相性があう、あわない人間はいるけどね。
極端なんだよね、彼女の場合。
落ちてきた天使
「じゃあね二人とも!また来るね!」
「うん。気をつけて帰りなよ。」
「・・・。」
「?」
丁度今日でユンの連休は終わるらしい。
俺らが学校に行くのと同じ時間にユンは空港に向かう。
門の前で別れの挨拶をかわしていると、無言で俯いているに気づく。
「寂しい!また、また絶対会おうねユンー!!」
「っ!僕も寂しいよ!!また来るから!も今度僕のところ遊びに来てね!!」
二人で泣きそうな顔をして、熱い抱擁をかわした。
たかが数日一緒にいただけで、ここまで仲良くなるなんて驚きだ。
まあ確かに二人は話が尽きることもなく、語り続けていたけど。何故かずっと俺の部屋で。
あれだね。性格がきっと似てるんだろう。
それにの訳のわからない行動に疲れないでついていけるのもきっと、ユンくらいだ。
呆れるような目で二人を見ていると、ユンが俺の方へと視線を向けた。
「あれ?!ヨンサ拗ねてるよ!」
「は?」
「え?!英士!そんな寂しそうな表情しないで!ホラ!英士も一緒に!!」
「誰が寂しそ・・・ちょっ・・・!!」
の手が俺の腕に伸び、その怪力で引っ張られ、終いには彼らの抱擁に巻き込まれた。
え、何これ。苦しいんだけど。何かユンは面白がってるし。はまだ感動に浸ってるし。
とはいえ、の怪力から逃げようとしたって無理だし。無駄な体力は使いたくない。
俺は二人が飽きるまでほっておくことにした。
「ちゃ・・・あら?!三人とも仲良いわね〜!」
「・・・。」
家のドアが開く音がして、そこから母さんが顔を出した。
またも暢気に笑う母さんに返事をする気力も起きなくて。
「ちゃん。これ部屋においてあったわよ?今日は必要じゃないの?」
「あ!それ宿題だ!!ありがとうおばさん!」
ようやく俺から離れたは母さんのところまで走りより、それを受け取る。
ていうか意外。、宿題なんてしっかりやってたのか。
そんなことを考えていると、ユンもようやく俺から離れた。
そして笑みを浮かべて俺を見る。
「何?」
「っていい子だよね!」
「・・・は?」
「それに明るくて優しい。」
「・・・。」
素直に頷くことができないんだけど。
まあ全否定もしないけど、は基本、自己中で我侭だよ?
何故かユンには異様に優しかったけど、あれが毎日いるとなるとうざくなるよ?
なんて、満面の笑みを浮かべているユンに言うことなんてできなくて。
「ヨンサが結人と一馬以外であんな表情見せるなんて、驚いちゃったよ。」
あんな表情って・・・どんな表情だよ。
だから俺はに特別な感情なんて持ってないって言ってるのに。
「を大切にしてあげなよね!もう首絞めたりしちゃダメだよ?」
「・・・そんなことまで話してるのアイツ。」
「だって僕ら、ヨンサの話しかしてないもん!」
「・・・何で俺・・・。」
「僕ら、ヨンサのこと大好きだから!」
・・・まったく。ユンももよくそんな恥ずかしい台詞を堂々と言えるよね。俺には絶対無理だそんなこと。
ユンがケラケラと笑ってる。
ユンの顔をまっすぐに見れなくて顔を背けたことに、きっと気づいてるんだろう。
「もうすぐバスの時間だ!じゃあねヨンサ!もおばさんも!!」
「うん。」
「また来てね?ユンくん。」
「バイバイ!またねユン!!」
最後にもう一度、満面の笑みを浮かべてユンは韓国に帰っていった。
のことでいろいろヒヤヒヤしたけど(ていうか何で俺がヒヤヒヤしなきゃならなかったんだ)
どうにか何も起こらずに済んだみたいだ。
「ああー。寂しい寂しい!」
「・・・うるさいな。仕方ないことなんだから、いい加減静かにしなよ。」
「わかってるけどさっ!でも寂しいんだもんさー!」
ユンを見送った後、俺たちは学校に向かって歩き出した。
はまだ名残惜しいらしく、未だに寂しい寂しいと呟き続けていた。
がうるさいのは今に始まったことじゃないけど、しつこいくらいにうるさいな。
よっぽどユンが気に入ったらしい。まあ確かにユンはいい奴だけどね。
「ユンっていい子だよね!」
「・・・。」
