押し込めて、認めようとしなかった本当の気持ち。
悔しいけれど、どうやら認めるしかない。
落ちてきた天使
「アーイラーブショーウーーーー!!」
「わあ!!」
「毎日こうしてるのに、未だに慣れないで慌てふためく貴方が大好きデス!!」
「・・・はは、ありがとう。」
いつもと変わらぬ調子で、相変わらずの暴走ぶりで。
明日にはここからいなくなるだなんて、全然思えない。
もはや毎日の日課となっている、タックル(抱きつきともいう)に、これもまたいつものように風祭がふらついた。
「よーっす英士!」
「ああ、おはよ。」
「今日も朝から大変だな・・・。」
後ろから声をかけてきた二人に、俺も肩を竦めながら頷く。
一馬に関しては一度の暴走に巻き込まれたからだろう。
何だかすごい哀れそうな、哀愁のようなものが感じられた。
「およ!栗色ちゃん!おはよ!!」
「お、おはようございます!先輩!か、風祭先輩っ!!」
「おはよう、みゆきちゃん。」
そして相変わらずの二人。
桜井も照れすぎだし、風祭は鈍感すぎだし・・・。
「栗色ちゃんも将の癒しオーラを浴びるといいよ!あ、でも基本的に私のだから!分けてあげるだけね!」
はバカだし。
「そ、そんな風に言わないでください!風祭先輩は先輩のモノじゃないんですからね!失礼ですよ!」
「おお!ゴメン!モノじゃないね!オアシスだね!」
「オアシスでもありませーん!・・・気持ちはわかりますけど。」
あ、なんか聞こえた。
桜井、完璧にに毒されてる。
「ありがとみゆきちゃん。でも僕は気にしてないから大丈夫だよ?」
「わ、私が気になるんです!先輩の言ってることもわからないわけじゃないですけど・・・。」
「?」
「風祭先輩、格好いいと思います!」
・・・言った!ついに桜井が面と向かって風祭に気持ちを伝えた。
それがのおかげだなんて思わないけど、間違いなく前進の言葉だ。
「・・・あ、ありがとう・・・。」
「あ、あわっ・・・ふぁいっ!!」
風祭が少し驚いた顔で桜井を見て、桜井の顔は真っ赤だ。
桜井が噛みまくって返事をしていることとかスルーできるくらい、かなりの前進なんじゃないの?
横にいる、生温かい目で二人を見つめるエセ天使の表情とかはなんか腹立つけど。
「おーおー、微笑ましいなぁ!」
「いきなり何言ってんだ?結人。」
「あの二人だよ・・・ってまだお子様のかじゅまにはわかんねえかぁ!」
「なっ・・・何だよ!何がだよ!」
「風祭もだけど、一馬も絶対鈍感だよな。」
「さっきから何訳わかんねえこと言ってんだよ!」
二人を見ていただけの結人にもわかるくらいなのに。
確かに桜井の気持ちに気づいてないのなんて、風祭と一馬くらいなんじゃないの?
「あれだな。ちゃんは鈍感な天然に弱いと見た!」
「ああ、風祭といい、一馬といい、そうかもね。」
「・・・はあ?」
一人訳がわからないという表情をする一馬はほっておいて。
結人の言うことも確かにそうだな、とどうでもいいことに感心した。
「でもちゃんには英士みたいな奴がついてないと、生きていけないよな。」
「は?何が?」
「だってあの暴走を止められるのって英士だけじゃん。ほっとくのは世の中の為によくないことだと思う。」
「わかってるなら結人が止めなよ。」
「だから俺には無理だってば。」
結人も何気にひどいこと言うよね。(全くその通りだと思うけど)
だけど、そう思うのも明日で終わり。
たくさんの人間を巻き込んだの暴走の日々に煩わされることもなくなる。
「まあ引いちゃうとこもあるけど、それもちゃんの魅力って奴?」
「そういうこと言うと、アイツは調子に乗るから言わない方がいいよ。第3のオアシスに任命されるよ。」
「うん大丈夫。ぜってえ言わねえ。」
「・・・。」
すごい真剣な目で宣言された。
ついでに一馬が怯えるような目でこっちを見た。
すごいね。オアシスって言葉で誰かを怯えさせるなんて、お前にしか出来ないと思う。
「大体ちゃんも英士がいるんだから、オアシスなんて探さなくていいのにな。」
「・・・何を言うのかな結人。」
「え?いや、怒るなよ英士!怖えよ!!」
「あはは、怒ってなんかいないじゃない。」
「怖い怖い!別にいいじゃんか!英士だってちゃん好きだろ?!」
「・・・は?」
また、結人までそんなことを言う。
ユンも結人も一体俺のどこを見てそんなことが言えるのかな。
なんてうるさいし、うざったいし、自己中だし、猪突猛進だよ?
