優しい人間じゃないよ。
これだけ一緒にいて、まだわかってなかったの?

いくら情がうつったからって、わざわざ恋愛協力なんてして。
わざわざ告白の応援の現場に一緒にいて。
人の恋愛に首を突っ込んで、告白までせかすなんて。そんなことまでするはずない。

滅多に声を荒げたりしない俺が、怒鳴ったりするはずないでしょ?





「何か、勘違いしてない?」

「勘違い?」

「最後の日が近いから協力したわけじゃないよ。」

「・・・え?」










のこと、好きだからだよ。」











驚いてかたまった表情のと、表情も変えずに目の前の彼女を見つめる俺だけがいて。
静寂が流れたその場所には、風の音だけが聞こえていた。








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