「え?何?!いい子じゃないの?!」
沈黙したのはその言葉に頷けなかったからじゃない。
さっきのユンと全く同じ台詞を彼女が言ったからだ。
やっぱり二人は似た者同士だったのかな。いや、に似てるだなんて言ったらユンに失礼か。
「いい奴だよ。と違って。」
「何!何それ!最後のいらない!」
「いや、比較対象でもつけようかと思って。」
「そんな対象つけなくていいから!ていうか私もいい子です!!」
「・・・。」
「何その目!何その哀れみの目!!」
「『瞳は真実を語る』・・・っていうよね。」
「何、その格言!今言うところじゃないよね?!」
「いや、今しかないよね。」
「どういう意味だーーーー!!」
「あ、風祭。」
「何ーーー?!きゃー!!将ーーー!!」
学校に近くなったところで、水野と歩く風祭を見つけた。
のうるささも耐え難くなってきたところだし、ここからは風祭に押し付け任せよう。
「おはよう!将!!」
「わ!」
「!!」
が飛びつくように風祭の背後から抱きつくと、風祭と水野が驚きの声をあげた。(風祭にいたっては押しつぶされそうになっていた)
満面の笑みで風祭(限定)に挨拶をする。
「お、おはよう。」
「うん!」
「・・・お前、風祭には抱きつくなって小島に言われてただろ?」
「だってまだ部活じゃないもん。」
「そりゃそうだけど・・・風祭の迷惑も考えろよ。」
「・・・将、将!タレ目さんがヤキモチ妬いてるよ!将も大変だねぇ。男やら女やらに愛されちゃって!」
「何 の 話 だ ! ! 」
あーあ。可愛がってる風祭を取られて水野がご立腹だ。
なんて冗談は置いといて、ユンとは対照的に水野とはとことん相性合わないんだろうな。
「だけど将は私のオアシスなので!タレ目さんには渡しません!!」
「訳のわからないこと言ってるなよ!ていうか、タレ目さんっていい加減に止めろよ!」
「ちょ、何それ!そこは譲れない!!タレ目さんは絶対譲れない!!」
タレ目に拘る理由がさっぱりわからない。
いや、わかろうとしても無理だと思うけど。の場合。
「タレ目さんがどんなに将を愛してようと、私の愛は負けません!!
タレ目さんがどんなに将を可愛く思おうと「っ・・・郭ーーー!!」」
どうやら俺は水野たちの視界に入っていたらしい。
耐え切れなくなったらしい水野が俺の名を呼んだ。
全くもう。これくらいで耐えられなくなるってどういうこと?
これだから温室育ちのお坊ちゃんは困るね。俺はこれに毎日耐えてるんだけど。
「何?」
「をなんとかしてくれよ。お前、幼馴染なんだろ?」
「何で俺が。幼馴染とか関係ないでしょ。」
「をちゃんと扱える奴なんて、お前くらいしかいないだろ?ちゃんと見ててくれよ!」
「水野も扱えるようになればいい「無理だ!」」
なにその即答。根性足りなすぎだから。
まあ気持ちはわからないでもないけど。
「ちょっとちょっと!扱えるようにって何その危険物みたいな!失礼だな!!ね!将!!」
「あ、えーと、あはは・・・。」
苦笑いしかできないところが正直な風祭らしい。
優しいのも結構だと思うけど、そんなだからに調子に乗られるんだよ。
「郭・・・頼むから!」
「・・・貸しだからね。」
水野が俺に頼むなんて珍しい。
別にこんなこと、貸しとも思わないけど素直に頼まれごとを受けるのも何だか嫌だしね。
「。こっち来て。」
「何英士!私は将と・・・」
「・・・。」
「将と・・・」
「・・・。」
「将と・・・はまた部活で会おっか!じゃあねー!!」
無言で睨みつけると、風祭から離れすぐさま俺のところへ駆け寄ってきた。
なんていうか・・・何この素早い動き。そんな怯えた顔向けなくていいから。
まるで今まで俺がひどいことして、躾けたみたいじゃないか。そんなこと全くしてないからね?
「・・・まさに猛獣使いだな郭・・・。」
「・・・。」
茫然とする二人を残して歩き出せば、水野が呟く一言が聞こえた。
誰が猛獣使いだ。もう助けてやらないからね水野め。
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