そりゃ一緒にいて、彼女のそんな行動に慣れてきてたのは事実だけど。
「だから怖いってー!そう見えちゃうんだから仕方ないだろー?」
「おわっ!俺に隠れるな結人!」
「・・・俺はちゃんと英士、似合ってると思うぜ!・・・ってことで先行ってるな!!」
「バカ結人!待てよ!置いてくなーーーー!!」
・・・は?
俺とがお似合い?
何言ってるの本当に。そんな屈辱的な台詞を親友の口から聞くなんて思っても見なかったんだけど。
「・・・一馬。」
「お、おう?」
「一馬も・・・そう思ってるの?」
「え?」
「俺とがお似合いだとか、俺がのこと好きだとか。」
「え、あ、ええ?あの、」
あのさ一馬。
そんなに怯えなくていいから。どもりすぎだから。
まったくもう。親友にそんなに怯えるってどうなわけ?
「正直に言ってよね。」
「いや、あの・・・好きとか似合うとかは・・・わかんねえけど・・・。」
「?」
「アイツといる時の英士は・・・自然に笑ってるって気がする。」
オドオドとしながらも、はっきりと言ったその言葉に俺は言葉を失ってその場に固まる。
ユンも結人も一馬も。一体何を言ってる?俺のどこを見てるの?
「・・・お、俺も部室行こうかな!じゃあな英士!先行ってるぞ!!」
黙ってじっと見つめる俺を見て、一馬は慌てたようにその場から去っていった。
俺は無言のまま、視線を別の方向へ向けた。
そこには初々しすぎて見てるこっちが恥ずかしくなる二人と、その二人に笑顔で話しかけるの姿。
あんな我侭で自分勝手な奴。周りを巻き込んで、俺に迷惑ばっかりかける奴。
なんだかんだで世話役みたいになって、俺の気苦労は堪えなくて。
そりゃ、一緒にいて楽しいって、退屈しないなって思ったこともあるけど。
そこに別の感情なんて・・・あるわけ、なかったはずだ。
俺はあまり周りに『自分』を見せない。
だけど、数少ない俺をよく知る親友たちは、口を揃えて言うんだ。
「だってヨンサ、といるときすごく楽しそうだったよ?」
「・・・俺はちゃんと英士、似合ってると思うぜ!」
「アイツといる時の英士は・・・自然に笑ってるって気がする。」
長いと思ってた1ヶ月。
だけどあっという間に過ぎ去った日々。
能天気な彼女にイラつくこともあったし、呆れることもあった。
だけど一緒にいた日々は、彼女の心の内まで見えるようになって。
たまに見せる悲しげな表情とか。ごまかせてないのになんとかごまかそうとする往生際の悪さとか。
嘘をついてまで笑う顔とか。全部、わかってしまうようになった。
あれだけ一緒にいれば、それくらいわかるのは当たり前だと思ってた。だけど。
それは当たり前なんかじゃない。
俺は嫌いな人間はとことん嫌って近づかない。構ったりもしない。
そいつを知ろうなんて思わない。
「・・・毎回顔に出して俺を不快にするくらいなら話せば?」
何かしらの理由をつけて、彼女を知ろうとした。
彼女を知りたいと、思った。
一緒にいるのがいつの間にか自然になっていて。
あんなめちゃくちゃな奴を自分が気にするわけがないって思いこんで。
周りに口を揃えて言われるくらいに、俺はきっと『俺』でいたんだ。
本当の自分のまま、彼女の側で笑っていた。
気のせいだと、ありえないと押し込めてきた気持ち。
感じていた胸の痛みの正体。悔しいけど、認めるしかない。
「えっいっしー!気を遣って二人きりにしてきました!オアシス将を貸してあげるなんてダンチョウの思いでした!偉いー?!」
俺の元に駆け寄ってきたを無言で見つめる。
そんな俺の視線にも気づかず、はまた訳のわからないことをペラペラと喋り続けていた。
この気持ちに別の意味があったと気づいても、もう遅いのに。
いや、最初から持つべき想いじゃなかったはずだ。
彼女は違う世界の人で、いつかはそこへ帰ってしまう存在だった。
望んでいたのは変わらない日常だった。
なのにはその日常を体当たりで壊していき、俺に新しい日常を作った。
のいる毎日。
うるさくて、騒がしくて、出てくるのはため息ばかりなのに。
本当、俺もどうかしてるって思う。
それでも俺は。
に、側にいてほしいと願ってる。
天界がどんなところかなんて、興味はない。
天界だとか人間界だとか、そんなこと知らない。
その二つの世界に、どれほどの壁があるのかなんてわからない。
のことだ。どうせ帰るときだって、笑いながら行くつもりなんだろう。
感動的な別れなんて想像もできない。笑いながら、楽しかったとか言いながらあっさりと帰っていくんだ。
だけど、まだあるはずだ。俺ができること。
このまま何事もなかったかのように、あっさりといなくなるだなんてことはさせないからね。
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