わかっていたこと。





急に知らされた別れの日に、驚いただけ。













落ちてきた天使















「どういうこと?任務はまだ終わってないんでしょ?」

「いや・・・あのー。一応内緒にしとこうと思ったんだけどなー。」

「何を今更。全部話せ。」

「ええ!命令?!」





突然の言葉で俺を混乱させたくせに、何でコイツはヘラヘラ笑ってるんだ。

部活の終わった帰り道、辺りに知り合いもいないし。
理解できない天使やら天界の話をするなら、今は恰好の時間と場所。

こうなったら全部話してもらおうか。





「・・・まああれだね。任務にも期限があったりね。」

「期限?最初に俺に会ったとき1年俺の家に居座ろうとしてたよね?それって期限が1年ってことなんじゃないの?」

「そこは私の機転なんだぜ英士くん!」





何のキャラか全くわからないけどが勝ち誇ったように腕を組んでニヤリと笑った。
何だかムカついたので無言で睨みつけると、は目をそらしながらも言葉を続けた。





「ホラ。あれだ。うん、英士は私が英士の家に住むのを嫌がってたわけだ。」

「そうだね。心底ね。」

「あはは!直球だね英士!何だか涙が出ちゃう!!」

「下手な小芝居はいらないから。」

「誰が小芝居じゃ「どうでもいいから続けろエセ天使。」・・・うん。つまりね。」





本当、はどこかで話を止めないとすぐ脱線するから。
彼女と真面目な話が続いた試しがない。





「1年って言えば、1ヶ月が短く感じるよね?」

「・・・。」





つまり、つまりは。
俺は最初からこのエセ天使に騙されてたってこと?
の申し出を俺が最初から断ると見越して言った台詞ってこと?
確かに1年って言葉を聞いた後に1ヶ月って言われたら、それも仕方がないと思ってしまっていた。

なんかに騙されて怒るとか、呆れるとかじゃなくて。
なんか、すごい屈辱なんだけど・・・!!





さん的戦略!もしくはノリ!!」

「どっちだよ。」





一体何なの。
ちょっとした戦略かと思って(屈辱ながらも)少しは頭使うんだなって思ったのに。
ていうかだったらあの場のノリの方がすごいしっくり来るけどね。

だけど。
ノリだとか、戦略だとかはもうどうでも良くて。
彼女がここにいる期限は1ヶ月ということは本当らしい。





「ギリギリまで黙ってようと思ってたのになぁ。」

「・・・なんで?」

「だってしんみりしちゃうじゃん!後は英士が寂しがって泣いちゃったりね!!」

「あ、それはないから安心して。」

「即答デスカ!寂しくないデスカ!何デスカ!傷つきマス!」

「だから何キャラ?」





しんみりするも何も。
大体最初から1ヶ月で出ていってもらうはずだったし。
それがもう少しのびるのかなって思ってたけど、そんなこともなかっただけだし。
最初の約束通り。自称天使は俺の家を出て、天界に帰る。
そして俺にはいつも通りの日常と平穏が戻ってくる。それだけだ。





「ていうかさ。が俺に会った日から1ヶ月だよね?それって・・・。」

「あとー・・・2日?」

「・・・任務はどうなるの?失敗?」

「何事も最後まで諦めちゃいけないと思うの!」

「ああ、ほとんど失敗ね。」

「失敗じゃないってば!まだわからないですってば!」





適当な目算で考えていたけど、ちゃんと考えればあと2日で1ヶ月。
つまりは明後日にははいなくなるってこと。
そして風祭と桜井の二人がたった数日でいきなりくっつくことなんて考えられないから。
が最初に言っていた『天使になるための任務』も失敗ってことだ。





「・・・バカじゃないの?」

「いきなり何ですか!英士さん。」

「1ヶ月って期限があったのに、あんなにチンタラやってたわけ?」

「うっ・・・!」





当然浮かんだ疑問。
の言っていた"任務"もしないで遊びほうけて。
周りまで巻き込んで突っ走って。

似合わない悲しげな表情まで見せて、ちゃんとした天使になるって。
自分を見下してた奴らを見返すって言ってたくせに。





「・・・だって・・・楽しかったんだもん・・・!」

「それで職務放棄?そりゃ見下されても仕方ないね。」

「・・・う・・・。」





何かしらのヘリクツをつけて反論するが押し黙る。
どうやらこれには返す言葉もないらしい。





「・・・いいんだよ。」

「何が?」

「言ったでしょ?将と栗色ちゃんはいつか必ず一緒になるよ。」

「今、くっつかないといけないんじゃなかったの?」

「それは仕事。でも個人的に無理やりくっつけることはしたくなかったんだよね。特にあの二人はさ。」

「・・・。」

「きっかけを作れただけでも大成功ってことで!」

「強がりの言い訳にしか聞こえない。」

「あはっ!気のせいだよ英士!」





満面の笑みを見せるの言葉は強がりでも何でもないんだろう。
鈍感と引っ込み思案の二人。
だけど桜井はに引きずられて少し考えが変わったようだ。
もしかしたら『いつか』は結構すぐ側まで来ているのかもしれない。





「私にとってはすごく楽しい1ヶ月だったよ。英士に会えたこと、ずっと忘れない!」





そう言って笑うを見て。
目の前の彼女は笑っているのに、何故か胸にほんの少しの痛みが走った。





「天界に帰って、またバカにされるんだ?」

「あはは!そうだー!でも私は負けません!英士も私の勇姿を見守・・・るのはできないか!じゃあ、祈っててね!」





いつもと変わらない態度。
うるさいくらいに明るくて。呆れるくらいに表情がコロコロと変わって。
俺の態度に怯えて顔を強張らせて、でもすぐに忘れて笑ってる。

そんな彼女が時々する、悲しげな表情。
いつでも笑っているが思い出すだけで影を落とす。
そんな場所に、は帰る。



本当に笑えてなんかいない、その笑顔を残して。



わかっていたこと。
俺には関係のないこと。

喜ぶべきだ。望んでいた平穏が戻ってくるんだから。

だから気のせいだ。
小さな胸の痛みが、どんどんと大きくなっていってることなんて。





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